数字が壊れた。すごい。


 

「ミスター・ゴッド」

『ミスター・加納ですね。そろそろ呼ばれる気がしてました』

「アビスボスを倒したら、深淵の叡智とかいうアイテムがでたんだが」

『……ひとつずつ行きましょうか。アビスボスですって?』


 俺は深度10の最奥で鳥居を見つけたことと、デブがいたことを話した。


『なんということですか……まさか、実在していたとは』

「知らなかったようだな」


 このミスター・ゴッドとかいう奴はチュートリアルの管理者でありながら、このダンジョンについて知らなさすぎる。

 なんだか怪しい気がするのは気のせいだろうか。


『アビスボスまで到達した人は今までひとりもいませんでした。鳥居に関しても同様です。それなのに、招致から48時間でボスを突破までする人間が現れるなんて驚きです』

「待て。48時間?」


 そんな経ってたのかよ。

 疲労回復しながら歩いてたせいで全然気が付かなかった。

 なるほど、疲労回復とは眠気、腹減り、そのほかすべて人間の活動において消耗する要素を補ってくれていたんだ。だから、気が付かなかった。

 疲労回復秘孔あまりにも強すぎでは?


『深度をもぐっていくと時間の流れが遅くなるらしいですね。だから、深度10ですごす1時間はこちらの2時間くらいに相当するのでしょう。それ以上の深度に潜るならなおさらでしょうね』

「深度100なんて、とてもたどり着けなさそうだ」

『でしょうね、おそらく深度15までいけるかどうか……いえ、すべてはミスター・加納次第なのですが。こちらとしましては、強くなっていただけるほど大悪魔を倒せる可能性が高まりますのでありがたいのですが』


 その後、話を訊くと一度、地上に戻ってしまってはもう一度、深度1から潜りなおす必要があるらしい。

 戻れば深度15への到達は絶望的だろう。

 

 俺は決める。


『わかりました。タイムリミットになったらサルベージをかけます。どれだけ深く潜っていても必ず引き上げて見せましょう』


 心強い宣言を受けて、俺はミスター・ゴッドとの会話を終わらせようとする。


「て、違う。深淵の叡智について調べてくれよ」


 ────────────────────

 深淵アーティファクト

 『深淵の叡智』

 万象の構造を理解できる深淵の秘宝。

 効果:アビススキル『深淵の鑑定』を獲得できる

 ────────────────────


『食べるといいみたいです』


 言われるままに俺は石ころを飲みこんだ。


 ──────────────────

 加納豊

 レベル67

 HP 4967/4967

 MP 1396/1396


 補正値

 体力   967

 神秘力  896

 パワー  921

 スタミナ 850

 耐久力  855

 神秘理解 340

 神秘耐久 322


 ユニークスキル

 ≪肉体完全理解者≫


 アビススキル

 深淵の先触れ

 深淵の鑑定


 スキル

 ゴッドフィンガー

 疲労回復秘孔


 装備品

 『追跡者の眼』


 ──────────────────


 ステータスのアビススキル『深淵の鑑定』を指でなぞる。

 

 ──────────────────

 『深淵の鑑定』

 消費MP:50,000

 世のすべてに対して深淵の知識を参照できる。

 効果:万象に解析をかけ理解できる。

 解放条件:深淵の叡智を飲みこむ

 ──────────────────

 

 ミスター・ゴッドに訊くと『それはとてつもない価値のあるスキルですね』と震えた声で言っていた。

 現状、ちょっと俺には使えそうにない。


『古代文献を参照する限り、深度90~以降で入手可能な深淵アーティアファクトのようですね』

「深度10で出たのはなんでだ?」

『理由はわかりません。ですが、ダンジョンではごくまでに天文学的な数値の気まぐれで、超稀少アイテムが浅い階層でレアドロップすることがあると聞いたことがあります。もしかしたらアビスボスは確定ドロップのなかに、レアドロップの確率が0.000001%くらいはあったのかもしれません。これはすごいことですよ。ミスター・加納は深淵に選ばれた者なのかもしれませんね』

「ふーん」


 全然言っている意味がわからない。

 もっとゲーム知識つけてくるんだった。


『とにかく、その力は危険ですので、異世界に行ってもだれにも教えてはいけませんよ、いいですね、ミスター・加納』


 念を押されたので忘れないようにしよう。


「それじゃあ、もう行くぞ」

『はい、頑張ってください。期待しています』


 さあ、行こう。

 時間が惜しい。

 

 その後、俺は驀進ばくしんしつづけた。

 ダッシュで通路を駆け抜け、目についた足跡も無視。

 感覚的に深度13くらいまでなら、今のレベルでもなんとかできそうな気がしたからだ。マッサージ攻撃には神秘力とパワーの補正値が乗っているため、レベルアップで十分に威力を確保できているらしいのだ。

 深度12へ降りても、やはり疲労回復秘孔を使えば一撃でモンスターを昇天させることができた

 

 さらに疲労回復秘孔による根幹的な疲労度解消と、レベルアップによるMP全回復の永久機関が途絶える気配がない。

 

 ──深度15


「着いちゃったよ」


 思ったよりずっとはやく深度15にたどり着いた。

 もっと進めそうだ。


 通路が広くなり、モンスターの感じが変わった。

 四足獣から身長2mくらいのデブに交代した。


 俺は変わらず疲労回復秘孔lv2──深度11で深淵の先触れを使って突破した──でデブの額を突く。

 デブが盛大に地面に倒れて、光の粒子になった。

 

「これは深淵アーティファクトか?」


 ────────────────────

 深淵アーティファクト

 『下僕の手記』

 万象からより多くを学ぶことができる。

 効果:獲得経験値量上昇5%

 ────────────────────

 

 汚い手帳には読めない文字がひたすらに殴り書きされている。

 持っていたら呪われそうだが、経験値アップがついている以上、ポケットに突っ込んでおいた方がいいだろう。


 だが、存在自体がレアな深淵アーティファクトのくせにたった5%の補正か。

 逆に考えれば、俺の≪肉体完全理解者≫がやばいってことか?


 その後も、俺はたびたび汚い手帳を拾うようになった。

 モンスターとしてデブが出て来るようになってからだ。

 そんなこんなで結局、深度20に到達してしまった。

 ポケットには『下僕の手記』が10冊も詰まっている。


 久しぶりに「ステータス」とつぶやく。


 ──────────────────

 加納豊

 レベル154

 HP 7,237/7,237

 MP 3,298/3,298


 補正値  

 体力   3,237

 神秘力  2,798

 パワー  2,952

 スタミナ 2,710

 耐久力  2,755

 神秘理解 720

 神秘耐久 648


 ユニークスキル

 ≪肉体完全理解者≫


 アビススキル

 深淵の先触れ

 深淵の鑑定


 スキル

 ゴッドフィンガー lv2

 疲労回復秘孔 lv2


 装備品

 『追跡者の眼』

 『下僕の手記』×10


 ──────────────────


 数字が壊れた。すごい。

 なんかもうやばいことになってるのだけわかる。

 

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