人類未到達
モンスターをマッサージしながらレベルをあげ続けた。
やたらレベルアップの音が聞こえるので、もはやいちいち確認しなくなったが、身体能力があがっている実感はあった。主に筋肉的な意味でだ。
「ま、待ってください、加納さん」
芽吹さんの顔色が悪い。
話を聞くと、だいぶ疲労がたまっていたようだった。
ゴッドフィンガーを何度使っても取れない疲労値というものがあるらしい。
まあ、当然か。人間はゲームのキャラクターではないのだから。
思えばもう深度10まで降りてきていた。
時計を見やれば17時間ほど攻略を続けていることに気がつく。
我ながらおかしなほど長時間動き続けている。
この不思議な世界の補正値とやらがなければとっく異変に気が付けていただろう。
「わたしはいったん地上に戻ります」
ミスター・ゴッドの名を呼べば、チュートリアル会場に転移させてくれるとの事。
どこかにマイクでもついているのだろうか。
「どうやら、加納さんはまだ余力があるようですね」
「時間が惜しいのは事実ですが、俺も上りますよ」
「いえ! 結構ですよ! 加納さんの迷惑にはなりたくないです。だからわたしだけ戻ります」
俺と芽吹さんの間にレベル差が生まれてきたんだろう。
結果として体験する疲労に大きな差が生まれた。
気がつかなかった。悪い事してしまった。
「それじゃあ戻りますね」
「はい、気をつけてくださいね。チュートリアル会場には凶悪そうな人間もわりとたくさんいたので」
「あはは、わたしは殺し屋ですよ?」
そうだった。
むしろ一番危ない奴じゃないか。
芽吹さんはおかしそうに笑いながら手を振る。
すると光に飲まれて姿が消えていった。
魔法とは、かくも不思議なものである。
「ステータス」
静かな通路に俺の声がひびく。
────────────
加納豊
レベル32
HP 4263/4263
MP 750/750
補正値
体力 263
神秘力 250
パワー 253
スタミナ 240
耐久力 248
神秘理解 130
神秘耐久 110
ユニークスキル
≪肉体完全理解者≫
スキル
ゴッドフィンガー
────────────
かなりレベルがあがったな。
50レベルも夢じゃないだろう。
でも、最低でも50レベル必要って神は言っていた気がする。
となると、50では実際問題不足なのだろう。
やはりできるだけこのダンジョンでレベリングをしておいたほうがよさそうだ。
「ん、これは宝箱か?」
深度10にしてはじめて見つけたな。
開けてみると『追跡者の眼』というアイテムを手にいれた。
見た感じただのサングラスだ。実に黒い。
装着してみる。変わったところはない。
とりあえずステータスを開く。
なにかわかるかもしれない。
──────────────
加納豊
レベル32
HP 4263/4263
MP 750/750
補正値
体力 263
神秘力 250
パワー 253
スタミナ 240
耐久力 248
神秘理解 130
神秘耐久 110
ユニークスキル
≪肉体完全理解者≫
スキル
ゴッドフィンガー
装備品
『追跡者の眼』
──────────────
ステータスに装備品として追加されているが……これだけじゃわからないな。
今までのスキルみたいにタップしても効果が出てこないし。
仕方ないので、ヘルプとしてミスター・ゴッドを呼ぶ。
『はいはーい…………あれ、それどこです? ……あの、ミスター・加納、え、どこにいるんですか、それ』
「俺? 深度10だぞ」
それからしばらくして『嘘、まじで……?』と困惑したミスター・ゴッドの声が聞こえて来た。
「なにか問題があるのか?」
『いや…………なんでもないですよ』
「なにかあるだろう。その言い方。教えてくれよ」
『……実は深度10より先はまだ人間が到達したことないエリアなのです。これまで何回か人類最強の100名を招致したのですが、だれも1週間で深度10を越えた者はいませんので、そこから先は未知の領域なのです』
「なるほど。この先は存在するのか?」
『100階層までは確かに存在していると手元の資料にはありますね』
なら行くべきだろう。
効率的にレベルアップできるなら行くしかない。
「と、忘れるところだった」
『?』
「この『追跡者の眼』の効果を聞こうと思って呼んだんだよ」
『え? なにか見つけたんですか?』
「宝箱があったんだ。それを開けたら妙な物が……いや、まったく妙でもないんだが、見た目が名前負けしているというか……」
『まさか伝説の深淵アーティファクトですか?」
「いや、知らんが」
『待ってくださいね、いま調べます、なんて名前でしたか?』
しばらくして、ミスター・ゴッドは説明をはじめてくれた。
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深淵アーティファクト
『追跡者の眼』
深淵の追跡者の愛用したサングラス。
効果:モンスターの足跡を発見できる。
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簡素な説明だった。
ただ、意味はわかった。
迷宮のように入り組んだ通路に、なにやら赤い光る跡が残っているのだ。
それは左から右へと、だんだん鮮やかな赤色になるようにグラデーションを描いている。
おそらく直近の足跡は赤色で示されるのだ。
代わりに時間が経つほどオレンジや黄色へ薄まっていくのだろう。
俺は足跡を追いかけてモンスターにマッサージの押し売りをはじめた。
「ほら、ここがいいんだろう」
秘孔を突いて一撃で絶頂させて光の粒子に代わってもらう。
深度7を過ぎたあたりから遭遇率がさがり、10分歩いてようやく出会えると言った具合だったが、これで1分に一体くらいの頻度でエンカウントできるようになった。
これからは効率よくモンスターを見つけられそうだ。
いいものを拾ったな。
その後、マッサージ押し売り出会い厨と化した俺は深度10のモンスターをせん滅するまで狩り続けた。
疲れたら自身へゴッドフィンガーを打つ。
さながら自家製魔剤である。
もちろん限度はあるようだった。
芽吹さんが疲労でアウトしたように、ゴッドフィンガーでも回復できない根本的な消耗値があるらしく、無限に動けるわけではない。
もう24時間は攻略を続けている。
流石にそろそろ帰るか。そんなことを思った時、
ピコーン
スキル『疲労回復秘孔』を習得しました。
そんな声が脳内に響いた。
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