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なんだかんだと言いくるめられ、親父が持ってきた見合いの話は、結局俺がセッティングすることになってしまった。

修二が嫌だというのは想定内だったらしく、親父は引きずってでも見合いをさせると、鼻息荒く俺に言った。


「俺は知らねえからな」


そう言ったが、今度は母親を出してきて、俺に泣きつかせたのだ。

まったく本当に俺を操るのがうまい両親だ。

しかし、相手方の当人も見合いをしたくないと言ってきて、仲介人でもないのに、真ん中に入って調整する羽目になってしまい、頭を抱える。


「お互いに見合いをしたくないのだから、こんないい話はない」


修二の見合い相手は、銀行の頭取のお嬢さんで、父親同士は旧知の仲のようだ。


「私が言っても聞かないもので。どうでしょうか、花畑さんから断りの電話を入れてはいただけませんか?」


見合い相手の、沙耶より年下の女に泣きついた。


『おっしゃる通りですわ。わたくしから直接お父様に申し上げましょう』

「助かります」


いい意味で素直というか、単純というか、両家育ちにありがちなまっすぐさが、俺を助ける。


「もしよければ、当社の園遊会が近日催されますから、いらっしゃいませんか? 社員の余興もあったり、おいしい食事もございますから」

『え! よろしいのですか? 部外者のわたくしが参加いたしましても』

「どうぞ、どうぞ。私の招待客としてご参加下さい」

『よろこんで』


全く関係ない俺が、骨を折ることはない。本人に言わせれば、それで済む話だ。

園遊会をだしにして、親父と話をさせればいい。

ゲストを迎えるだけでもバタバタしているのに、五代家のいざこざまで舞い込んでしまい、沙耶とゆっくりと過ごす時間もなく、慌ただしい毎日が過ぎていった。

すると、沙耶と触れ合っていないための禁断症状が出始め、社長室であるにも関わらず沙耶を抱きしめ、キスをした。

まあ、朝と帰りもキスをしていたが、それは挨拶で、決まり事のようなものだった。

昼を一緒に食べくつろぐ一時、俺は社長室にいることも忘れ、沙耶を求めてしまった。

触れているだけで心が安定して、うまくいかないイライラも軽減できていた。


「疲れてますね」


目の下の隈が気になったのだろう。細く綺麗な指でそっとなぞられる。


「睡眠が上手に取れていないらしい」


何度も夜中に目が覚めてしまい、熟睡出来ていなかった。

風呂に入っていてもリラックスできず、沙耶に電話をする始末だった。


「可哀そう」

「慰めてくれるのか?」

「どうすればいいです?」

「こうして隣にいてくれればいいよ」


そう言った俺に彼女は、自分の肩をぽんぽんと叩いて、俺に休息をくれた。

沙耶がどう思っているか分からないが、出来れば一緒に暮らしたいと思っている。

それはまだ、時期早々なのは分かっているから、言い出せない。一緒に仕事をしていた月日は長いが、付き合いはまだ数か月で、そのうちデートが出来たのは数えるほどだ。

気持ちを優先して、ことを進めてしまうのは危険だと、自分を戒めた。



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