第2話 狂気は沸々と





永井孝太は明るく、周りにいる奴らとふざけている

僕とは正反対な彼は苦手なタイプだ

考えなしの言動や行動の数々

自分は中心だと思い込んでいる


僕の領域に入るのだけは勘弁して欲しいが永井はずかずかと入ってくる

クラスで目立つやつのよくやる行動の一つ

あまり目立たない奴をいじってくる

馬鹿にしているのか、コミュニケーションの一つだと思っているのか

「全員で楽しもう」という感じが腹立たしい

やられている人間がどんな気持ちなのか

永井には分からないのだろう


“目障りだ"


人に愛されるような人間だろうか



そこまで人が惹かれるような一面を持ち合わせているだろうか


自慢できるのはサッカーぐらいだろう


僕の見解ではサッカーをやっている奴は大抵ろくな奴はいない


永井が嫌いだからそう思ってしまっているかもしれないが



僕が永井を許せない理由は工藤由実と仲がいいからだ



積極的な人間は誰に対して同じように節することが出来る(表向きは)



最近、明らかに距離が近い



話の話題は就職に関してだろう

高校生3年生の夏、部活動の引退などがあり、一部を除いては大体が就職活動に向けてや進学のことで忙しくしていた



工藤は優等生だから進学にするのかと勝手に思っていたが、友達に「就職することにした」と言っていたので少し驚いた



就職することを決めた生徒は志望動機や自己PR、面接の練習などしている



その話を永井はここ最近、工藤とよく話している

「面接の練習の先生誰にした?」

「ここどういう感じの文章にした方がいいかな?」

という感じで話をしている



「工藤じゃなくてもいいんじゃないか?」

と密かに思うがまぁ、単純に工藤と話したいだけだろう




「付き合ってんのかな?」

そんなことがずっと頭に浮かぶ

打ち消しても打ち消しても


僕は嫉妬なんかしない

してもしょうがない


"諦めたのだから"



しかし、さすがに永井はない


あんな"万引き野郎"と工藤はくっついてはいけない










高校2年生の梅雨の時期だった


ふらっと立ち寄ったコンビニで永井の姿をみた



どう見ても挙動不審だった

周りを何回も何回も気にしていた


カメラの位置、店員、客をチラチラと見ていた


「もしかしてこいつ」と僕は永井が万引きをしようとしていることを疑った


永井には気付かれない距離を保ち、永井の行動を見ていた



僕はあることに気付いた



永井のちょうど上にあるカメラ、作動していない

「壊れているのか?」

と思ってよくみると"カメラ故障中"と書いた紙が貼られている



永井は知っていてあそこのコーナーにいるのか



店員はどうしていると気になったが、レジにいるのはベテランのお婆さんとそのお婆さんと仲が良いおばさんがいた


二人は大きな声で会話をしている



「相変わらず客がいるのによくあんな、わーわーと騒いでいられるな」と毎回思うがその二人のせいで好機となっている



客は永井と僕だけだった



「どうする、どうする、どうする」



永井は既に商品を手にして、鞄に入れている


僕は見ているだけだった


数秒の膠着状態を解いて、僕が向かったのはコンビニのトイレだった



無意識のうちに息を止めていたのか慌ただしく呼吸をする



しばらくして、落ち着き溜め息をした


なにもしなかった罪悪感が込み上げてくる


まぁ、そもそも悪いのは永井で、僕はなにもしていない


そう、なにもしなかった



更に時間が経って、トイレから出た


永井の姿はもう店内にはなかった



いつまにか客も増えていて、いつもうるさい店員二人も忙しくしていた



永井は万引きに成功したのだろう


明日も何食わぬ顔で学校に来るだろう


何でこんなものを抱えなきゃならない



憂鬱な明日が更に憂鬱になり、重い足取りで家に帰った









それから一年経っているが未だに強く記憶に残っている

忘れたい罪悪感も




まぁ、この件に関しては永井がばれずにいて、僕が黙っていれば何もない筈だ

それならいい



しかし、工藤の件は問題だ


永井なんかとくっつかせてはならない


そもそも、永井を主人公にはしたくはないが永井と話す工藤は楽しそうだった


仕方なく主人公候補にしてやったが、あの件のことや最近の様子をみるとやはり相応しくない




「あいつを遠ざけるにはどうしたらいい?」




学校から帰り、直ぐに自室に籠った



部屋中に貼られている美しく尊い写真しばらくみて改めて永井のことを考える



永井の中学時代の噂


不良グループの一員だった


女性との性行為を繰り返していた


部活の後輩をいじめていた


そんな数々の噂がある人間



中学、高校いや、永井の人生全てがろくでもない




明るく振る舞う悪人とは恐ろしいものだ



工藤にはその毒牙を触れさせてはならない




怒りが込み上げ、いつからか書いていたノートの文字が更に増えていく




「死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね」















「いつまにか寝ていたのか」


永井への怒りの発散をしているうちに眠ってしまっていた


目を覚まして辺りを見渡すとコンビニのトイレにいた


「何で部屋にいた筈なのに」


思わず大きな声を出してしまった


困惑していた


何が起きているんだ



トイレから出ると一人の少年が立っていた


少年は帽子を深く被り、マスクをしていた


歳は同い年くらい、身長も同じくらい


その少年が僕に近付いてきた


急に近付いてきたので、後ろにしりもちをついてしまった



少年は手を伸ばし、僕の腕も掴み、立つように促した


僕はなんとか立ち上がって少年をみた


彼の目が真っ直ぐこちらに向いている


見覚えのある目だ


少年は明らかに普段とは違う声で


「今から僕‥俺がやることをみていろ」


「そして、実行しろ」


と言われた



どういうことなのか分からず訪ねようした時、一人客が入ってきた


永井だった



彼は店内に入るとスタスタと歩いていき、あの時と同じコーナーにいき、まじまじと商品を見ている



僕は少年に永井に背を向けるように言われ、雑誌を見ているふりをした




永井はあの時と同じ挙動不審だった



カメラは故障中、店員はあの二人、客は永井と僕と少年だ



あの時とほぼ同じ


「また、永井は万引きをするのだろう」

と思った



そして、永井は商品を手に取り、鞄にしまおうとした


しかし、チャックが中々開かないのかあわてふためいている


そして、気付けば少年は店員に話しかけていた



永井はまだチャックをなんとか開けようと必死になっている


そこに店員がやってきた


「すみません、なにをしてらっしゃるんですか?」


そう店員に言われ、慌てて永井は商品を隠した


「手に持っているものを見せてください」


と店員に言われた瞬間


永井は走って逃げた


店員も慌てて後を追う


そして、僕も少年と一緒に後を追う


永井はコンビニの近く信号を渡ろうとしていたが、歩行者の信号は赤だった


永井は信号など目もくれず、飛び出した


そこにトラックが衝突した


数秒の出来事だった



日常の音から非日常の音に変わった



永井の血まみれの姿を見て、僕の顔は笑っている

抑えきれなかった、溢れてしまった



すぐ隣に少年が立っていることを思い出し、なんとかいつも通りに戻した



「ここに来る前に鞄のチャックは壊しておいた」


「後は、店員に報告すればいいだけだ」


そう彼はいった



そして、僕の方を向いて


「上手くやれ」


そう言って彼は走って行ってしまった



彼は何者なのか?

予想はつくが確認できなかった




彼の言葉を思い出す


「今から僕‥俺のやることをみていろ」


「そして、実行しろ」


そして「上手くやれ」



見てはいたが、実行するとは何なのか分からなかった


これはまだ夢なのか現実なのかも分からない



ただ、一つ分かったのは遠ざけたければ殺してしまえばいい

存在自体を失くせばいい



また、笑みを浮かべる





「眩しい」


目を開くとそこ自分の部屋だった



ノートが散らかっていた


あの衝撃的で、不思議で、そして愉快な出来事は夢だったのか



少し残念に思うが、夢といえば夢らしいと思う



さて、今日は土曜日だ


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