第4話
美沙が走っていくと、ゆあながこちらをみてにっこり笑った。
「もう監督、
前に出てきてるよ」
「ほんと。なんの話だろう?」
よく言えば恰幅の良い、悪く言えばメタボリックと診断されるであろう五十代の監督が前に出てきた。
「みなさん。お集り頂き誠にありがとうございます。今日のイベントというのは私個人といたしましては婚約、といいますか告白の場とさせていただきたく、わざわざアナウンスを入れさせていただきました」
ザワリと場内が揺れた。
「婚約って?」
「なんで試合のあとにそんなことを?」
不審がる観客をよそに話を進める。
「いやぁ。本当はこんなに大々的にする
つもりはなかったのですが、
私の社員の方から
娘のためにぜひ時間をとってほしい
とせがまれまして」
「はぁ?」
「子供同士のことに親が口出ししないでよ。
政略結婚じゃあるまいし」
「では本日活躍してくれた選手の拓斗くん。
まえに出てきたまえ」
観客のいらない拍手も手伝って、拓斗が姿を現した。
「すごく困ってる。なんでよりによって拓斗なの?」
「もしかしてサプライズって……」
「そして相手は有埼由香さんです。ではあなたの口からどうぞ」
「ずっと好きでした。
付き合ってください」
会場内はシンと静まりかえった。
「なんで拓斗返事をしないの?」
ゆあなが自信満々に答えた。
「決まっているじゃない。
戸惑っているからよ。
でも、彼は肯くわよ」
「え?」
「だってあの子からの告白で断ったひとなんて居ないんだから。
小学校も中学校も、そして高校もね」
内容よりもひどく冷たい声におどろいた。
「ゆあながなんで有埼さんの小学校とか……」
「そっか。美沙って私の出身校知らないんだ。
ショックだよ。
あ、それとも由香のこと知らないだけなのかなぁ」
「そ、そうなんだ。学校とかでも話しているとこあんまみないから」
「そうだね。ひとに説明すると絶対不思議がられるからね。
性格合わなそうなのに何で親友やってんの?ってさ」
「親友なの?」
「そう。ま逆だと案外、居心地いいこともあるんだよ」
「全然気が付かなかった……」
「そうでしょうね。
私のこと見てくれなかった証拠だよ。
――そんなわけだから拓斗クンはあきらめな」
有埼さんが可愛くて、頭も良くて、モテるなんて知っていた
だからゆあなに相談して。
協力してくれているんだと甘えてた
今までの相談をゆあながが有埼さんに言ってたとしたら?
彼女がこんなに大胆に勝負するのはどこかに勝算があるから……だよね。
「俺は――」
そばにいた幼なじみのことばを聞く勇気がなかった。
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