第2話
翌日、登校時間四十分前の教室。
もちろん誰もいない。
聞こえるのは朝練をしている野球部の掛け声くらい。
ゆあなは毎週火曜日はほかの学校の友達といるらしく
いっつもこれくらいにくるのだと
笑っていた。
ペタペタ
かわいらしい音が近づいてくる。
「え? 昨日の朝、うん。
昔の幼馴染の男子と歩いていただけ。なんにもないって。
じゃあ。わかったわ。気をつけとくよ。
うん。じゃ~ね」
先に教室に来ていた美沙は眉をひそめた。
電話中?
まぁ終わったみたいだし、おどかそっ!
教室の扉から入ってくるゆあなの背中を
ポン
と叩いてみた。
「っへ!?美沙!!」
「おはよ~」
「朝から驚かさないでよ。
馬鹿みさ……どうしたの?」
ゆあなが急に声のトーンを心配したものに変えるものだから
こちらがびっくりした。
「へ? どうしたのって何が?」
「気づいてないの?
ウサギみたいな目。もう真っ赤だよ。
いつもの美沙じゃないみたい」
「そんなに酷くないよ~朝、ちゃんと鏡みてきたんだから」
自覚はしている。もうほんのりメイクでもどうにもならないことくらい。
瞼だけではなくて瞳まで充血しているように見える。
これでは泣いた以外の言い訳が通らない。
ゆあなは毒舌だから人よりも
指摘は厳しい。
実際そこまでひどくないんだろうけど
自分ではそこまで意識が
なかったから何気にショックが大きい。
ゆあなは鞄を自分の席において
美沙の席の隣に座ってくれた。
「昨日の作戦はどうだったの?」
「で、有埼さんがいて、
すごすご帰ってきたってわけ?」
なんか今日のゆあな、気合いの入った確認するから
ちょっと怖いんだけど。
「うん」
「で、その夜、信哉クンから試合の誘いがあったわけね」
「うん」
「……みぃさぁちゃん~」
耐えられなくなったゆあなはついに激怒したのだった。
「”うん”じゃないわっ!
なら何で昨日のうちに私に言うか、
拓斗クンに確認しないわけ?
『試合、ほんと? 何で教えてくれないの?
ってか信哉クンにアド教えたの何で?』
くらいは言ってとーぜんでしょ!?」
「だって――眠かったしっ」
「ばっかぁ。
今から聞いてもいいだろうけど
美沙が言うよりも早く
信哉クンから伝わるだろうから
効果半減じゃない」
「そうなんだ」
明らかにシュンとうなだれてしまったけど
そんな美沙にフォローはきちんといれる。
「まぁ……美沙にそんな駆け引きは似合わないから
思ったことやればいいよ」
「うんっ!」
ここでハッキリ言わないと
放課後までずっと落ち込んだままに違いない。
そんなことを言い合っているとひょっこりとある人物が顔を出した。
「おや、おっはよ~
早いね美沙ちゃん。
あ、ゆあなも」
「ついでの挨拶なら
もらいたくもないわ」
いつもよりも数段冷たい声。
こんな声聞いたことない。
「わりーわりー」
信哉くんとゆあな
あまり会話しているのを見たことない
びっくりしていると信哉クンが解説してくれた。
「あ、俺ら前に付き合ってたんだ~
意外っしょ。なんでそ~なったかというとね」
さきほど激怒したゆあなはもう一度キレようとしていた。
「はじめはどうあれ、終わりはあんたの浮気だからっ!
なれなれしくされたくもないし、できれば二度と顔なんて見たくないっての!!
あんたがなれなれしく名前呼びしているせいで
上級生から嫌がらせされてんの!!
いい加減ケバい化粧の集団なんとかしてよ」
いやがらせというか、ほとんどいじめである。
移動教室の時には必要なものの点検が欠かせない。
教科書はズタボロに切り裂かれているわ、上履きには落書きがひどいわ。これで文句は元凶にいえないとは大変に理不尽である。
「あっはは。浮気は昔のことじゃん。
それにケバケバおばさん好みじゃないんだ。
わるいね。今度やめるよういっておくよ。」
元彼女はまだ何か言いたげであったが、美沙だって聞きたいことはある。
「あの、何でここにいるの?」
「美沙ちゃん、いい質問ダネ。
詳細な試合の予定。
わからないことあったら
拓斗にきいて。
ちなみに今日あいつ休みだから」
「えっ。なんで?」
「ん~なんか風邪らしいよ。
気になるなら見舞い行ってきたら?
LINEきたよ。こんなのが」
今日休む。今39度あるから。
美沙に予定伝えといて。
「なんとも飾りっけないよね。
絵文字くらい使えって話だよ。ダメだよな~」
「早く時間教えなさいよ」
「カリカリしてると肌荒れるよ~
ゆあなが彼氏出来ないのって短気だから
だったりして~
んで試合のことだけど
今週土曜の午後1時から
●▲大学付属高校のグランドでやるから」
「あそこでやるの!?
とっても広いじゃん!」
県内で一番広い運動場をもつ大学付属校だ。
「そうなんだよ~
今回監督同士で折り合いつけたらしくてね
じゃまた」
軽やかに教室から去って行った。
「あいつの軽さはまだ治らないのか。
でもね、あいつの情報は確かだから信用していい。
美沙、チャンスだよ。いっておいで」
ゆあなは
少し不満そうにしていたけれど
複雑な関係の中でも
アドバイスしてくれたことが嬉しかった。
「うん」
当日はできるだけ笑顔でいよう。
そしてグダグダ悩んでいることは
もうやめて
この微妙な距離をなくそう。
「●▲大学付属高校……」
「ゆあな?
深刻そうな顔してどうしたの」
「なんでもない。あそこは応援大変だなって」
「だよね。ゆあなも来る?」
「行ってあげてもいいよ。
ウチのサッカー部は拓斗くん以外ダメ男だけど
相手校ならいいヒトいるかもだから」
こうして2人は土曜日に行くことになる。
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