10話

教室に残らないことが当たり前になってはいるけれど、

 今日は吹奏楽部の部長さんに確認をとって教室に残るのだ。

 彼を誘うために。

 放課後の教室で机に突っ伏している美沙である。

「あ~あ。わたしにできるのかな」

 委員会から解放されたゆあなに

 言われたことを思い出す。


「拓斗くんはサッカー部だから

 遅くまでのこるはず。

 連絡しないって真意はどうあれ、

 あんたは特別隣にいて、連絡多かったんだから

 ”友達として”一緒に帰る事はできるでしょ」



 あんまりにベタな設定。

(どう考えてもあり得ないでしょ~)

「なんでこんな時間まで居ちゃうんだろ……」

 暗くなるまで教室に残って終わるのをまつ。


 あまりに単純なあゆなの提案だけど。

 それにすがるしかないことも事実。

 何度目か溜息をついたとき、

 コツコツと2種類の音がした。

 階段を上がってくるのはドタドタと荒っぽい足音をたてる男子。


 コツコツと可愛らしい歩き方は女の子

 先に私が見たのは女子の姿だった。

 由香は勝ち誇った笑みを浮かべた。

「拓斗クン。

 一緒にかえろぅ」


 由香は知っている。

 自分の可愛らしさを。

 もともと持っている素材に加え、

 萌え袖、ミニスカート、ケバ過ぎないメイク。

 たくさんの計算された可愛らしさ。


 十人並みで、大した素材を持たない私との差を。

 計算できない女との歴然とした差を知っている。


 彼女に勝てるわけない。


 美沙はなんとか拓斗に気づかれないようにその場を

 離れることに成功した。

 美沙自身の荷物が少ないことと教室には2つの出入り口があること、そして校舎には2つの階段があること。

 これらの要因が重なって当事者たちに見つかることはなかった。


 成功したのと引き換えに

 彼の答は聞けなかった。


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