8話

☆☆☆

 由香side

「もしもし……ん。

 好きだからアピッてんじゃん」


 いま電話してるのは

 由香の小学校からの親友。

 今はあんまり行動はしないけど

 恋愛に関して相談することもおおいかなぁ

 だって説得力あるし。

 今回も詳しく言ってみる。

「いま狙ってんのは、同じクラスで、すっごくカッコよくって……」


 指折りいいとことを数えると両手でもたりないよ。

『それは……クン?』

「ウフフ。彼って成績優秀だよね。由香ねぇ、頼れるヒトが好きなの。それにちょっと進展もあったしね」

 すべてを話し終えると親友が言ったことは簡潔だった。

『ホンキなの?』

「今まで戯言言ってきたけど今回はマジ」

『そっか。じゃわたしは由香を応援するよ』

「は? だって学校じゃ……」

『いいの。昔からの付き合いを大事にする派なの』

「ありがと」

 かなり心強い味方ができた。

 感謝しながら教室に戻った。

 教室に残らないことが当たり前になってはいるけれど、

 今日は吹奏楽部の部長さんに確認をとって教室に残るのだ。

 彼を誘うために。

 放課後の教室で机に突っ伏している美沙である。

「あ~あ。わたしにできるのかな」

 委員会から解放されたゆあなに

 言われたことを思い出す。


「拓斗くんはサッカー部だから

 遅くまでのこるはず。

 連絡しないって真意はどうあれ、

 あんたは特別隣にいて、連絡多かったんだから

 ”友達として”一緒に帰る事はできるでしょ」



 あんまりにベタな設定。

(どう考えてもあり得ないでしょ~)

「なんでこんな時間まで居ちゃうんだろ……」

 暗くなるまで教室に残って終わるのをまつ。


 あまりに単純なあゆなの提案だけど。

 それにすがるしかないことも事実。

 何度目か溜息をついたとき、

 コツコツと2種類の音がした。

 階段を上がってくるのはドタドタと荒っぽい足音をたてる男子。


 コツコツと可愛らしい歩き方は女の子

 先に私が見たのは女子の姿だった。

 由香は勝ち誇った笑みを浮かべた。

「拓斗クン。

 一緒にかえろぅ」


 由香は知っている。

 自分の可愛らしさを。

 もともと持っている素材に加え、

 萌え袖、ミニスカート、ケバ過ぎないメイク。

 たくさんの計算された可愛らしさ。


 十人並みで、大した素材を持たない私との差を。

 計算できない女との歴然とした差を知っている。


 彼女に勝てるわけない。


 美沙はなんとか拓斗に気づかれないようにその場を

 離れることに成功した。

 美沙自身の荷物が少ないことと教室には2つの出入り口があること、そして校舎には2つの階段があること。

 これらの要因が重なって当事者たちに見つかることはなかった。


 成功したのと引き換えに

 彼の答は聞けなかった。


☆☆☆

拓斗side

 暗くなってきてミサは帰っただろうかと思っていた矢先に

 一番会いたくない奴がそこにいた。

「拓斗クン。一緒にかえろぅ」

「俺は……」

「ねぇ、いいでしょ?」


「だ~め。

 これから俺と作戦会議やんの」


「信哉クン。なんの会議?」


「もちろんサッカーの。こいつの位置次第で勝つか負けるかきまると思うワケ」

「それなら私も聞きたい。

 拓斗クンがどこの位置につくのか

 試合見に行きたいからっ」


「決まったら教えるよ。

 とりあえず話させて。じゃまた」


 今日は信哉がいてくれて助かった。

 有埼も引き下がるしかないから。


 有埼由香をなんとか追い払って

 一言いってやった。


 心と腹の底から。


「おっまえ、バッカじゃね~」


「るっせ。近所メイワク」


「せっかく美沙ちゃんと

 仲直りできるチャンスを……」


「は? 美沙はもう帰っただろ?」


☆☆☆

信哉side

 拓斗はほんとに鈍感すぎるよ。

 たぶん、あの教室の後ろドアから美沙ちゃんは見てた。

 一瞬かもしれないし聞こえていたかどうかも怪しいんだよな。

 しかし、女子の感覚って鋭いらしいから


 きっと誤解が誤解を生んでるに違いない。


 あ、なんでわかるかって?

 オレって結構鋭いほうなんだよね。


 個人が思ってること大体察しちゃうっていうか。

 ま、そのくせ成績中の下っていう悲しいオチなわけだけど。



「とにかくお前。

 美沙ちゃんに電話かメール入れとけよな」


「……」


「いいから入れとけ。

 決めたことっていっても


 お前の中だけだろ。

 少しくらい目をつぶれよな」



「――デキナイ」


 こいつらしいけど、今回は美沙ちゃんが待ってくれるかわからない。

「わかったよ。じゃ番号教えろ」

「はぁ?」

「だから美沙の電話番号。

 俺からかけてやるよ」

 世話の焼ける超鈍感野郎に答えを出させてやろう。

                     続く









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