一分で読めるホラー

竹善 輪

拝啓SNSのストーカー様へ

 自分のSNSが監視されているのを知ったのはつい先日の事だった。

 友達が私のSNSに極似のものがあると教えてくれたのだ。


 月曜日に観葉植物を買ったと載せると

 火曜日には同じ観葉植物がUPされていた。

 夫とデートにショッピングモールに行ったと載せると

 次の日には同じショッピングモールでのデート模様があげられていた。


 正直、怖いし、気持ちが悪い。私は顔出しなどは一切出していないし、出していたのは体のパーツ部分に過ぎなかった。


 それからは更新の頻度を下げた。夫にも相談したが、夫はSNSを止めろと言っただけだった。まあ、世間に晒すこともなければ真似される事もないのだから正しい意見だった。


 すっかりSNS熱も下がっていって更新しなくなった頃に変化が起きた。


 私の真似をしていたSNSが更新し始めたのだ。


 始めは他の人をストーキングし始めたのかと思ったが、違っていた。友達とお茶をしたカフェ。可愛い小物を買ったお店。私が行ったところも買ったものも同じものがSNSにUPされていた。


 SNSを観察されていたと思っていたが、今度は実生活をストーキングされていたことを知った。流石に怖くなって、また夫に相談した。だが、夫が出した答えは私が想像もしなかった答えだった。


「好きな人ができたんだ。別れて欲しい」


 唐突にそんなことを言われた。


「浮気していたんですか?」


 そう返すと夫はバツが悪そうにしていたがそうだ、と答えた。


 高校生からの付き合いだった夫とはこの十年ずっとお互いに誠実な付き合いをしていると思っていた。彼は曲がったことが嫌いだし、私も真面目だった。不倫なんてする人じゃないと信じていた。せめて相手を教えて欲しいと言ったが、夫は口を割らなかった。慰謝料は二人分払う、と同じ言葉を繰り返した。馬鹿馬鹿しい、そんなもので足りるものか。今は離婚するつもりはないと私はごねてやった。それから夫は家に帰らなくなった。


 ふと、思い立って私の真似をしていたSNSを見に行った。


 そこには『ついに彼からプロポーズ』と題を打ったSNSが更新されていた。大きく移し出された二人の指には揃いの婚約指輪。男の手のほくろの位置は随分と見覚えがあるものだった。


 少し考えてから私はネットで盗聴器の発見器を購入した。まさかとは思ったが、部屋で調べてみると鉢植えの上とコンセントの中に盗聴器を見つけた。


 内心ドキドキしたが盗聴器をそのままにしてペットカメラを設置した。少しの間、実家に帰ると夫に連絡して、数日後分かったのは夫が愛人をこの部屋に招き入れ、浮気はこの家でもおこなわれていたという事だった。


 ガラガラと夫との十年が崩れていくのが分かった。


  話し合いに応じたら離婚届にサインすると連絡すると、夫はすぐに家に帰ってきた。私は普段手が荒れるからと付けていなかった結婚指輪をつけて、同じ題名でSNSを更新した。


 次の日、私は真っ赤なスポーツカーを買った。


 外国産で一桁違う、ずっと夫が憧れていた車種だった。


 その日のSNSはもちろん購入した車の写真で更新した。誰が乗っているのが分かる角度で撮った写真は見る人が見れば夫だとわかるだろう。


『哲也さんを返してよ!』


 案の定、その夜、女から怒りのメッセージが届いた。私はすぐに『貴方のマンション近くの駐車場に、車と一緒に届けましたよ』とメッセージをかえした。


『浮気男は車と一緒に貴方に差し上げます』そう書いて私は自分の首から下を映した写真と共に最後のSNSを更新した。



 次の日、朝から騒がしかった。ニュースをつけると赤いスポーツカーに左手のない、めった刺しにされた男の死体が発見されたと出ていた。


「あらあら」


 私は笑ってしまった。


 だって、


 私が刺したのはたったの三か所だったのだから。


 女は私が妊娠中であることは知らなかったようだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る