第18話 浅葱
「「「………」」」
全然違う。
想像と全然違う。
元ナンバーワンヒーローズ現補修者見習いである夫婦は思った。
娘に正体がばれた時は(ばれない方が良かったのだが)、もっと明るい反応を期待していたのだ。
負けないからね。とか、すごかったんだね。とか。
喜んで驚いてくれるか。負けん気が発揮して悔しがるにしても、もっと嬉々と、いきいきとしてくれると思っていたのだ。
なのに、元ナンバーワンヒーローズだったんだねと言ったっきり、無言を貫いて重苦しい空気を醸し出しているのは何でだろう。
ずっと黙っていた事を怒っているのだろうか。
だとしたら、わかるのだが。
何やら違うような。
連れて帰って来た悪様は、悪様になってください悪様になってくださいと嬉々として言っているし。丁重にお断りしているが。
「母さん、父さん。私、地球から出て行くね」
「「「「「え?」」」」」
元ナンバーワンヒーローズ現補修者見習いの夫婦、元ナンバーツーヒーロー現補修者、元悪の手先現ナンバーワンヒーローの弟子、悪様の言葉は見事に揃った。
「つまり地球から出て悪様になる決意をしてくださったのですか?」
「つまり地球から出て全宇宙で暴れまくるじゃなくて、全宇宙でヒーロー活動するって事か?」
「つまり地球から出て宇宙で自らの力を制御する方法を見つけに行くのか?」
「「つまり嘘つきな母さん父さんの傍に居たくなくて地球から出て行くって事?」」
嬉々とする悪様に弟子。
神妙に頷く元ナンバーツーヒーロー現補修者。
どんより落ち込む元ナンバーワンヒーローズ現補修者見習いの夫婦。
五人の反応に、ふるりと、頭を横に振った現ナンバーワンヒーロー。
「どれも違う。いや。補修者の考えが近いかな。自分の不甲斐なさに嫌気がさして、地球から出て鍛え直す事にした。一人で」
「え?じゃあ、俺は?」
「おまえは私の両親の傍に居て私の師匠に見てもらいながら修行に励め」
「俺はあんたの弟子だ!」
「じゃあ、弟子は辞めてもらう」
「はあ!?勝手すぎるだろ!!決めたんなら最後まで面倒を見ろ!!」
「じゃあ、時々手紙を出すからそれで勘弁しろ」
「そーゆー問題じゃねえだろうが!!何だ俺は寂しん坊か!?」
「違ったか。なら、隕石を贈るからちゃんと粉砕しろ。修行だ。ああ、安心しろ。粉砕できなくてもおまえが死ぬだけだ。他に被害は出さない」
「こわっ!!」
「弟子を止めたくなったか?」
「止めるか!!」
「そうか。じゃあ、そういう事で。師匠。両親をお願いします。母さん、父さん。行ってきます。悪様はこのまま私が連れて行くから」
「「「あ」」」
元ナンバーワンヒーローズ現補修者見習いの夫婦と弟子が声をかけるよりも先に、現ナンバーワンヒーローが出て行く方が早かった。
弟子はすぐさま追いかけたが、元ナンバーワンヒーローズ現補修者見習いの夫婦はその場に留まったままであった。
(2022.12.13)
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