第3話 柿渋
竹を砕く。
竹割りだけやってと駄々をこねる。
目も手も弱くなってねと情で訴える。
人質になりに行かなければと逃げ出す。
竹を砕く。
腰が痛い肩が痛い休ませろと駄々をこねる。
味が濃い昼食が食べたいと駄々をこねる。
竹を砕く。
人質になりに行かなければと逃げ出す。
竹割りだけやってあとは絶対自分でやるからと強請ってくる。
竹を砕く。
寿司食べたい寿司食べたいと騒ぎ出す。
「だーっ!!」
突然咆えると同時に立ち上がった補修者(元ナンバーツーヒーロー)に、目を白黒させていた元ナンバーワンヒーローの夫婦はどうしたのと心配そうな顔を向けると、おまえらのせいで血管が何十本かは絶対に焼き切れたと言われてしまったので、頬を小さく膨らませた。
「もうおまえらは補修者は無理だ。さっさと諦めて家に帰って畑でも耕していろ」
「やだやだやだやだやだ!」
「年甲斐もなく暴れるな!」
「やだやだやだやだ!たかだか一か月で見捨てないでよ!」
「こんなわがまま夫婦見捨てるわ!恨みがましい視線を向けられる筋合いもないし、むしろ一か月もありがとうございましたって感謝しろ大いに!それこそ俺に!まいにち!寿司を奢れ!」
「年金暮らしの老いた夫婦に無茶難題を」
よよよと言いながら目元に袖を当てる妻(元ナンバーワンヒーローズの一人)の両肩に優しく両の手を乗せた夫(元ナンバーワンヒーローズのもう一人)は、補修者(元ナンバーツーヒーロー)を見上げた。
とてもとても目を潤ませて。
「か、河童巻きでゆるしてください」
「もしくは紫蘇巻きで」
目元から袖を退かしては見上げて、とてもとても目を潤ませて妻(元ナンバーワンヒーローズ)も言った。
「………時々でいいから、いなりずしを持ってこい。あと。まじで!力加減をそろそろ覚えてくれ。竹の量が膨大だっつっても、無限にあるわけじゃないんだからな」
甘い。
甘すぎる。
補修者は苦虫を嚙み潰したような表情を刻んでは、曇らせていた表情を一変して輝かせた夫婦を見て、長く深く大きな溜息を吐き出すのであった。
(2022.2.4)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます