第2話 楝




 積み重ねてきた経験のおかげだろう。

 犯罪者特有の呼気の臭いを嗅覚と味覚が、身体の振動を触覚と聴覚が、定める目線を視覚がいち早く捉えて、何気なさを装いながら、人質になるべく近づく。


 ここで胸に刻まなければいけないのは、己が、もしくは己たちが成敗してはいけないという事。

 できれば生涯現役でいたかったのだが、血の涙を流しながら退いたのだ。

 娘の為。他のヒーローの為。

 後継を育てる為に、ナンバーワンヒーローズを。


 覆面をしていて、なおかつ、一部の人間にしか正体を明かしていない為、娘もまさか両親がナンバーワンヒーローズだとは知っていない。

 知らせるつもりは毛頭なかった。

 危険があるというのもあったが、それ以上に秘密にしていた方がワクワク感があると二人とも考えていたからだ。


 だから。




 毎度毎度父さんと母さんが人質になった時にあんたが必ず来るけど何なの父さんと母さんの事どんだけ好きなの嬉しいわあでもそんな泣きべそかかないのもっと胸を張って堂々と助けに来たって言いなさい猫背はだめでしょその視野の広さで通行人に危害が及ばないようにさりげなく誘導しながら無人の所でめっためたにするのもいいけど逆ギレしないの今建物ないし木や花を巻き込む必要ないでしょ物に当たるなって小さい頃から何度も言ってきたでしょ大人になったからってすっぽ抜けないのそもそも両親が人質になったくらいで逆ギレしないのもっと冷静に対処しないとそれに機械ばっかりに頼って壊れたり電力が落ちたりハッキングされたりしたらどうするの視覚と脳ばっかりに頼らないの味覚嗅覚触覚聴覚も使ってあげないと退化するばっかり脳を介さない動きも身につけないとあとどうして今の子は覆面をしないのかしら仮面でもいいのよ素顔だとワクワクしないんじゃないのもう時代の流れかしらねいいえとにかく五感全部をこじ開けて犯罪者捕獲に務めなさい。




 と助言したいけど、我慢しているのだ。







「おっまえら」

「「すみません」」


 娘のおししょーこと、旧友の元ナンバーツーヒーロー(引退したのち修復者に転向)のつるつる頭にくっきり浮かぶ血管を見ながら、案外人間って変わらないのねと夫と微笑み合っていたら、また竹を砕いてしまい、補修者が激怒。

 おまえらに教えるのやだと出て行ってしまった修復者の後を慌てて追うのであった。











(2021.8.22)


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