第4話「こんにちは~! ご注文いただいた薪をお届けに参りましたっ!」

 ――まさか自分が、髑髏払いの儀式を用意する側になる日が来るなんて。

 しかも冒険者ギルドを追放された後に。とんだ巡り合わせもあったものだ。

 普通、外の人間にこんな役割を任せるか? ましてや相手は王子なのに。


 それもこれもアダムソンに人望がないからだろう。

 あいつは上に胡麻を摺ることはできても、下に好かれるタイプじゃない。

 だからゴーレム使いの予備さえ確保できなかった。


 時期から外れているから仕方ないとも言えるが、時期でないだけで手ごろな人間をギルド内で手配できないのがあの男の限界だ。おかげで俺にはいい小銭稼ぎになるものの、ギルドの外の人間を王子にぶつけるなんて正気とは思えん。


「……しかし、俺がこいつをな」


 今朝に届いた骸骨を模したヘルムをくるりと回す。

 人間が被るには少し小さくて、今の俺の顔でも被ることはできなかった。

 元々の自分の顔よりは小顔になっているのだから行けるかと思ったが。


 アダムソンからの依頼を受けて1週間と少し、いよいよ儀式用のゴーレムも完成の時が近づいていた。ウッドゴーレムとしての本体は既に完成しており、あとは骸骨のヘルムを取り付け、全身に燃やすための仕掛けを施せば終わりだ。


 もう間もなく”燃える髑髏”ができあがる。

 髑髏払いの儀式で若き冒険者に立ちはだかる敵、全ての冒険者が初めに倒す敵。

 ダンジョンと呼ばれるようになった亡国を滅ぼした存在と言われている。


 俺は歴史を専門に学んだわけじゃないが、モンスターの巣窟となった亡国に潜ることで生きてきた冒険者としてその程度のことは知っている。

 かの国が滅ぶ少し前から”燃える髑髏”の活動が目撃されていたと。


「こんにちは~! ご注文いただいた薪をお届けに参りましたっ!」


 冒険者ギルド本部内の作業所に、場違いな少女の声が響く。

 骸骨ヘルムを静かに見つめていた俺は、唐突な声にビクッと反応してしまう。

 けれど、その声色には聞き覚えがあった。


「ルシールちゃん……?」

「はいっ! お久しぶりです、フランクさん♪」


 思わぬ客人に、少し驚いてしまう。

 確かに”銀のかまど”に薪を売ってくれとは依頼していたが、まさかルシールちゃんが持ってくることになるとは。普通に業者か親父さんが運ぶものだと。


「君が運んでくれると分かっていれば迎えを送ったのに。重かっただろう?」

「いえいえ、フランクさんが色つけてくれたおかげでこの台車を買いまして!」


 そう言いながら胸を張り、新品の台車を見せつけてくるルシールちゃん。

 確かに台車があれば女の子でも薪くらい運べるか。


「ふふっ、役に立ったのなら嬉しい。

 君には世話になったからね、お礼がしたかった」


 そう言いながら作業場に持ち込んでいたお茶をカップに注ぐ。

 来客用のためにカップを2つ用意しておいて助かった。

 今まで出番もなかったが、ルシールちゃんのために使うのなら釣りがくる。


「あっ、悪いですよ、フランクさん」

「良いんだよ。

 時間がないのなら無理にとは言わないが、サボって行ってくれないか?」


 こちらの言葉に頷いてくれたルシールちゃんのために椅子を引く。

 ギルド本部の備品だから古ぼけた椅子で気分が出ないが、ティータイムの相手がルシールちゃんであれば話は別だ。

 彼女の黄金色の髪と瞳は見ているだけで気分が良い。


「――そう言われたら仕方ありませんね~、でも本当に良いんですか?

 結局、保険を勝ち取ることができなかったのに」


 彼女の言葉に、笑みを返す。


「君が頑張ってくれたのはよく覚えている。だから良いんだ」

「……優しいんですね、フランクさんは」

「ふふっ、そんなことないよ。歳を取ると優しくする相手は選ぶものだ」


 気に入った相手以外には優しくするつもりなどない。

 俺には、ギルド長のように上ならばゴマをするような生き方は向いていない。


「やっぱり大人なんですね、私より小さな見た目なのに」


 こちらが用意したお茶を飲みながら、俺の顔を見て笑うルシールちゃん。

 まぁ、確かに面白くはあるか。

 年下の少女の顔でこんなことを口にしていたら。


「でもフランクさんって”燃える髑髏”を造られていたんですね?

 薪なんていったい何に使うんだろうと思ってましたけど」

「へぇ、よく分かったね。この骸骨だけで」


 そう言いながら骸骨の顔をルシールちゃんの方に向けた。


「髑髏払いのお祭りは何度も見てますからね。それこそフランクさんのも」

「え、10年ちょっと前だろう?」

「だいたい5歳か6歳くらいだったかなと。まぁ、ほとんど覚えてないんですが」


 ……うわ、そうか。そんな小さなころのルシールちゃんが見てたのか。

 まだレオ兄と出会ってなくて、バッカスと2人で倒した燃える髑髏。

 あれを幼い頃のルシールちゃんが見ていたかもしれないなんて。


「どうされました? フランクさん」

「い、いや、ちょっと俺も年寄りになったなと……」

「……まぁまぁ、どう見ても今のフランクさんは私より若いですよ」

「幼くされちゃったからね……」

「わー! ごめんなさい、そんなつもりじゃ!!」


 落ち込む俺を前にルシールちゃんがあたふたしている。

 ちょっと大人げない所を見せてしまったか。

 今のルシールちゃんから5歳くらいは幼く見えるこの身体はともかく、中身としては良い歳をしたおっさんが若い娘っ子に鬱陶しい絡みをしてしまっている。


 ……これじゃマジでおっさんじゃないか。自戒しないと。


「ごめんごめん。ちょっとセンチメンタルを気取り過ぎた」

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