神は人の欲を刈る

蒼衣 ツキ

神は人の欲を刈る

目の前に広がる燃え盛るガラクタ

それは『家』だった

それは『村』だった

そして…『人』だった…

数分前、急に身体の力が抜けて倒れてしまった…


なんとか…家から這い出せた

空を見上げると白い羽根を生やした者達が飛んでいる

…中心にいた奴が近づいてくる


「お前は、何故動けるんだ?」


「…?」

確かに皆動いてない、なんでだろう…


「お前には…『欲』が無いのか?」


欲ってなんだろう…


「お前は生きたいのか?」


…生きる…生きたい、何がしたいかも分からないけど…

「生きたい!」


「それが『欲』と言うものだ、貴様の欲、貰っていくぞ」


力が抜ける…瞼が開かない…意識が…




「調査の結果村全体が全焼、生存者はいない模様…神の被害を受けた村のようです!」


「そう…」

私達は数日前にこの村の調査を依頼された

…被害は思っていたより大きなものであった


しかし…

「『神』がどんな手を使って村を襲っているのかが分からないわね」

近年このような事故が多い

被害者は例外を除き皆外傷がないのだ

刺された痕も殴られた痕も何も無い、かといって毒物が撒かれた形跡もない、にもかかわらずそこに暮らしていた人々は皆息を引き取っている…

手段も分からず、人の手では不可能と結論付られた。

この類の事件の犯人は『神』と呼称している

「ここの村人を全員回収して引き上げるぞ」


「了解」



「報告のありました村を調べたところ、今までの『神』が起こしたと思われる事件と同じ状況でした。

依然として『神』の手口は把握出来ていません」


「分かった、それにしても『神』は一体何がしたいんだ…」



それから、住民の過疎化が進んでいる地域には国からの監視が付くようになった

しかし、当たり前のように『神』は誰にも傷を与えず武装した監視役に1度の抵抗もさせずに事件を起こした

さすがに国もこれ以上の犠牲は出せないと残りたいと望む者以外は大都市近郊に住まわせるように指示を出した

するとパタリと『神』による事件は止まった


「この平和がいつまでも続いてくれるといいのだが…」


!?力が抜けて…疲れが来たか?自室に戻って少し休息を…

唐突に爆発音が響いた

事故が起きている…にも関わらず声が全く聞こえない、動いている人もいな…

「くそっ!ここまで来たか!」

これほどの犯行は『神』の手によるものとしか思えない

急いで外に出ると…倒れる人々、1部の者は呆然としながら立っている、天を仰いで…

何があるん…

「お前が『神』か!」

まさか本当に『神』とは思っていなかったが…何故かこいつが犯人なのだと確信した


「貴様も『欲』がな…いや、大きすぎて天使共では吸い尽くせなかったか」


欲?そうか、奴らは欲を吸い、生きる活力を消していたんだな…

しかし、私の欲が強いとは…

「どういう事だ?」

ぽつりと呟いた言葉を意外にも『神』は返してきた


「貴様らの思う『欲』と私たちの『欲』は違う、例えば貴様の我々に感じている対抗心、闘争心などと言うものも『欲』になるのだ」


「ほぅ?私の意思は自分で思っていたよりも強いものだったのか、貴様らの『欲』を吸う力が効かないのであれば私にも勝機があるものだ!」

『神』は深い笑みを浮かべ、涎を垂らした

「…?」


「あぁ、気にするな、ただどれほど良質な『欲』を喰らえるか楽しみでな」


「…っ!」

『神』が視界から消えた…

身体が…動かない…

何かが吸い出されていく…

私はもう…ダメなのか…

瞼が重い、目の前が暗くなっていく…




「んーー、まぁまぁかな〜、じゃあ『欲』は吸い尽くしたし、次の国に行こうか」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

神は人の欲を刈る 蒼衣 ツキ @aoi_tuki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ