【第2章完結】くたびれ神父の孤児院は超危険だけど最強らしい~吸血鬼に攫われたシスターを助けに行く子供達との超能力バトル!血の繋がりのない“家族”の物語り

らぃる・ぐりーん

子供達と吸血鬼の超能力うぉーず編

神父ジャックと不思議なチカラの子供たち

第1話 グレイス孤児院 ジャック

 グレイス孤児院に暮らす神父のジャックは、志を持ってこの孤児院を作った。〈そう、立派なやつだ〉


 身寄りのない子供たちを引き取り、大人になるまで育てる。そうこの十字架のネックレスに誓ったんだ。


 ジャックは布オムツを拾った。


 それが……それがどうしてこうなった? こんなことになると誰が予想できる? そうさ、神様だって先のことなんか分かっちゃいないんだ。


 神父にはなったが、説教なんて出来ないし、まぁ、もちろんする気はないんだがな。成り行きでこうなっただけで。


 神父とは言ってもあんな暑苦しい黒い服も着たくない。今だってこの通り、綿の白シャツに黒いズボンだ。……あと、ピンクのエプロン。〈しょうがないだろ? これしかないんだから〉


 ジャックは布オムツを拾った。


 大ホール、ここは大とついてるがたいして広くはない。隣には礼拝堂があるが、町の人々はここまでは来ない。町にあるご立派な教会へ行くのだ。主に子供たちとシスター・リースが祈る場所。


 大ホールには本棚が並び、たくさんの本が収められている。その中には絵本や歴史書がざっくばらんに並んでいて、子供たちが本を手に取ったり絵を描いたり、ちょっとした遊戯などに利用する場所だ。


 そうさ、俺が作ったんだ。木材を拾ってきてな。初めは朽ち果てかけた礼拝堂があるだけだった。


 ジャックは感傷に浸りながら大ホールの両開きの扉を開けた。


 ジャックの顔面に使用済みの布オムツが飛び込んでくると、避ける暇もなく顔面で受けたジャックは膝からくず折れた。


 ……コンナハズジャナカッタ。


 ジャックは顔面から布オムツをひっぺがすと袋に入れた。ピンクのエプロンから布巾を出して顔を拭いた。


 四つん這いになったまま、過去の理想の中に逃げ込んでいる。


 ブツブツブツブツ。


 その目と鼻の先では、一時間前までこの袋の中に入れてあったはずの布オムツがフワフワといくつも宙に浮かんでいる。


 パシッ。ジャックは頭のそばを浮遊する布オムツを捕まえて袋に入れた。


 いくつものオムツが滑空し、宙返りし、大ホールの端から端までを飛び交っていた。


 その横をまだ四歳の幼女が浮かび、キャッキャと喜びの悲鳴を上げながら飛んでいる。


 シスター・リースはジャンプして幼女を捕まえようとするが、華麗にその手をすり抜けていく。


「何してるんだよ? 父さん」


 ジャックは大ホールの扉の縁で、白髪混じりの頭が地につきそうなほどうなだれていた。それを見かねて、ジャックの背後から声をかけてきたのは一番年上にあたる十五歳のカインだ。


 カインはサラサラの黒髪をポリポリかきながら、空中散歩中の幼女に手を広げた。


「さあ、おいで。ミカエル」


 ミカエルを引き寄せて抱きとめる。


 カインが「ニーナ」と言うと、宙を漂っている布オムツや本棚にあった本がヒノキ材の床にドサドサリと音を立てて落ちた。


 カインはミカエルをシスター・リースの腕に預けると、腰を屈めて黒いセーラー服姿の女の子に言った。


「また遊んでやってたのか?」


「そうよっ!」


 女の子は腰に手を当てて言った。


「“チカラ”を使って遊んでやるのはダメだと言ったろう? ニーナ」


「あら? 私はただ本を取りたかったの。ミカエルはついでに浮いてしまっただけよっ」


 ふふんと小さく形のいい鼻を突き出して言った。


 カインは呆れたようにニーナの腰まで届く艶やかな橙色の髪の天辺に手を置いた。


 上手に結ってある猫の耳(垂れ下がった耳)みたいな部分は避けて。〈シスターにやってもらった〉


「どちらにしろ“チカラ”は使っちゃダメだ。誰かに見られたらどうする?」


「その時はその時よっ!」


 ニーナは小さな胸を張って、まだ威張ったように言った。


「誰かに見られたら、大好きなリンゴだって食べられなくなるんだぞ?」


「ゔっ……それはイヤ」


 ニーナは少し動揺を見せた。


「だから、“チカラ”は人前で使っちゃダメだ。僕たちは“特別”なんだから」


 ニーナはポヨンとした頬っぺを風船みたいに膨らませた。カインはその頬っぺをツンとつついた。腰をあげて、シスターに向き直って言った。


「シスター、遅くなってごめん。仕込みした夕飯はもうできてる?」


「ええ、もう準備出来てますよ」


 シスター・リースはミカエルの腹をくすぐって笑わせている。ミカエルは笑いながら身をよじった。青いサラサラした髪が動きに合わせてふわふわと乱れる。


 シスターの柔らかで心まで暖かくなる笑顔は、まるで天使のようでみんなが大好きだ。


「それなら、みんなご飯にしよう」


 カインが言うと、みんなが食堂へ競うように走っていった。


 カインも食堂へ向かおうとして、立ち止まり言った。


「いつまでそうしてるんだ? 父さん」


 顔を上げたジャックの顔には再び布オムツが仮面のように張り付いていた。


 うっ、とカインは身を引いた。


「か、顔を洗ってから食堂に来てよ」


 カインは食堂へと足早に歩いて行った。


 ジャックはもう一度うなだれた。


 ……コンナハズジャナカッタ。

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