ホットサンドメーカー・イン・ダンジョン

真野てん

第1話 おにいさんといっしょ


 わたしはいま、とあるダンジョンの中にいます。

 えと……兄と一緒です。


 わたしの兄はついこの先ごろまで、さる大国の騎士団長をしておりました。

 当代最強の剣士として国王陛下の覚えもめでたく、魔王軍との戦いにおいては常に最前線へと赴き、いくつもの勲章を手にしたものです。


 背が高くって、イケメンで。

 十歳ばかり年の離れた妹のわたしにとって、彼は実兄ということ以上に憧れの的です。


 若くして王都に召し上げられた兄と会うのは、本当に久しぶりでした。

 最後に会ったのはわたしがまだ幼い頃です。


 記憶の中の兄はとても神々しくて。

 わたしは再会するのを、それはそれは楽しみしていたのですが。


 いま――。

 わたしは穢れのない乙女の柔肌を、うねうねとした巨大な触手に蹂躙されているのです。


「ぎゃあああああああああああああああああああ!」


「違う! 違うぞ、妹よ! ここはもっと艶やかかにお願いしたい!」


 兄です。

 思わず出たわたしの奇声に対しての冷静なツッコミ。

 

 彼はマジックアイテムの水晶玉を片手に、かたわらに飛ぶモンスターにエサを与えながら、宙吊りになったわたしに言うのです。


 水晶玉には、地面から生えた謎の触手に絡まれたわたしが映っています。

 これは兄が餌付けしている、一つ目コウモリの観た映像が投影されているのです。


 一つ目コウモリは長い歴史を経て家畜化されたモンスターの一種で、もともとあまり好戦的ではありません。

 丸い毛玉みたいな身体に大きい目がひとつあり、背中にコウモリのような羽を生やした小型のモンスター。

 特筆すべきは観たものを記録して、任意の水晶玉に映し出せるという能力です。

 

 この能力のおかげで戦場は一変しました。

 離れた場所への時間差のない正確な情報伝達は、魔王軍との戦いに革命を起こしたのです。

 まさに起死回生。

 絶滅を待つばかりの人類の命運は、未来へと繋がったのです。


 と、それはそうと。

 兄の要求に応えなければなりません。

 わたしは自分の中にある、精一杯のセクシーをひねり出します。


「きゃ、きゃああ、気持ちわるーい。で、でも、くやしいけど感じちゃう(棒)」


 ぬめっとした感触の、無駄に柔らかい太い棒状のものがわたしの法衣の中に入ってきます。

 あ、いま太ももに巻きつかれました。

 ちょっとピリッとします。これって、もしかしてお肌が溶けてたりしません?


「ちょ、に、兄さん、もうダメっ。これ本気にダメなヤツっ」


「良し! 撮れ高は十分だ! いま行くぞ、我が妹よ!」


 ハァ!

 という気合いと共にジャンプした兄は、一瞬にしてダンジョンの天井にまで到達し、そのまま頑丈な岩肌を蹴って、わたしを捕獲している触手のもとまで急降下してきました。

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