蛇に伊豆。

伊豆には、芸能を司る蛇神様がおわす。芸で身を立てようと思う者は、祈祷料を奉納し、その晩は、宿坊に泊まることで、蛇神様のご加護を得ることができると言う。


江戸時代、新進気鋭の歌舞伎役者は、その宿坊に泊まったと言う。そして、時計がテッペンを回る頃に、蛇神様は現れる。親しみを込めて「蛇さん」と呼ばれる。


蛇さんは、ひたひたと歌舞伎役者の寝床に近づいてきて、ご加護を与えようとされる。されど、実は、それは試練であった。蛇さんに身を任せた者は、蛇さんの大きな口から飲み込まれてしまうのだ。


ある歌舞伎役者は、リベットだらけの皮パンを履き、ごてごてとしたベルトを二重で巻き、さらには皮パンの下にはピチピチの海パンを履いたと言う。これには、蛇さんも狼狽し、諦め、退散したと言う。


何かを言葉を残したようだが聞き取なかったが、たしか、「湯屋」と言ったようで、歌舞伎役者は朝沐浴し、身を清め、よくうがいをして帰ったと言う。


その歌舞伎役者は一世を風靡し、歌舞伎に限らず、様々な芸能に携わったと言う。まだ、蛇さんが芸能の神として慕われていた頃のお話。

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