ハンドレットソーサリー
みねっち。
第一話 異世界転生
「あーあ、また広告間違えて押しちゃったよ。バツマーク明らかに小さいんだよなぁ」
パソコン画面の下部分に表示される広告の右上のバツマークの判定は驚くほど悪い。
今回は嘘っぱちの異世界転生のご招待だってさ。
「あなたは選ばれました?広告ってこんなんばっかだよ」
画面全体に広がった広告を見ると初めて見る広告だった。
パソコンを見ている君!君は地球に住む人類の中から選ばれた存在です。
勇者として今すぐ異世界へと転生し使命を果たせ。
覚悟ができたのなら、右上のスタートをクリックせよ。
「選ばれし存在ねぇ」
なかなかいい響きだ。信じてはいないがパソコン画面を見てニヤけが止まらない。
「よし乗っかった!どうにでもなれ!」
スタートボタンをクリックした。パソコン画面は真っ暗になり、十秒のカウントダウンが流れた。
「あー、ハッキングされたわ。こんな手口ありかよ。」
残念そうに呟くとその場にしゃがみ、机の奥にあるパソコンが繋がっているコンセントを引き抜いた。よっこらしょと椅子に座るとパソコンを見た。
電源は切ったはずだが、パソコンから出すブルーライトは消えてなかった。
「え?消えないじゃん。なにこれ初めてなんだけど」
0………
ろうそくの火が消えるようにふっと意識を失った。
「なんだ?何が起きたんだ?」
目を開けるとそこはどこかの森の中のようだった。草は生い茂り風になびかれ、新鮮な夏の風を体全体で感じ取った。とりあえず体を起こしてなんでここにいるかを疑問に思い首を傾げた。
「そうだ。俺、あの広告押して気を失ったんだった」
あれは本当だったんだなと驚いた。
立ち上がり、森の中を歩いてみることにした。しかし何かおかしい。地球ではいるはずがない。漫画でしか見たことがないスライムらしき生き物がそこら中に大量にいるのだ。
なにか腕についている感覚を覚えて、右腕を見ると、腕時計らしきものが取り付けられている。スイッチを押すとそれは起動し始めてなにかを映し出していた。
「メザスワ、ホクリンノマチ!イマスグキュウコウセヨ。」
時計から放たれた光がパネルを映し出し、丁寧に地図が映し出されていた。おまけに方位磁針までついている。
ゴブリン、スライム、オークなど漫画の世界では下級の魔物がうろついている森を走り抜けて、小さな町、ホクリンにたどり着いた。
「なんだ!貴様、見たことのないやつだな」
ホクリンの入り口を守る兵にいきなりやりを突きつけられる。
「ぼ、僕は怪しいものではありません。さ、先程この世界に来たものでして…」
敵意がないことを、両手を上げて示した。
「な、なんだと。お主はもしかして勇者というものなのか?」
「ゆ、勇者かと聞かれたら、そうかもしれません。」
広告には「勇者として」と書かれていたから間違いない。偽の情報を書いてなければいいのだが少し嫌なイメージが浮かんだ。
バサラン王国の皇室には専属の占い師が働いてる。その占い師によると、9月9日に7人の勇者がこの世界に降り立ち、たちまち世界を救う。
と予言したらしい。
火、水、緑、光、闇、土、時のそれぞれの属性で天才的なセンスを持った7人が出てくるらしい。
「でお主は何属性の勇者なのだ?」
「あ、確認してみます。」
腕時計を押してモニターを写した。属性というところの欄には?と記載されている。
「まだわからないみたいです。」
「そっか。じゃあわかったら教えてくれよな!」
勇者ということで通行は認められ、街へと入ってもいいことになった。
このホクリンという街はにぎやかな町だ。道路沿いの広い道の脇にはぎっしり店が並んでいた。近くに緩やかな河川が流れていたり馬車が絶えず走り回っていたりと、物流のシステムが出来上がっていた。
「この町がまた賑やかになるねぇ。勇者たちには魔王討伐頑張ってほしいのぉ」
通りすがりのおばさんの話がふと耳に入った。魔王がこの世界にいるというのか。そのためにこの世界に自分が呼ばれたのか。改めて自分の立ち位置を確認した。勇者。属性。魔王。
「よっしゃー!」
大声を上げ両手の拳を天高く空に突き上げていた。これは嘘でもなんでもない。本当に来たんだ。異世界に。魔法が使える世界に。
周りの不審者を見るような目に気づき、そそくさとその場をあとにした。
ハンドレットソーサリー みねっち。 @kakuyobo
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