戦争に潜む影
五百年前にガリア大陸全土を巻き込んだガリア大戦にも引けを取らないほどの大規模な戦争が続いて五年。
この戦争を既に“第二次ガリア大戦”と呼ぶ者も出ている。
しかし、そんな戦争に終止符を打つべく反ヴェルサイユ同盟の盟主にしてブルターニュ国王アラン五世は決戦の準備を進めていた。
「国王陛下、我がブルターニュ軍一万。陛下のご命令があり次第、いつでも動く事が可能です」
軍服姿の貴族がそう語る。
「ご苦労。ゴーレムギルドの方はどうか?」
「はい。予定期日までにはゴレーム五万体の出撃準備が整うとの事です」
「宜しい。この五年間、我等とヴェルサイユは大陸全土にまで戦線を拡大させてきた。それは大きな犠牲を生んだが、同時にヴェルサイユの戦力を広範囲に分散させる事にも繋がった」
五年続いた戦争によって当初はどっち付かずの中立派だった小国などが次々と反ヴェルサイユ同盟に加盟して戦火は大陸全土へ広がった。
その結果、ヴェルサイユ国防軍は指揮下の十三個の軍団を大陸の各地に派遣せざるを得なくなったのだ。
それに対して、反ヴェルサイユ同盟に加盟しているゴーレムギルドは、金と物資さえあれば戦力をいくらでも量産する事ができる。
この戦争は少しずつだが、アラン五世の思惑通りの様相を呈してきたというわけだ。
「この好機を逃す手は無い! これよりヴェルサイユ王都リュミエールを目指しての遠征作戦を始める! 全部隊に通達せよ!」
臣下の貴族に命令を告げると、アラン五世は玉座を離れて宮殿の最奥にある一室へと移動する。
窓一つ無い暗い部屋は、分厚い壁に囲まれており、宮殿の部屋とは思えないほど飾り気が無い。
アラン五世がその場で跪くと、彼の前の床に青白い魔法陣が浮かび上がる。
「私です、法皇陛下。お応え下さい」
「聞こえておる。ブルターニュ王よ」
魔法陣から聞こえてきたその声は、この上なく尊大なものだった。
次の瞬間、魔法陣が更に白く発光し、黒い法服に身を包み、フードで顔を隠した隠遁者のような男性の姿が映し出された。
「法皇陛下、この戦争もいよいよ大詰めとなりました。陛下の計画通りの展開です」
「これまで苦労を掛けたな、ブルターニュ王。我等魔導教会の権威回復に尽力した暁には余が受け継いだ闇魔法の力の全てを授けてやろうぞ」
「ありがたき幸せにございます、陛下」
“
それは五百年前、当時のヴェルサイユ王国とガリア大陸の覇権を懸けて戦い、そして敗れて滅亡したカルディニア帝国が国教と定めていた宗教団体である。
魔導教会は魔法を開発して、それを広く人々に伝えた事からカルディニア帝国の勢力拡大に大きく貢献してきた。
しかし、神から直接恩寵を受けたとされる聖導教会最高司祭パトリアルケータが現れた五百年前にその立場が揺らいだのだ。
それ以後、魔導教会は魔法の創設者とされる魔導神ベリアルの生み出した闇魔法の研究を始めた。
闇魔法は、神の手にすら余る危険なものとして禁忌指定された代物だった。
長い研究の末に魔導教会はその闇魔法を遂に物にするのだが、その時には全てが遅かった。
最高司祭パトリアルケータによって率いられたヴェルサイユ王国によってカルディニア帝国は敗れて滅亡し、魔導教会も取り潰しにあった。
だが、その魔導教会の生き残りはこうして機会を虎視眈々と狙っていたのだ。
五百年もの間、決して表舞台には姿を現さずにじっと。
「ヴェルサイユ共和国も、聖導教会も、もうじき余の前にひれ伏す事になるのだ」
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