学生生活

 ルイズからの熱心な指導を受けたローランは、めきめきと学力を伸ばしていった。

 というより、記憶の引き出しを開け始めたのだ。

 毎日、放課後になるとルイズから図書室へと引っ張り込まれて個人指導を受け、学生寮に帰ると今度は世話役を担っているブラダマンテから講義を受ける事になる。


 学校の講義、ルイズからの個人指導、ブラダマンテの講義という三重学習の末、ローランは長い奴隷生活の中で忘れていた知識を思い出したり、元々知らなかった分野の知識も学び、今では学年でもトップクラスの秀才として脚光を浴びるようになった。


 そしてオリヴィエも元々頭は良い方で、勤勉な真面目な性格だった事からめきめきと学力を伸ばしている。


 そんな二人を見た学院の教師一同は「二人の才能を見抜いていたとは流石は最高司祭猊下だ」と感服の声を漏らす。


 二人が学力を伸ばすと、周りの生徒からの評価も一転した。

 当初こそは“場違いな奴隷上がり”というイメージを誰もが抱いていたが、今ではそういう目で二人を見る者は少数派になっていた。


「ローラン、今日のお昼は私とご一緒しませんか? 実はメイドがお弁当を作り過ぎてしまって……」


「あ! 私の家の使用人もお弁当を余分に作り過ぎてしまったのでご一緒にどうですか!?」


「いいえ。私とッ!」


「ちょっと! 私が先にローランを誘ったのよ!」


 席に座ったままのローランの前には数人の女子生徒が集まって揉め事を始める。

 これは、今ではいつもの光景だった。


 元々童顔で幼げだが、端整な顔立ちをしたローランは気付けば女子の人気者になっていた。

 そして特にローランの人気を高めていたのが、


 グウウウギュルルル~


 ローランのお腹が豪快に音を立てる。

 するとローランは、恥ずかしそうに頬を赤くして後頭部を右手でポリポリ掻く。


「ふふふ。ローランったら私のお弁当があまりにも美味しそうだからってはしたないですわ~」

 嬉しそうに声を上げる女子生徒。


「違いますわ! ローランのお腹は私のお弁当に釣られて鳴ったんです!」


 奴隷時代のひもじい日々のトラウマからか、ローランは物凄い大食漢になっていた。

 一人で軽く三人分は平らげるほどの。

 ローランが食事を取る様は、一見無作法ではしたなくも見えるが、とても美味しそうに食べるためか、女子生徒達には愛らしく見えてならなかったのだ。

 また、ローランが奴隷上がりであった事もこの際はプラスに働いたのかもしれない。元奴隷である事が少なからず女子生徒達の優越感を刺激し、ローランの愛らしさと相まって母性本能を擽る結果へと繋がった。


 そして女子にちやほやされているローランを見て、オリヴィエは複雑な表情を浮かべていた。


「ローランは昔からすごい奴だよね」

 オリヴィエは誰にも聞こえないような小さな声で呟く。


 ローランは宮廷にいた頃から、舞踏会やパーティなどで会った貴族の令嬢とはすぐ仲良くなったり、宮廷の侍女達に可愛がられたりと、天性の女たらしなんじゃないか、とオリヴィエは思った。


 そんなオリヴィエに一人の女子生徒が声を掛ける。

「あ、あのオリヴィエ君、一緒にお昼、どうかな?」


 ローランだけでなく、実はオリヴィエも女子人気は高かった。

 温厚で誠実なオリヴィエは、貴族令嬢の中でもお淑やかな性格をした女子生徒から高い人気を集めていたのだ。

 また長年、剣闘士として戦っていた事もあって、その身体は細身に見えてだいぶ筋肉質な体格をしており、幼く優しそうな容姿とのギャップが、令嬢達からの人気に一役買ったのかもしれない。


 しかし、そんなローランとオリヴィエを毛嫌いする者は今でも大勢いる。

「ふん! 女子ってのか顔が良ければ奴隷でもほいほい付いていくのな」


「まったく困った奴等ですねぇ」


「同じ貴族として恥ずかしい」


 クラスの男子生徒は、そのほとんどが相変わらずローランとオリヴィエを嫌っている。

 その嫌悪感は、二人が女子の注目を集めるのに従って増大していた。

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