玉骨の翼

鍋島小骨

木炭色の森

 木炭色の森には風がい。

 この森がどこから始まるのか誰も知らない。

 いつこの森に入ったのか誰も気付くことはできない。

 そして、入ったら二度と出ることはできない。




 黒い木の葉を手であおいだ。

 そうすると揺れるのではないかと思ったからだが、何も起こらなかった。

 わたしの手が空気をわずか動かし、そばの木の葉を押すだろうと思ったのに――けれどもどうしてそんなことを思いついたのだろう?

 日没の後と日の出前のほんの短い時間のみ、わたしは森を歩く。太陽が地の果てに隠れ、その残りの光が弱く世界を照らす夜でも昼でもない時間。わたしはまるできちがいのように黒い森を歩き回る。

 歩いて拾って喰う。

 歩いて拾って喰う。

 歩いて拾って喰う。

 どんどん腕の中に残骸を抱えながら、停まることなく引っ切り無しに歩いて拾って喰って、夜や朝の始まる少し前に無彩色の谷に辿り着く。

 わたしは抱えたものを谷に投げ入れる。間隔をおいて、足元よりずっと下の方で、何かがぶつかり合う音が遠ざかっていく。

 谷に何があるのか、わたしは知らない。


 わたしは木炭色の森に引き返し、大木の根っこの下に潜り込んで黒い砂の上に丸くなる。

 温度の亡い砂と、音の亡い森。

 森の形をした無の底でわたしは眠りにつく。




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