第43話 盗み聞き


 丁度良さそうな岩にヨハンが腰を下ろした。


「ギル、お前も座れ。まだアリスは来ないだろう」

「いえ、私はこのままで」

「相変わらず頑固なやつだ」


 ヨハンが優しい笑みを浮かべた。


 仮面を被った笑みじゃない。本心からの笑みだ。それに、あの話し方。

 やっぱり、私たちの前では偽のヨハンを演じていたのね。


「最初の襲撃からしばらく経ったが、何もないとはな。この機を狙って、俺を全力で殺しに来ると思ったが」

「ヨハン様の直ぐ側にはレオーネ様がいますからね。簡単に襲うことはできないのでしょう」

「そうだな。本当は最初の襲撃で俺を殺すつもりだったんだろう」

「間違いありません。私たちは嘘の説明を受けましたからね。ですが、ヨハン様はやはり神運じんうんの持主です」

「神運か。だが、運だけでは民を守れない。俺は力を手に入れるためにアルフヘイムに来た」

「はい、その通りです」


 力を手に入れることが遊学の理由?

 ヨハンたちが命を狙われているって……

 盗み聞きをしていても、私には意味が分からなかった。


「ライ王子を俺の味方にしたい」

「ライ王子をですか? ですが、本来エルフは他種族との交流を好まないと聞きます」

「それはエルフが俺たちよりも長命だからだ。ギル、お前もライ王子に会って分かっただろう? ライ王子はとても賢い。それに、レオーネからはライ王子への忠誠が感じ取れた」


 ギルを見ると、不満顔をしていた。


「私は賛成できません。この国の王カリギュラスは公爵派と繋がっています。ライ王子はその息子なのですよ」

「お前の言いたいことは分かる。間違いなくカリギュラスは敵だろう。俺の周りは敵だらけだからな。アルフヘイムにいても、油断はしない」


 公爵派って一体なんなの?

 ヨハンたちの敵だってことは分かったけど……


「俺は貴族から民を救いたい。貴族のせいで民が苦しんでいる。カール王は貴族たちの言いなりだ。俺が民を救わなければならない。そのために俺は強くなる」

「その通りです。一緒に強くなりましょう」


 トントンと肩を叩かれた。


「アリス、どうしてこんなところにいますの?」

「わぁ!!」


 私は驚いて、岩影から飛び出た。ミーアのせいで隠れていたことが、二人にバレてしまった。


 ギルが腰に差す剣に手を触れていた。ヨハンがその手を止める。


「アリス、遅かったね。僕たちの話が終わるのを待っていたのかい?」


 ヨハンは私に仮面を被った笑みを向けた。


「わ、私もさっき来たところなの。二人の話は何も聞いていないから!」

「別に聞かれても大したことはないよ。今日はレオーネ様がいないから、よろしく頼むよ」


 私とヨハンは岩山で、ミーアとギルは荒地に分かれて、稽古を始めた。


 早速、同調から始める。

 私はヨハンの右手を両手で包んだ。

 盗み聞きを追及されると思い、私はドギマギしていた。


「アリス、霊気が来ないよ? どうしたの? 何か考え事をしているのかい?」


 ヨハンの素の話し方を聞いたから、今の偽の話し方がとても気持ち悪い。


「その話し方はやめて。ギルと話している時の話し方が良い…… あ!」


 言い終えてから気がついて、手で口を覆ったけど遅かった。

 ヨハンが私をジーッと睨む。


「何も聞いてなかったんじゃないのか?」

「いや、ちょっと聞いたかも…… ハッハハハハ」


 目を泳がせながら言った。

 ヨハンの深い溜め息が聞こえる。


「もういい。元々、お前には話すつもりでいた。アリス、俺の話を聞きたいか?」


 少しだけ迷った。

 ヨハンの話を聞いたら、何か途轍もないことに巻き込まれる気がしたから。

 でも、私は頷いていた。


 私はヨハンのことをもっと知りたいと思ったから。


















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