間話 『三人称視点』 予兆
ギムト村の人々や兵士たちは魔封石による魅惑状態から回復した。どうやら一時的なものだったらしい。
木刀と木刀が交差して、乾いた音が響く。
「良い反応だ。次も止めろ」
レオーネはアリスの稽古をつけていた。アリスは直ぐ元気になり、数日前からレオーネと稽古を再開している。
霊気で身体能力を上げた攻撃をレオーネは何度もアリスに繰り出す。アリスは魔眼でレオーネの攻撃を追って、必死に受け止める。
アリスの魔眼は七色に輝いていた。
今まで魔眼を開放状態にしても、色の変化はなかったが、あの襲撃以来、色が変化するようになった。魔眼操作の最終段階に入ったと言える。アリスは自分の魔眼がどんな能力を持っているのか分かっているようだ。
だが、アリスが魔眼を使いこなすまで、もうしばらく時間を要する。油断していると、魔眼が暴走してしまうかもしれない。時折、自分の意思とは無関係にアリスの魔眼が開放状態になることがあるみたいだ。
レオーネの攻撃でアリスは地面に倒れた。
「アリス、魔眼に頼りすぎるな。その力に頼りすぎると、己の実力の向上はないぞ」
「分かってるよ。でも、レオーネの剣は速いから魔眼を使わないと避けるのが難しいし」
「慣れろ」
「レオーネ、そればっか」
レオーネはブツブツと文句を言っているアリスを無視して、自分の手を見る。
アリスの剣で軽くジーンと痺れていた。アリスは強くなっている。
霊気操作を修得し、魔眼の操作は最終段階。剣術もこの歳にしては相当な腕前。そして、自分の奥義、
「私を超えるかもしれないな」
レオーネはボソッと呟いた。
「何か言った?」
「何でもない」
不満げな顔をアリスは見せた。それを見ると、まだまだ幼いとレオーネは思う。
「レオーネ様!!」
レオーネの元に白髪の少女が走ってきた。
「ミーア、どうした?」
「お兄様の迎えが来ましたわ」
「そうか。じゃあ、行ってくる」
レオーネが馬車に乗り込むと、直ぐに走り出す。
第二王子のライから
ライのお陰でギムト村に兵士が更に増員された。ミーアが狙われたから、大変心配をしたのだろう。
ミーアは良い兄を持った。ギムト村へ来た当初に比べて、ミーアの笑顔は増えた。村人たちもミーアに良く接してくれているし、アリスという親友もできた。
しかし、
レオーネにとっては親友であったシアの愛娘である。絶対に守らなければならない。
クレール城に着いて、ライの元に通される。
「呼び出してすまない。座ってくれ」
レオーネはライに一礼をして、椅子に座る。
「
「ああ。私の部下を使って調べさせたんだ。どうやら、他国でも
「そうですか。やはり狙いは魔眼保持者ですか?」
「いや、奴らが狙っているのは魔眼だけじゃない。特別な固有魔法を使える者も拉致しているそうだ。それに、ラルヴァを操って町を壊滅させたという話も聞く」
レオーネはあまり驚かなかった。やはりそうかと思った。
以前、ギムト村にラルヴァが襲撃してきたのも
「どっちにしろ情報は足りない。レオーネなら襲撃者を捕縛できただろうに。まさか殺してしまうとは」
「申し訳ございません」
「いや、謝らないでくれ。レオーネはミーアを守ってくれただけだ。感謝している」
「当然です。シア様の愛娘ですから」
突然、ライは大きな溜め息をついた。
「どうされました?」
「父上のことが分からないのだ」
「やはりダキアのことですか?」
「ダキアもそうなのだが、最近は聖ソフィアの大貴族たちとも懇意にしているようなのだ。父上は一体何をしたいのか。ガゼル兄様がこんな時いてくれたら……」
「ガゼル様が国を出て、八十年ほどになります。剣の道を探求するためにこの国を出たお方です。おそらくこの国に戻られることはないでしょう」
「だが、もしもの時、私には父上を諌める力はない」
「そんなことはございません。皆、ライ様に期待しております。それに、私がおりますし、国民はライ様を敬愛しています」
レオーネがライの前で跪く。
「ライ様、あなた様は王になるべきお方。ライ様の治世を私たちは望んでおります」
「滅多ことを言うな。以前も言ったはずだ。私は父上の治世を支えると」
「ですが」
「言うな。レオーネ、お前は私の良き相談相手なのだ。私を怒らせないでくれ」
「…… 失礼しました」
レオーネは跪くのをやめて、椅子に座り直す。
「ギムト村の警備は任せてくれ。しばらくの間、兵士を増員する予定だ」
「よろしくお願いします」
一通り話が終わると、レオーネは席を立った。
「レオーネ、ミーアをこれからも頼む」
「はい。失礼します」
クレール城から出て、レオーネは馬車に乗り込む。馬車がガタガタと揺れながら走り出す。
すると、レオーネは顔をしかめて胸を押さえた。
キューッと胸が苦しくなるが、一瞬で終わった。胸をもう一度摩って、何でもないことを確認する。
レオーネは馬車に揺られながら目を閉じた。
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