第27話 ミーアの秘密
「謁見をした時、カリギュラス王がわたくしを酷く嫌っていたように見えたと思います。ですが、カリギュラス王にわたくしも愛されていた時がありましたわ。わたくしもそれを覚えています」
辛そうな顔でミーアが話を始めた。
だから、ミーアの話を聞き漏らさないように、私は集中して力を入れながら聞いていた。
「アリス、歯を食いしばり過ぎですわ。気楽に聞いてください」
「だって」
「そんな顔をされていたら、わたくしも話しにくいですわ」
「あ、うん。分かったよ……」
私は深呼吸をしてから、両手を使って力の入った頬の筋肉を緩める。
「ミーア、話を続けて。どうしてカリギュラス王は変わっちゃったの?」
「理由はこれですわ」
と言って、ミーアは自分の綺麗な白髪と赤い瞳を指差した。
「どういうこと?」
「アリスも知っていると思いますが、魔眼持ちは魔眼の影響で髪色が変化します」
「え? そうなの?」
「知らなかったのですか? まぁいいです。だから、レオーネさまの髪色は綺麗な青をしているのですわ。本来、エルフの髪色は金色、茶色、緑色にしかなりません」
「へー、そうなんだ」
ということは私のブロンドヘアも魔眼のせい?
だから、母様たちと髪色が違うのかな?
「でも、魔眼のせいなら、ミーアの髪色も仕方ないと思うんだけど……」
「ええ、そうですわね。でも、わたくしは白髪だけでなく、この赤い瞳も持ってしまいましたわ。この二つを持ってしまったから、いけなかったのです」
私はミーアの瞳と白い髪を見る。
どうしていけないの? こんなにも綺麗なのに……
「約六千年前の話ですわ。ナトゥレーザ王家が王を世襲し始めた頃のことです」
「ごめん。世襲ってなに?」
「世襲の意味は、代々受け継ぐということです。アリスはもう少し本を読んで、勉強をした方が良いですわ」
「それ、ルークにも言われたよ」
「ルークとは誰ですか?」
「エストー村の親友だよ」
「ふーん、そうですか…… わたくしには関係ないですわ」
ちょっとだけミーアの声の調子が低くなった気がする。気のせいかな?
ミーアの話が再び続く。
「ナトゥレーザ王家が世襲をし始めた頃、ナトゥレーザ王家に反乱を起こした人物がいます。名前をラーナ・クラウディオ。後に魔女と呼ばれる女性ですわ」
「魔女……」
「彼女の話はとても有名で、お伽話となっています。魔女ラーナと聞くと、エルフたちはとっても怖がりますわ」
「ラーナは何をしたの?」
「ナトゥレーザ一族の半数を焼き殺し、民を八つ裂きにし、アルフヘイムを破滅の寸前まで追い込んだと言われています」
それを聞いて、少しだけゾッとした。でも、それとミーアに何も関係がない。
「ラーナが悪いことをしただけなんでしょ? ミーアとは関係ないよ」
「いいえ。わたくしの容姿はラーナにそっくりなのです。そして、ラーナもわたくしと同じ赤い瞳の破滅の魔眼を持っていました。白髪に赤い瞳は魔女の象徴なのです」
「でも、ラーナの話は昔話でしょ!」
「そうですわね。確かにラーナとそっくりというだけたったら、まだましだったかもしれません」
私の手を何かを我慢するみたいに強く握る。ミーアの表情を見ると、少し涙ぐんでいた。
「わたくしのお母様はシアという名前で、カリギュラス王はもちろんのこと、民からも愛されていましたわ。とても元気で、民と交流を深めていたと聞きます。ですが、ある日からお母様の体調が悪くなりました」
「ある日って?」
「わたくしを身籠ったのです。体力はかなり消耗しましたが、難とかわたくしを産むことができました。お母様はわたくしの容姿を見ても、怖がらずに愛してくれました。ですが、カリギュラス王は弱るお母様とわたくしの容姿を見て、わたくしとお母様を引き離そうと考えたのです」
「そんなの可哀想」
「ですが、カリギュラス王、いえ。わたくしはお父様の気持ちも分かるのです。お父様はお母様を愛してましたから。だから、日に日に弱るお母様を見たくなかったのでしょう。そして、八年前。お母様は衰弱して死にました。その時からカリギュラス王はわたくしを憎むようになったのです」
「でも、ミーアの母様が亡くなったのとミーアは関係ないでしょ?」
ミーアが俯くと、私の手に水滴が落ちた。
「ミーア?」
私がミーアの様子を見ると、ミーアはいつもの話し方をしないで、泣きじゃくりながら言う。
「私、言ったわ。お母様に言ったの。私の側にいないでって。私の側にいたら、魔眼のせいでお母様が病気になるって。でも、離れないって。絶対に離れないって言うの。私の側にいたいって」
そっか。魔眼のせいだったんだ。ミーアも私と同じなんだね。自分のせいで大切な人が死んだ。
ミーアが泣いているのを見て、私が泣いた時、クラウス兄様がしてくれたことを私は思い出した。
私はミーアの頭を黙って撫でる。
しばらくすると、ミーアは鼻を
「ごめんなさい。取り乱しましたわ」
「ううん。大丈夫?」
「大丈夫ですわ……」
「大丈夫じゃなかったら、私に言って? 私がミーアを守るって約束をしたから」
「そう言えば、そんな約束をしましたわね」
「忘れないでよ」
「覚えておきますわ。わたくしの
ミーアは落ち着いてくれたみたい。いつもの調子に戻っている。
「だから、カリギュラス王はわたくしを憎み、国民はわたくしがラーナに似ているので、わたくしを恐れているのですわ。それに、カリギュラス王がわたくしを遠ざけたい理由がもう一つあります。それはわたくしの魔眼です。カリギュラス王が持つ魔眼を覚えていますか?」
覚えているよ。だって、レオーネに何度も言われたから。
「魅惑の魔眼でしょ? 見つめちゃ駄目なやつ」
「そうですわ。カリギュラス王は魅惑の魔眼で色んな人を操つることができますが、わたくしのことだけは操れません」
不思議に思って、私は首を傾げる。
「破滅の魔眼は常時開放状態の魔眼です。レオーネ様やアリスのように解放状態にする必要がないのですわ。だからと言って、そのことに大した差異ありませんが、わたくしを見る側にとっては魔眼を使われていると思うわけです。だから、カリギュラス王はわたくしを見るのが怖いのです。魅惑の魔眼を使ったとしても、自分が破滅してしまうから」
「ふーん。なるほど」
「アリスは…… 怖くないのですか?」
「何を?」
「わたくしの魔眼です」
「どうして?」
「どうしてって……」
「だって、ミーアの瞳はとっても綺麗だよ。赤い宝石みたいだって。最初に会った時から思ってたよ。それにミーアは私の大切な友だちだから、怖くないよ。あ、たまに怒ると怖いけどね」
「そうですか……」
ミーアは俯きながら、少し笑顔になっている。
もしかして、テレたのかな?
私はミーアに抱きついた。
「ミーア、可愛い!!」
「急に抱きつかないで下さい。驚きますわ」
「あれ? どけって言わないんだ」
「今日は言わないだけですわ」
「そういうことにしておくよ。ねぇ、ミーア」
「なんですか?」
「ミーアは一人じゃないよ。私以外にもさ、皆いるよ。レオーネもそうだし、村の人だって。それにライ王子だって。皆、ミーアのこと大好きだよ」
「ええ。王族の中でお兄様だけがわたくしに手を差し伸べてくれましたわ。それにレオーネ様はわたくしをカリギュラス王から助けてくれました。村の人たちもわたくしを温かく迎えてくれて、とても感謝していますわ」
「それだけ? 他に言うことないの?」
「もう! 言わないといけないのですか? …… わたくしも皆のことが大好きですわ」
「よろしい!」
ミーアから離れて、私はミーアに向かってニッと笑った。ちょっとだけ涙目になっていたけれど、ミーアも笑顔になる。
自分の秘密をミーアは話してくれたから、私も自分のことを話したいなと思った。妖精と星の盟約を結んでいるミーアなら話しても大丈夫な気がしたから。
「ミーア、私もね――」
ドドッドーン!!
私の言葉が消えてしまうほどの振動音が響いた。そして、ギムト村の危機を知らせる叫び声も聞こえる。
「ラルヴァが出たぞーー!!」
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