第13話

「なぁ相棒、砂時計の創り方を俺に教えてくれないか?……試したいことがあるんだ」

相棒が瞬きをする。

「まさか砂時計を創るの?」

「……仕組みを知りたいのさ」

アレストが言うと、相棒が「分かったわ」と言った。

「本当はダメよ。世界で知っている人はたった1人私だけだし、悪用されたら大変なことになるんだから」

「危ないことなのに俺に教えてくれるのか?」

アレストが聞くと、相棒が「もう!」と腕を組んだ

「あんたは苦労してるじゃない!だから、砂時計の被害者を増やすわけが無いわ。信頼してるのよ、これでもね」

アレストは自分の胸があたたかくなるのを感じて不思議に思い、思わず胸に手を当てた。

(?なんだこれ。嬉しい……?俺、嬉しいのか?何故……)

「アレスト、砂時計にはね」

相棒がアレストの耳に囁く。

「砂と容器、そして所有者候補が必要なの。そしてこれらは全て『生きている人間』が材料……」

生きている、人間……。

「砂は人間の寿命。ころした人間の寿命によって砂の出る量が違うわ。老い先短い老人ならば5年を刻む砂だけど、小さい子どもからは80年分が出ることもあるわ。量はころさないと分からないけど」

「容器は人間の体そのもの。だけど、所有者候補の血とほぼ同じ血を持つ人間じゃないと失敗してしまうわ。具体的には親やきょうだいが一番良いわ」

「そして所有者候補……。これも人間の体そのものよ」

全てが人間の命でできている。それが永遠を刻む砂時計……。

「創り方は簡単。これらを組み合わせるだけ。だけど、重要なことがあるの」

ルイスが深呼吸をする。

「……ただ闇雲に材料を用意してもダメ。順序が重要よ。最初に所有者候補を用意して、肉親を容器にしてその体に入れてから他人をころして砂を注ぐのよ」

「そんな非道なことが……」

アレストが視線を落とす。

「神は安くないのよ」

ルイスが続ける。

「神を創るには人間の命がたくさん必要だった……」

「……」

「少なくとも、昔のシャフマには必要な神だったのよ。きっと。

でももう要らない。そうでしょう?アレスト」

「あぁ。やはり量産なんてダメだ。絶対にやらせてはいけない。俺の時計もなんとか安全に壊すしかない。再利用は出来ないと言っていたが、容器が残っていたら砂は注げるかもしれないだろう」

アレストの声は震えていた。

(禁忌そのものじゃないか)

(はやく、壊さないと)

(しかしどうすればいい?どうすれば壊せる?)

(相棒も知らないことを、試さなくては)

(俺が……『王子』として)



〜夜 アレストの部屋〜


「ぼっちゃん、新しい王子服を作る許可が下りました」

「おぉ、それは嬉しいねェ。デザインは俺が決めて良いのか?」

「はい」

「ふふふ」

アレストが机の中から紙を1枚取り出した。

「……その前に、体の計測だけさせてください。布の準備がありますから」

「あぁ。そうか」

アレストが真っ白な王子服を脱いでソファーに置く。リヒターが長い紐をアレストの体に巻いていく。

「力を抜いてください。あ、腕はそのままで」

「うん……」

大人しく棒立ちになるアレスト。

「どうだ?父上と比べて」

「ヴァンス様の方が大きいですよ。当然です」

「……父上を測ったことあるの?」

「目視ですが」

「10センチは違うかもな」

「15センチは違います」

「俺も結構大きい方だと思うが」

「えぇもちろん。次、ウエストです」

リヒターがアレストの胸や腰のサイズをメモしていく。

「暇だねェ」

「……肩幅を測りますよ。後ろを向いてください」

「分かった」

リヒターに背中を向ける。

「……赤い砂時計……」

いつもより高い声。

「あんた、俺の見たこと無かったか」

「はい……。本当に、本当にヴァンス様から受け継いだんですね」

「もう26年は経っているぜ?まぁ俺は普段背中を晒さないから、実際に見ている人なんてほとんどいないんだが」

リヒターは黙りこくっている。

「……本当に、あるんですね」

「ないさ。永遠の砂時計なんて」

2人はそれ以上話さなかった。

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