砂時計の王子 〜episode of Alest〜

まこちー

序章

(このエピソードは『砂時計王子』本編と『砂時計の王子 episode0』を読んでからお楽しみください)


カタカタカタカタ……

「ぼっちゃん」

カタカタカタ……

「食事の時は極力音を立てない」

ガタッ

「机に足を乗せない」

グチャッ

「口に合わないからと言ってすぐに吐き出さない」

「……」

「野菜も残さず食べる」

「ごちそーさん」

「残っているのに言わない」

「はぁあー……」

「ため息をつかない。全く、あなたは食事ひとつもまともにできないんですか。それから『ごちそうさまでした』です」

「ゴチソウサマ、デシタ」

「……」

ぼっちゃん、と呼ばれた男が席を立つ。皿の上にはピーマンと吐き出した何かが乗っていた。

「リヒター、皿は片付けるから勘弁してくれないか?」

「いけません」

「そぉんなかたいこと言うなよ……ふふふ、どうせ父上に言われて俺の躾をしているだけだろう?」

「ヴァンス様の命令は絶対です」

「あのねェ……」

ぼっちゃん、は腕を広げてため息をつく。

「あんたは俺の従者サンなの。他の男の名前を出されたら傷ついちまうだろう?」

「妙な言い方をしないでください。アレスト、黙って座り、ピーマンを食べなさい」

「ちえっ……」

アレストはピーマンを口に含む。そのまま何度か噛むが、やはり吐き出してしまった。

「全く……」

「……つまんない味」


アレスト・エル・レアンドロ。トルーズク大陸西のシャフマ王国の王子。今日は彼の26歳の誕生日である。

「王子サマの誕生日だってのに、むさくるしいオッサン従者と2人きりでディナーか。しけているにも程があるぜ」

朝に整えた黒い髪はピンピン外に跳ねているし、白い王子服は胸と太腿の辺りがパツパツだ。細い腰に合わせて作ったのだろう。窮屈そうに肉が乗っている。

「あなたは王子ですからね。外で食事などできませんよ。危険すぎる」

「砂時計が『割れる』からだろう?ふふふ……みんな心配性だねェ……俺は体も心も頑丈だってのに」

「何があるか分からない以上、あなたには王宮内にいてもらうしかありません。それが嫌なら子どもを作りなさいとヴァンス様にも言われているでしょう?」

「許嫁とは『仲良く』しているさ。昨晩だって激しかったぜ……」

「……具体的ことは聞いていません。あなたは26歳でしょう?女性と何度夜を共にしても、子ができないのは不自然だと言っているんです」

リヒターがアレストの皿を片付けながら言う。

「……」

「アレスト、何故砂時計を継承しようとしないんですか?シャフマ王国はあと4年で1000年を迎えます。それまでに後継者を作ることは王子として急務ですと何度も伝えているでしょう。

それに、なにより……」

そんなに自由を愛しているあなたが一番辛いのではないか。

リヒターは、それを言おうとしたが言えなかった。

ふとアレストの顔を見て、言えなくなったのだ。

「……ギャハハ!!ギャハハ!!悪いね!俺はあんたたちが『後継者がいない』と慌てるのを見るのが趣味なのさ!!ギャハハ!!」

「ぼっちゃん……!!あなたは!本当に性格が悪い!!誰に似たんだ!!」

「そりゃああんただろ!育ての親の性格が移っちまったのさ!ギャハハ!!」

盛大に破顔して爆笑する王子を見て、従者リヒターは頭を抱えてため息をついた。

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