世界の真相 その二

「さ……サツキ……?」


 サツキ。もしかして、1472年に、巻き込まれて無理やり転送されたっていう、タクト君の友達?


『えーっと、タクトじゃない人たちにも聞いてほしいんだけど、ごめんなさい! この装置は、未来にはアクセスできません!

 地震も起こりませんよ~!

 私が、プログラムを書き換えました!』


 ざわっと未来人たちが騒ぎ出した。


『私、皆さんよりずうっと前、これを皆さんが見るより、ずっとずーっと、何百年も前に、ここに来ました。ここの建設を、手伝いました。

 好きで飛んできたわけじゃないけど、いずれここに、皆さんが移住完了したら、地球の環境が悪化しないように国を乗っ取って、対策を講じていく。私たちがいた世界みたいに、ひどい環境にならないようにするためだって聞いて、それはもしかしたら、地球にとっていいことかもしれないって、思って。

 それに、タクトがここに飛んで来れてたら、きっとタクトは本物の空を、見れるんだろうなって。そうも思って。

 それで、協力しました!』


「サツキ……!」


 タクト君が弱々しくつぶやいた。

 この人が、サツキさん。

 私と同じ歳くらいで、ショートボブの黒髪が、活発そうで。

 すごく、普通の女の子に見えた。


『けどね、私は、普段ここじゃなくて、里で暮らしてて。この施設に里のみんなが気付かないようにしてるの。

 ここにはね、竜神さまが住んでて、私はその竜神のつかいの巫女ってことに、なってるんだよ! すごいでしょ!』


 ――え?


 じゃあ、皐月姫って……サツキさんだったの?

 金ぴかの皐月姫像を思い出す。髪型と言い、顔つきといい、まあ、想像で作られたものだろうから仕方ないけど、全然別人だ。


『あのね、里の皆さんは、本当にちゃんと、生きてるの。この湖を、神様からの贈り物だって、すごく大切にしてる。最近、近くの川から来たんだと思うけど、魚も住み始めたんだよ。

 自然を、信仰を、本当に大切にして、一日一日を、丁寧に生きてる。

 この湖はさ、この里はさ、彼らのものだよ。

 彼らの子孫に、受け継がれるべきものだよ』


 サツキさんの言葉に、みんなが聞き入ってる。

 タクト君の顔は、後ろ姿になってしまって、見えない。


『でもね、計画が最終段階まで進むまでに、まだ何百年ってかかるんでしょ? それだけあったらさ、みんなも気付くと思うんだ。

 こんなこと、やっぱり、よくないってさ。

 だから私、賭けることにしたの。

 みんながもうやめようって気付いて、やめてくれて、この施設を閉鎖してくれたらそれでよし。

 もし、やめないで、最終段階まで進んで、最後最後の、大地震を起こす、このコマンドを入力してしまったら、その時は、この動画が流れるように。

 

 そして、動画が終わると同時に、この施設の電力が、完全にダウンするように』


「なんだって?」

「大変だ!」

「全員、急げ! 退避の準備だ!」


 白衣の人たちがざわめいて、一斉に動き出した。

 

『あ、安心して! 私がしゃべり終わってから、十分間。別の動画が流れるから! その十分の間に、みんな退避してね!』


 三十人くらいの人たちが、右往左往し始める。

 数人が、エレベーターに殺到して、エレベーターの重量オーバーらしい警告音がした。

 怒鳴りあう声と、子供の泣き声がした。


 ひどい混乱だ。


『タクト。ネットだけの仲だったけど、初めて、私を、外にいるからって理由で差別したり、嫌ったりしないでくれた、初めてのともだち。本当に、出会えてよかったと思ってる。

 私、ツクヨミとか、ツクヨミの信奉者の人たちとか、あんまり信用できないなって思ってるんだけど、タクトのことは信じてる。

 だからもし、タクトがこの動画を見てる……つまり、未来のこの世界にいるのなら、お願いがあるんだ。

 私は、この世界からツクヨミに、準備完了のアクセスができないようにしちゃったから、この世界を、地球を、環境破壊から守る、多分、一番最短で簡単な手段を、消滅させてしまったことになる』


 サツキさんの目に、涙がにじんだように見えた。


『だから、私のせいで、この地球も、まだ環境破壊されて、外に住めなくなっちゃうように、なるかもしれない。

 お願い。タクト。それを、止めて。

 この地球を、守って。

 わがままばっかり言って、無理難題おしつけて、本当に、本当にごめんなさい。

 でも、信じてる』


 タクト君が、片手を、モニターに伸ばした。

 絶対に届かないその手を。


『さようなら』


 ブツン!

 

 サツキさんの言葉が途切れると同時に、画面がブラックアウトした。

 そして直後に、画面いっぱいに、真っ青な空と、それを写す巨大な湖が映った。

 その湖には、ソーラーパネルは浮いていない。


『タクト~! これが、青空と、銀竜湖だよ~!』


 カメラが動いた。

 湖沿いにはアスファルトを突き破り、ガードレールを埋め尽くす、雑草や木たちが映っている。


 これは……


「空の、動画」


 タクト君のひび割れた声が聞こえた。


「あり、がとう」


 タクト君が、膝をついた。

 私は、思わず駆け出して、タクト君の背中を抱きしめた。

 そのまま、二人で泣いていた。

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