あれは、何だったのだろうか

時は遡る


「キャンプは楽しかったな」

「ところで、哲也。鈴香さんとバーベキューの食材を買いに行ったけど、スーパーから帰ってくるのに時間がかかったな」

「まあ、いろいろ材料を見ていたから」

「そうか…」

「お前達は何をしていた……」

「とくに、それぞれかな」

「そうか」


僕は美幸さんといて、幸せだった。

妻も結婚当時も同じくらい優しかった。その頃を思い出す。

鈴香はそう、私の妻。哲也はその後に自殺だった。

理由は僕が騙して鈴香を奪ったからだ。

屋台であった哲也はなんだったのだろう。幻覚なのか、現実なのか区別がつかない。

果たして背中の傷はしかし美幸さんは。

背中の傷については何も言わない。

やはり夢を見ていたのだろうか。


鈴香は今はどうしているのだろうか?

僕の事を愛しているなら心配しているにちがいない。


しかし


鈴香は僕が騙していたことを気づいているような気がする。

なんとなくだけど、宮田さんはどうしたのだ?

妻の事も気になる。


美雪さんは優しかった。

僕が隠れて酒を飲んでいても、決して怒らずに心配そうな表情で僕を支えてくれて

励ましてくれた。

彼女のおかげで酒は自分の力で断酒できるようになったのだ。

しかし、僕は鈴香のことが気になり始めた。

なぜなら、背中には傷がなかったからだ。

あれは、僕の幻覚に過ぎない。

どうして、疑って逃げてしまったのだろうか?

美雪さんもいる、鈴香もいる。

僕はどうすればいいのか。

さびしく、夕暮れ時が僕に美雪さんと別れる事を許してくれた。

しかし悲しかった。


鈴香は優しく僕を受け入れてくれた。

何て事をしたのだろうか。

美雪さんは、きっと僕の事を……

しかし、あれは幻覚だったのだろうか?

怖い。

鈴香が怖い。

なぜなら、以前より優しいからだ。

まるで、新婚時代に帰ったようにも感じる。

鈴香と美雪さんが重なって見える。


目の前には青くすみわたる海が広がる。

周囲に赤い薔薇が咲き乱れる中に僕の屋敷がある。

屋敷の中の静かな波の囁きに、黄金色の夕日の明かりが照らしていた。

照らす光りの中に静かにうでが咲いていた。

うでは建物の和室の中央に咲いている。

あざかやかなな紅色のしたたる。

滴とともにそこに僕はいた。


は、まただ。


「あなた、どうしたの?さっきからうなされていたわよ。この間もそうだったでしょ。でも、もう、お酒は完全にやめているのに」

「そうだよな、今はもう幻覚もないし。お前も優しい。ただ、あれは何だったのだろうか」

「なあ、鈴香そうだよね」

「そうよ、背中の事を心配しているのでしょう」

「そうなんだ。実は背中が痒くてな。でも、夢をみて汗のせいで背中が痒いのだろう」

「そうよ」

「気にはなるけど」

「もう一度見てみましょうか?今度は完全にお酒もやめているから、大丈夫よ。見せてみて」

「ああ」

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