酒というロマン

「ふふふ、窓から逃げたのね。すぐ、追いかけてあげるから」

「わああ、助けてくれ」

「待って、あなた。待て、このやろう」


逃げろ、逃げろ、逃げないと。


ふふふ


やっと逃げられたか。どうすればいいんだ。


「大丈夫よ。後ろにいるわよ」


わあああ


ふふふ


「やめてくれ」

「あなた、幻覚よ。今から病院に行きましょう。すぐ、そこだから、背中をさわってみて。どうもないから」

「本当だね」


ピンポーン


「すみません、夜分、遅く申し訳ありません。田代です。主人が興奮して」

「少々、お待ちください」

「あなた、私はあなたを愛しているのよ。病気だから診てもらいましょう」

「ああ」

「どうぞ、田代さん」

「はい」

「田代さん、相変わらず酒を飲んでいますね」

「いいえ、最近は少しだけです」

「どの程度ですか」

「1日に焼酎を3合くらいです。以前みたいに、朝からは飲んでいません」

「それでも、飲みすぎですので入院しましょう」

「どの程度の期間ですか?」

「まあ、半年くらいですね。辛いですが、覚悟はありますか?」

「はい、幻覚を見なくてすむなら……」

「いえ、田代さん。離脱症状と言いまして、アルコールを断つとどちらにしても幻覚はありますから、そこは乗り越えましょう」

「わかりました」

「あなた、大丈夫よ。私がついているから」

「ありがとう。頑張るよ」


*現代医学とは異なる部分もありますので、同意の上でお読みください

あくまでも、創作になります


この日を境に地獄の日々が始まった

幻覚をある程度は抑える薬はあると、主治医が説明はあったが……


「田代さん、夕食をお持ちしました」

「今日は何かな」

「今日はうなぎですよ」

「おお、いいな」

「ふたを開けてみてください」

「はい」

「うわああ、蛇が渦巻いているじゃないか。こっちに来るぞ」

「大丈夫ですよ。うなぎです」

「あああ、どうして、お前が」

「だって、蛇はあなたの好物でしょ」

「落ち着いてください」

「蛇が、うわああ、ゴキブリがベッドに……」


このような日々がしばらく続いた。


半年後


「田代さん、よく乗り越えました。この辛い経験を忘れずに断酒するのですよ」

「ありがとうございます。先生」


しかし


お、屋台があるじゃないか。でも、断酒だったな。


「おお、京助じゃないか」

「孝雄」

「屋台で一杯やっているんだ」

「お前も軽くどうだ?いや、俺は断酒しているんだよ」

「そうか、一杯だけならいいんじゃないか。ここの焼鳥は上手いぞ。ビールに最高だよ」

「人生、好きなように生きないと」

「まあ、そうだな。一杯だけならいいか」

「元気にしてるか?京助」

「やっと退院したところだよ」

「じゃあ、乾杯祝いだな」

「一杯だけだよ……」

「そうか、わかった」

「久々、最高だな」

「もう一杯くらいは大丈夫だろ。酒も女も2合までというじゃないか」

「そうだな、まあ、俺の人生だからな」

「よし、乾杯といくか」

「おう、乾杯」

「上手いなあ。よし、今日はどんどん飲むぞ」

「最高だな、京助」

「あれ、京助は背中のシャツに血がついているぞ」

「嘘だろ?」

「ちょっと背中を見せろ」

「ああ、そんなはずはないぞ」

「お前、そのかきむしられたような傷はなんだ」

「嘘だろ……」

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