私が経験した不思議な話

@nemeyon

第1話 黒いもやもや

数年前の話です。


その頃私は、原因の分からない体調不良に悩まされておりました。


どこか痛いとか、微熱が続くとかいうわけでは無いのです。


食事も普通に食べていましたし、人並みな悩みはありましたが、


別に深刻な悩み事があったわけでもなく、眠れないこともなく。


ただ何となく全体的に体が重く、ひたすらしんどいという感じ。


病院で血液検査とかして貰いましたが、


これといった要因は見つかりませんでした。


人から勧められたサプリや漢方もあれこれ試してみましたが、


改善されぬまま、憂鬱な日々を送っていました。



ある日の朝、起きるとお腹と背中に刺すような痛みが走りました。


やはり何かの病気だったに違いない。


もう一度、診察して貰おうと近くの病院に行くため家を出ました。


病院を変えたら、また違う結果が出るだろうと思ったからです。


不可解なのはここからでした。


私は病院に行くつもりだったのに、


なぜか「○○院へ行かなくちゃ」と思ってしまったのです。



○○院というのは以前腰痛で1、2回お世話になった整体ですが、


もう何年も行ったことがありませんでした。


ましてやかなり遠くの場所にあるのに、


なぜそう思ったのか自分でも説明がつきません。


「とにかく、行かなくては」


「腰も痛いのだから、行く理由にはなる」と自分を納得させ、


私は○○院へ向かいました。


考えてみれば、いつもなら予約を取ってから行くはずなのに、


その時はそんなこと、頭の隅にも浮かばなかったのです。



院に着き、先生から「どうされましたか」と聞かれて、


実は答えに窮してしまいました。


その時にはすでに、あの刺すような腰痛も腹痛も、


煙のように消えていたので。


仕方なく「あの、さっきまで腰が痛かったのですけど…


今は収まりました」と答えました。


先生は初老の男性ですが、とても温和そうな方です。


その先生が私をじっと見て「ああ」と言いました。



そして「そんなものを背負ってたら腰も痛くなるよね」


と言うのです。


先生は私の背中側に回ると、


片手でポンポンと何かを払ったようでした。


吃驚しました。


ずっと続いていた体の重みが急に消えたのです。


同時にしんどさが嘘のように消えて、体が軽くなりました。


「ずっと体調が悪かったでしょう?」と言われ、


もう頷くしかありません。



恐る恐る、


「あの……私の背中に何かいたのでしょうか?


もしかして……霊、とかですか?」


と聞くと先生は笑って


「あれが霊かどうか分からないけど、黒いもやもやしたものだよ。


あれが付いてる人は大抵体調が悪いんだ」


と答えました。


先生によると、やはり痛みを訴えてくる人の中には、


私のような黒いもやもやを付けてくる人がいるそうです。


そういう時には、素知らぬふりで払ってあげるのだとか。



「痛みがあるから憑りつかれるのか、


憑りつかれるから悪くなるのか分からないけどね。


痛い上に体調が悪いんじゃ気の毒だからねぇ……


なるだけ払ってあげてるけど、あんまり酷い人は僕にも払えないよ」


ちなみに、なぜ先生には黒いもやもやが見えるのか、


なぜ払えるのかは先生にも分からないそうです。



あれから数年経ちますが、


あの時の出来事はいまだに忘れられません。


なぜ、あの時、先生の所へ行く選択を思い付いたのか。


いまだにどうしても説明がつかないのです。


二十数年生きてきて、理屈に合わない現実は確かにあると、


初めて思い知らされた出来事でした。

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