012 対アンソニー戦
カナタはすぐに、
相手が予測不可能な動きをしているわけではない。身体が大柄な分、むしろ少し
だが、その相手の持つ武器が一番厄介だった。
「
しかも
辛うじてパス、パスと鳴っている音が耳に届いてはいるものの、それだけで相手の位置を特定することは難しい。こんな森の中では月明かりもほとんど差さないので、相手の身体や銃が視界に映ることはほとんどなかった。
(でもあまり撃ってこぉへん……多分、弾がほとんどないんやろうな)
相手がどこから来て、どう暮らしていたのかは分からないが、元は銃を手に入れられる場所にいたことは間違いない。そして、今では銃弾を手に入れることができない場所に来てしまったことも。
しかも銃を使い慣れているということは、銃弾の貴重さも理解しているということになる。つまり、無駄弾は期待できないということだ。
(だからその分、逃げる余裕だけはあるねんよな)
火縄挟みに挟んだ縄の火を
必要なのは相手の正確な位置と、冷静に狙いを定めることができる少しの時間。
(ちょっと賭けやな……これ)
(……ま、元から死んどるようなもんか)
腹は決まった。後は実行に移すのみ。
「あまり撃たせないでくれよ……」
この世界に来て、自動拳銃はあまり使わないようにしている。火力が弱いので魔物を狩るのには不向きだし、人を狩るなら
なにより、
「連射できれば楽なのに……」
普段ならば足元に連射して、強引に動きを止めていた。だが相手は銃を使う相手に対して対処法を心得ているのか、可能な限り痕跡を消しながら、身を低くして逃げ回っている。
おまけに、銃弾の残りはさほど多くない。ここで無駄遣いするわけにはいかなかった。
「……見つけた」
左手で
「これで……」
――ダァン!
相手が発砲した。
的を外した為か、相手の女もまた、急いで背を向けて逃げ出している。装填させる暇さえ与えなければ、
銃弾の節約を優先し、自動拳銃を腰のホルスターに戻してから急いで追いかけていく。左手に握っていた
「あと少し……っ!?」
すると突如、舞い上がった金髪が月明かりに照らされる。その女は何故か身体を
「なっ……」
――ダァン!
すでに放たれたはずの銃弾は、何故か腹部に撃ち込まれていた。
「ふぅ……」
うまくいったことに、カナタは一先ず
最初に
接近戦でしか役に立たない
「お
先程からこちら側の銃声しか響いていない。ユキも
向こうから銃声が響かないのも、それが原因かもしれない。
「
火薬入れで今度は銃口から火薬を
カナタの頭上を銃弾が飛んでいく。
「なん、っ!?」
振り返った先に、撃ち抜いたはずの男がいた。しかしかすかな月明かりでも、相手の身体がどうなっているのかはまだ見える。
「
相手は防弾ベストを身に着けている。しかも通常の火薬量では
――ダァン!
「うわっ!?」
相手の男、アンソニーから声が漏れる。
先程の銃声はおそらく、ユキが放ったものだろう。どうやったのかはともかく、火を点けることには成功したらしい。
しかし向こうはカナタが放ったものと勘違いしたのか、
たとえ苦し紛れだとしても、当たってしまえば人なんて簡単に死ぬ。
(かと言って、防弾ベスト相手やと……)
相手が冷静さを取り戻す前に、手を打たなければならない。
そう考えた瞬間、予想外の出来事が起きた。
――ドォオオオオ……ン!
「あわわわわわ……っ!?」
「お
おそらくは火薬入れに引火したんだろう。まとまった量の火薬でなければ、あんな爆発音は起きない。
しかしツッコミを入れている暇はなかった。スカートの中から
いちいち弾を入れている余裕はない。それに、この
「くっそ、クローデットは大丈夫なのか……?」
弾切れになったのが、逆に冷静さを取り戻すことに繋がったらしい。
ぼやきながら自動拳銃の弾倉を取り替えようとしている間に、カナタは
「なあ、おっちゃん!」
「なんだ小娘っ!?」
銃床から新しい弾倉を叩き込むのと同じタイミングで、カナタは叫んだ。
「……自分、フレシェット弾って知っとる?」
――ダァン!
「ごぉっ!?」
カナタが
「が、ぐ……っ!」
「ハア……ほんま疲れるわ」
野生の
「早いとこ銃を取り上げんと、な……」
しかし、相手は死んでいなかった。
防弾ベストを貫くことはできた。その証拠に、今もゴボッ、と腹部から血液が音を立てて零れていくのが聞こえてくる。しかし致死量に
「お、オ、まえだけ、で、もぉ……」
しかし、カナタが見ているのは自動拳銃の銃口ではない。
「……悪いが、」
「そいつは俺の女だ。誰にもやんねえよ」
殺された人達の恨みだとばかりに、カナタの目の前で、ユキは
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