第5話 みちのくの...(一)

 今日も暑い。

 こういう日はやっぱり『そうめん』だよね。

 #牛頭__あか__#さんが昼飯に呼びに来たんで行ってみたら、氷水に締めた美味そうなそうめん......ではなく冷や麦だった。

 色つきの麺が珍しくて、そっちにしたらしい。まぁいいけど。

 


「宿題は終わったんですか?」


 #馬頭__あお__#さんが、つるるんと器用に麺を啜りながら言う。


「高校に宿題は無いよ」


 みんな受験を控えて、夏期講習とかインターハイ前の部活の合宿とかで忙しい。


「俺は帰宅部だから気楽だけどね」


『そうはいかん』


 て誰よ。その野太い声でわかるけどね。

 ざくざくと雑草踏んで、庭の奥から#平将門__たいらのまさかど__#もとい平野先生が片手にスイカを下げてご登場。


『土産じゃ』


 気が利いてるじゃん、先生。


『そこの農協で買ってきたから心配ないぞ』


 お気遣いどうも。地産地消は大事です。先生の冷気でよく冷えてるし。


「切ってきますね」


と座を立った#馬頭__あお__#さんの代わりにどっかり座り込み、冷や麦に手を伸ばす#平野先生__まさかどさん__#。


「あ、新しい器ありますよ」


#牛頭__あか__#さんからきれいな蕎麦猪口を受け取って、まずは一口。


「ほぅ、美味いのう」


「もう少し茹でますか?」


と言う#牛頭__あか__#さんに、『それには及ばん』とのたまいながら、赤いのや緑色の麺を珍しそうに啜り込む。


 こっちでの食事どうしてんのよ?と思ったらコンビニ弁当か外食なんだって。学校の斜め前のお蕎麦屋さんがご贔屓らしい。


『勉強は進んでるか?』


 ちーっともです、先生。だって興味無いから、全然頭に入ってこないんです。


『仕方ないのぅ......』


 深~い溜め息。

 と、表の玄関の辺りに人の気配。




「こっちにいま~す!」


「あ、いた!」


 俺の叫びに答えて、庭石踏んで走り寄ってきたのは、親友の水本。あれ?今日お前、バスケの練習は?


「今日、練習休みだから遊びに来た。......あれ、平野先生?」


「よぅ、水本。お前も食うか?」


 目をまん丸する水本にニッカリ笑い、縁側にどっかと座って、スイカをカプつく#平野先生__まさかどさん__#。


「どしたんですか?先生。......あれ、コマチ、そっちの人達は?」


「あ、あぁ、じいちゃんのお弟子さん。牛尾さんと馬込さん。家の留守番頼んだんだって」


「駒治くんの家庭教師もね」


しどろもどろになる俺を#馬頭__あお__#さんがにっこり笑ってフォロー。うん、イケメンな爽やか笑顔。地獄の鬼とは思えません。ー実は地獄でも若いお姉さんの亡者に人気なんだって。まあ、わかる。


「家庭教師って......あ、お前、日本史ボロボロだもんな。俺が教えてやったのに」


 ひょいとスイカを一切れ掴んで頷く、悪友。


「だってお前、教えるって言いながら、ゲームの話ばっかだったじゃんか」


 そう、実はコイツ、歴史オタクで#平野先生__まさかどさん__#とは大の仲良し。歴史シミュレーション・ゲームにハマってて、来るたんびに『推し』を熱く語るんだけど、俺にはイミフ。


「そんなこと無ぇよ。この辺が小野小町の出身地だから、コマチの家があるんだって、教えたろう?」


「伝説じゃねぇか、それ」


 そういう伝説はあるけど、こんなド田舎に絶世の美女なんかいるわけないじゃん。まあ、和泉先輩は別格だけど。


 俺たちのやり取りを聞いてた平野先生、ははは......と豪快に笑って立ち上がった。


「せっかく水本もいるんだ。校外学習にでも行くか?」


「校外学習?どこですか?」


 キラッキラに目を輝かせる水本。本当にお前、歴史好きだな。


「来ればわかるさ。おい、誰か車出せるか?」


「出せますよ」


#平野先生__まさかどさん__#の言葉に、サクッと車のキーをちらつかせる#牛頭__あか__#さん。


 え?運転免許持ってるの?


『教習所もあります』


って、こっそり#馬頭__あお__#さんが俺に耳打ち。

 すげぇわ、地獄。自動車教習所まであるんかい?!


「じゃあ、行ってきます」


 #牛頭__あか__#さんのハイブリッド・カーに乗り込む、俺と水本。そして#平野先生__まさかどさん__#。#馬頭__あお__#さんは留守番だって。


「夕飯作っておきます。お赤飯炊いておきますから、デビュー戦、頑張って!」


 にっこり笑ってお見送りの__#。#馬頭__あお__#さんから何やら不穏な発言が......。


 

 え、えっ?......今の何ぃ~?


 





 


 

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