2.
子供のウソというのはカワイイものだ。
「さっきそこにゾウさんがいたよ」
「しらないおじさんが、ケーキ持ってっちゃったの」
豊かな想像力は成長の証である。それが本当のことでなくても構わない。
しかし、翌日の新聞記事はこう伝えていた。
「○△動物園からゾウ逃げだす」
「逮捕された空き巣 子供のケーキまで奪う」
子供の頃のオレにも想像力はあっただろうが、単に事実を述べていたってことになるのか。
友達のユウくんと遊んでいたときだった。
ユウくんが持っていたのは「キンダム」。アニメの主人公ロボットのおもちゃだ。
一方自分のおもちゃは「バム」。敵側のやられメカだ。おもちゃ屋でよく知らずに見た目だけで買ってもらった「バム」はカッコよかったのは間違いなかったが、ザコはザコだった。
ユウくんと言い争いになった。
「キンダムの方が強い」。
そりゃ主人公ロボなのだから弱いワケがないのだが、
「でも、キンダムはバムにやられちゃうんだもんね」
と強がりを言って別れた。
その日の晩、「機動戦士キンダム」にキンダムは出てこなかった。
先週の放送でバムに破壊され、新しい主人公ロボに交代していたのだ。
今となってはリアルな戦争を描いたアニメの名シーンとして語り継がれているエピソードであるが、当時のオレには衝撃だった。
--------------------
「仲間、仲間 宗(なかま そう)」
「・・・あ、はい」
中学の歴史の授業でオレはある違和感に気づいた。
「鎌倉幕府ができたのは何年だ?」
「え?
ええっと・・・
(ヨイハコ・・・4185? これじゃ未来だな)
485年?」
「おー、
なんだマグレか?
ちゃんと授業聞いてろよ」
スマホゲームの攻略法に比べたら鎌倉幕府のことなどどうでもよかった。
不意打ちをくらったオレは慌ててテキトーな数字を答えたのだが・・・
これ合ってたか?
485年? たしか4ケタだったハズだ。
なんか正解した雰囲気になってるが、おかしいだろ?
パラパラと教科書をめくって確かめたが、鎌倉幕府の成立は 485年であると書いてある。
どういうことだ?
ヨイハコ・・・イイハコ!?
1185年だ。絶対そうだ。
教科書に書いてある数字が間違ってる!
・・・のか?
-------------------
高校に入った頃にはすっかりオレの能力は把握できていた。
「昨日の M-1 見たか?」
「おお、見た見た。オレは最初からチョッコリブランケットが優勝すると思ってたね」
スマホゲームで寝落ちしたので M-1 は完全に見逃していた。
みんながその話題で盛り上がっているところに、何も知らないオレは当てずっぽうで首をつっこんでいただけだった。
家に帰って録画を確かめると、自分がテキトーに話したところは全てそのまま事実であった。
<ウソを本当にしてしまう>
神にも匹敵するこの能力には制約があった。
過去を書き換えることしかできない。
これから起きることをああだのこうだの言ってもそうはならないのだ。
そして、人に話さないと効果はない。
頭で考えたり、紙に書いたりしても意味がないのだ。
この制約のおかげで、歴史のテストはいつも人並み以下であった。
実際にウソを公言するというのはそれなりの覚悟が必要だ。
こんなチート能力 いつなくなったっておかしくない。
常に 大ホラ吹き と呼ばれるリスクを伴うのだ。
そして、ウソが本当になったとしても、いいことばかりではなかった。
宝くじで100万当てたことで大注目を浴びたオレは、しばらくこの力を封印することになる。
-------------------
大学受験に失敗したオレは、何食わぬ顔で一流大学のキャンパスを歩いていた。
過去を書き換えたのだ。
その後の大学生活は散々なものだった。
実力で受かったヤツらとのレベル差を目の当たりにして、この能力の恐ろしさを思い知ったのだ。
ウソで固めた人生に中身などない。簡単に壊れてしまう。
それを知れただけでもよかったのか。
社会人となったオレは、非正規雇用のプログラマーとして人並みの生活を送れるようになった。
これは自分の力で手に入れたものだ。
職場では宝くじのよく当たるラッキーマンと呼ばれている。例のチート能力もほどほどに使いこなせば悪くない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます