深淵

411号に外灯は無い

全くの暗闇だ

奥多摩湖を過ぎてひたすらそんな道を塩山方向へ向かう

道幅は所々狭く舗装も痛みが目立つ

山道特有の曲がりくねった道中

小さなトンネルをいくつか潜る

何の前触れもなく”それ”はある

緩やかな右カーブの左側

数台の車がかろうじて停められるスペースを木々が囲む

”おいらん渕”と記された案内板と慰霊塔


ここは深い山奥だ


木々の奥から沢の流れが聞こえる

我々9人が分乗してきた3台の車は木々の方向へ頭を向け

エンジンもかけたまま

ライトも付けたまま

それぞれが車の前に佇んで周囲を見渡している


「ん?何かあるぞ」


ライトに照らされた先に何かがある


それは、どうやら沢の方へ下ることが出来る小道の入口に見えた


・・ここは五十五人の遊女が宴舞台ごと谷に落とされた場所・・

そう記した案内板の内容が頭を瞬間よぎる


9人は誰が言うまでもなく

その小道へ足を向けた


これが全ての始まりだったように思う。


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