漆黒

灯りの無い道を走る

国道411号線、またの名を”大菩薩ライン”という


大菩薩という呼び名の由来は、平安時代、後三年の役で東征した源義光が道に迷っていたところ、樵夫が現われてこの峠まで導いたところで消え去ったといわれ、そのとき義光が「八幡大菩薩」と唱えて神の加護に感謝したことに由来するという


周辺の山々から連嶺を形成しており、これを大菩薩連嶺と呼ぶ



大菩薩連嶺の北端とされている場所に鶏冠山(黒川山)がある



時間はもうすぐ日付が変わるころだが、全くすれ違う車さえいない

我々以外に車がいない


舗装されてはいるものの道幅は狭く、ところどころひびや小さな剥離がある


先導している友人の車のペースが落ちた

ほぼ徐行である


「近いのか?」


「いや、まだ結構先だよ」


似たようなカーブを繰り返し、小さなトンネルを越えていく


実際、この”地元”の友人以外、私を含めその場所を知らない

仮に彼が「ここだよ」と適当なことを言ってしまえばわからなかっただろう


しかし彼は正直にその場所へ我々を誘っていざないるのだ


車の速度が遅くなったこともあり、私は意味もなく助手席の窓を下げて腕を投げ出した


季節外れの冷たい風が心地いい


車の音に交じり、かすかに川の流れる音が聞こえていた


「これ左側って崖みたいになってんの?何か川の音が聞こえるよ」


私がそう言ってほどなく、


彼はハザードを付けるとトンネルの手前で車を寄せたのだった。







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