慟哭の深淵
K
絶対に行ってはならぬトコロ
私が高校生の時のことだ
夏の暑い日だった
私の通っていた高校は校舎が古く、エアコンの無い教室で下敷きを団扇代わりに扇いでいた午後、地理の授業だったと思う
教師が今日は授業ではなく怖い話をすると言い出した
別に珍しい事ではないだろうと思う、どこの学校でもこうしたボーナスタイムのような授業がたまにあるものだ
知り合いが・・・
友人から聞いた・・・
親戚が体験した・・・
怖い話などというものは大概こうであると相場が決まっている
ポツリポツリと短編読み切り怪談のような話を教師は続けては話の終わりに
「どう?こわいだろう」
と一々押し売りしてくる
私は霊などというものをまるで信じていない
そんなものが存在するならば是非この目でしっかりと見てみたいものだ
「先生、霊なんかいないよ」
つまらないこの教師の怪談話を遮るように私は教師に言葉を投げた
教室の皆は唐突の私の発言に少し驚いたようだが間をおいて同調するような小さな笑いが起きた
教師はせっかく作っていた空気感をぶち壊しにされ、さぞ不満かと思われたが、その表情は何故かこわばり、曇っていた
「霊はいない。そうか、そう思うならそれでいい、今からとっておきの話をする。本当はあまり人に話したくないんだが、ひとつ言っておく、霊が見たいなら今から話をする場所に行ってみるといい。誰が行こうと必ず霊を見ることになるだろう。ただし、行って何があっても、何を見ても、俺は一切関係ない。自分の責任で行ってくれ・・・」
教師は真顔でそう言うと、ある自身の体験を話し始めたのだった
覚えている
いつしか教室の誰もが、下敷きで扇ぐことをやめていた・・・
それはとてもある意味強烈であり、どこか現実的であった
教師は話を終えるともう一度言った
「お前たちはこの話をきっといつまでも覚えているかもしれない。忘れてしまうかもしれない。ただきっといつか思い出すだろう。何度も思い出すだろう。始めにいったように、霊が見たいならいつの日か行けばいい」
終業のチャイムはシンとした夏の教室に鳴り響いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます