バイト

●「男子高校生がバイトを始める理由って女の子と遊ぶ為かソシャゲに課金するためかのどっちかだと思うんだよね。」

▼「酷い偏見。そうとも限んないだろ、家計のためとかさ。」

●「いや、そういう人は多分バイト始めるって言うか出来るようになったらすぐにやってると思うんだよ。」

▼「まあそうかもしれんけど、別に悪いことではないだろ。」

●「もちろん悪かないよ。ていうか俺と同じくらいの年で働いてお金もらってるの凄いと思うし。俺に出来んのは家でお袋の家事を手伝ってお小遣いもらうくらいだよ。」

▼「かわいい。」

●「それに、女の子とデートする時に親のお小遣いってのがなんか恥ずかしいって気持ちもわかるし。」

▼「それは俺もちょっとわかるけど。」

●「でさ、バイトの志望動機に女の子と遊ぶためです!って正直に書くやつとかいるのかな。」

▼「いないことはないとは思うぞ。ガチかネタかはともかく。」

●「ネタでそれやったらだいぶ寒くね?」

▼「意外と厳しいなお前・・・まあ、内輪ネタみたいなとこらあるかもな。」

●「内輪ネタがウケる環境にずっといるとお笑いのセンスずれるしな。やっぱ万人にウケるネタをしないと。」

▼「お前はお笑いの何を知ってるの?」

●「でも履歴書の時点で『そういう奴』ってわかった上で採用されたら、それはそれで働きやすいかもな。」

▼「まあ、真面目さを求められる職場だったらふざけた履歴書じゃ採用されないわな。」

●「だよな。ところで、ここにたまたま知り合いが余ったから、ってくれた履歴書があんだけどさ。暇だから試しに書いてみようぜ。」

▼「並の暇さ加減じゃその結論に至らないだろ。やることないのかよ。」

●「ここで俺と延々だべってるお前にやることないのかとか聞かれたくねえな」

▼「急に攻撃力の高い正論言うのやめろ?」

●「まあ良いから書いてみようぜ。・・・出身校って小学校から書いた方がいい?」

▼「基本は中学卒業からだな。その次に高校入学だけ書いとけば良い。」

●「資格とかは?」

▼「いわゆる英検とかだな。バイトとかの場合は2、3級くらい上なら書いても違和感はない。後は原付免許とかあると配達がある職とかだと有利だろうな。」

●「うーん、なんもねえし漢字テスト100点って書いとこ。」

▼「お前それ小学校のやつだろ。・・・まあ実際にどっかに出すわけじゃないしいいか。」

●「志望理由、はお袋を旅行に連れて行ってやるためとして、次は趣味、特技か・・・」

▼「志望理由ってそういう事じゃねえよ。いや、ほんとにそれ書いたらバイトなら普通に採用してくれそうだけども。」

●「え、違うの?」

▼「それはあくまでバイトをする理由であって、そこで働きたい理由にはならないからな。ただバイトならそんなに気にしなくていい。空欄じゃなければおっけーだろ。」

●「ふーん。で、趣味はお笑いを見ることで、特技は炭酸2リットル飲んだあとでゲップをせずに山手線を・・・」

▼「どっかで聞いたことのあるなその特技。ちょっと本家よりリットル数上乗せすんのやめろ。それが何の仕事に役立つんだよ。」

●「度重なる訓練の賜物たまもので滑舌と肺活量が凄いことになった。」

▼「じゃあもうそう書いとけよ。滑舌が良いですって。」

●「いや自分て滑舌が良いって言う奴ってむしろ大したこと無いもんだろ。」

▼「時々見せるその謎の厳しさなんなの?せっかくだしなんか早口言葉言ってみてくれよ。」

●「観自在菩薩行深般若波羅蜜多時照見五蘊皆空度一切苦厄舎利子色不異空空不異色色即是・・・」

▼「待て待て待て。誰が経を唱えろと言ったよ。もういいもういい、滑舌の良さは伝わったから。ていうか何その特技。」

●「あ、特技には記憶力が良いですって書いとこ。」

▼「良いと思うけど面接でさっきの実演すんのはやめとけよ。面接官びっくりしちゃうから。」

●「マジか、おれの唯一の特技なのに。」

▼「山手線はどうしたよ。・・・ていうか、今更だけど。これどこでバイトする想定で書いてんだ?」

●「ん?Go〇gle。」

▼「G〇ogleなめんな」

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