第11話 玉
「私が、聞き取り纏めておきました」
そこには呉羽自らが書いた聞き取り書だった。
書式に則っている上に事細かに、息づかいさえ手に取るように判る程書かれていた。
「複数の方から得られた証言であり信憑性はあります」
「で、ですが、彼らが嘘を吐いている可能性が」
「ならば、調べれば分かることでしょう。国府に行き、彼らの証言と土地の位置が正しいかどうか調べましょう。それともこの聞き取り書に虚偽があるとでも」
「い、いいえ!」
呉羽はちょ津英で働いていたこともあり書類の制作も得意だ。
書式は見事に整っている上に、国司の書いたものとは違って虚偽がない。
この書類を都に送られては国司自身の偽りがバレてしまうと思い、話題を変えた。
「そ、それより、鬼が都からの一団を襲撃したことは紛れもない事実。これを放置することは出来ません」
「無論です。ですが、律令に従えば、襲撃の罪に対する刑罰は罰金で代替できます」
「こいつらにあるのですか」
「大丈夫です」
そう言うと呉羽は、懐から袋を取り出し中に入っていた石を、青い翡翠と赤、黒、白と層状になった瑪瑙を取り出した。
「この山で採取された玉です。これで十分に補償できるはずです」
「いや、しかし、これでは足りませんが」
「都ではこれほどの玉はそうそうありません。米俵十俵ほどしてもおかしくはありません。まさか、これまでも税金を収める時過小に見積もり必要以上に奪っていたのですか?」
「め、滅相もない!」
国司は、首を激しく横に振り震えた声で否定した。
「では、力寿丸様の件は以上ですね」
呉羽はその場を纏めた。
「まさか、連中を言いくるめることが出来るとは」
呉羽の交渉術を目の当たりにした力寿丸は驚いた。
強圧的だった国司の連中に頭を下げさせ、襲撃の罪を軽くし、そして国府建設のため羽ばれた力寿丸の土地を補償させた。
「残念ながら、力寿丸様の土地を取り戻すことは難しいでしょう。朝廷は国府を各地に置くことを決めていますから。しかし、その代わりの土地や力寿丸様の権利や免税を勝ち取ることは出来るでしょう」
「ありがとうな」
「いいえ、お礼を言われる程の事ではありません」
「いや、俺だけだったら無理だった」
暴れる以外に方法を知らない力寿丸が国司達と交渉するなど不可能だ。
もし呉羽がいなかったら、国司達と戦いになり武士達に囲まれ殺されていただろう。
争いを避け、円満に解決してくれた呉羽は恩人だった。
「何か例をさせてくれ」
「……でしたら……」
呉羽は顔を赤くしながら頼んだ。
「……ずっとお側においてください」
「そ、それは」
「尽力した私を蔑ろにするのですか?」
「いや……」
鬼の自分に絶世の美女である呉羽が側にいるのは申し訳ないように思えた。
しかし、呉羽の願い、じっと自分を見つめてくる瞳に耐えきれず力寿丸はついに折れた。
「わかった良いぞ」
「ありがとうございます!」
呉羽は喜び、力寿丸に抱きついた。
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