【First Xmas】
【First Xmas】
「メリクリ!」
「シー…!うるさい。起きちゃうだろ」
暗い部屋に変なシルエットが二つ
廊下の明かりが僅かに照らしている
「‥鼻ずれてる」
「メェ~」
片手で赤い鼻をなおしてあげる
その鳴き声は山羊じゃない?とツッコマない
相変わらず緊張感のないきーくんに僕は内心で呆れる
脇腹を肘で突いて行動を促す
きーくんの格好は茶色い全身の着ぐるみ
トナカイだった
そして俺は上下赤の、サンタクロースと呼ばれる格好をさせられていた
「何で不服そうなの」
「別に」
強要はされてないけど、なぜか最初ミニスカートだったので無言で頭にチョップをしてズボンを出させた
役を交換するって手もあったけどやめておいた
喜んで着そうだし
あー白髭が痒い
外してしまおう
あースッキリ
じっと見ていたきーくんが俺の外した髭を回収して自分につけた
欲張りさんめ
「では馨少佐。任務を開始します…」
「うむ。喜一特攻隊長任務を遂行せよ」
無言で敬礼して静かな部屋に忍び込む
自分の部屋だけど今日はいつもと違っていた
あと十分
そう
今日はクリスマスイブだった
《イブ当日の午後》
いつもの商店街は服を着込んでいる人達が大勢いて
年末、そしてクリスマスイベントのためか性根逞しく
クリスマスツリーやクリスマスリースが飾られており
その後ろでは鏡餅やしめ飾りなどの正月飾りが売られていたり店先に置いてあった
毎年のことだけどイベントを楽しむことに注力する姿勢の日本人らしいなとらしくないことを思った
「はい。それとこの松を二つ。はいよろしくお願いします。おばあちゃんはうちのお店です。はい、伝えておきます」
丁寧にお寿司屋さんの女将さんに言葉を返している照輝くん
俺は横で注文していた寿司が渡されるのを
沢山の魚の漢字が描かれた湯呑みであったかいお茶を飲んでいる
不思議とお寿司が食べたくなるお茶だ
この後食べるんだし
茶菓子で出されたモナカを食べる
サクサクしてて美味しい
「しかし、そっちのお兄ちゃんとお使いなんて偉いわねぇ」
「…いえいえ。僕はついて行くことしか出来ないので、馨くんがいてくれて心強いです」
優しく寒暖差のせいか赤い頬で照輝くんがそう言った
普段はかっこいいのに話すと可愛らしい態度に俺はキュンとした
「そんなことないよ。照輝くんが誘ってくれたおかげでお出かけできたし、なんでも率先してやってくれるからいつも大助かりだよ。花枝さんも助かってるって言ってたし」
俺がそう話すと照輝くんは頬を指でかいてそう言ってもらえると、嬉しいです
と照れたように言った
キュン死にさせるつもりか!
「ふふ、仲がいいのね。兄弟みたい」
「そうですか?こんな出来のいい弟できたら自慢したくなっちゃいますねー」
なんてらしくない言葉で女将さんと話す
横目で照輝くんを窺うとなぜか頬が膨れていて
俺の視線に気づくとすぐにシュッとした顔になった
いい顔だね
「はいお待たせしました!松が二つに手巻きが六つ。毎度ありがとうございましたー。帰り気をつけてね」
「はい。ありがとうございます」
俺は一礼してガラガラと音を立てる戸を開いて
外の冷たい空気の中へ戻った
「ふぅ。寒くないって、寒いよね」
白い息が口から出る
「寒いですね。でも平気です」
オレンジのフワッとした耳当てをしていて暖かそうだし
可愛い
てかライオンっぽさが際立っている
言ったら機嫌悪くさせそうだから言わないけど
黄色のダウンがよく似合っている
「馨くん?」
「あ、ごめん。次は何だっけ」
「大丈夫です。次は揚げ物屋さんで唐揚げとコロッケ、八百屋さんでレタスを買ってきてと頼まれました」
「そっか。サクッと買って行っちゃおう」
「はい!」
笑って言うと笑い返してくれた
寒い夜空の下で小さな温もりが確かにあった
「これで全部だよね」
「はい。買い出しの品は全部揃いました」
スマホのメモで再確認してそう返事をした照輝くん
俺より使いこなしている
二人で賑やかな商店街を見る
まだ六時前
学校帰りや仕事帰りの人たちが賑やかに歩いている中に紛れて俺たちも流れに沿って歩く
電飾の明かりが俺たちを照らす
温かな電球色の灯り
木の枝を丸めたものにリボンや松ぼっくりと鈴、小さなぬいぐるみなどがついたクリスマスリース
赤い葉にラメがついているポインセチア
まさにクリスマスの空気に染まっている
「何か食べてく?」
「もうすぐ晩御飯ですよ」
「わかってるけど、お腹すいちゃったな」
「そうですね。では何か軽いものでも買ってきますか?」
そう言ってポケットから財布を取り出したので止める
ナチュラルに小学生に奢ってもらうほど落ちてはいない
「あ、クレープとかどう?」
「いいですね」
二人で横目で見つめ合い、小さく笑う
こんなことが楽しくて
幸せだ
「俺は……安定のチョコバナナ」
「安定なんですか?」
「外す方が難しいと思って」
「確かに…」
ふむふむと唸っている
真面目に考えなくてもいいのに
「照輝くんは何にする?」
「僕は……いちごショコラにします」
「オッケー」
「あっ」
俺はすぐにクレープ屋のサンタの格好をしたお姉さんに注文した
「お金…」
「大丈夫。花枝さんにお駄賃貰ったから」
ニコッと笑いかけると納得したようなそうじゃないような曖昧な顔をした
なんとなく注文品ができるまでの時間
周りを見るとクレープ屋の前に看板があり
そこにツリーを背景に写真を撮った人たちの写真が貼ってあった
それを見つめていると
横に照輝くんも同じように見ている
あっ
順番に見てると
昼間だろうか、クラスメイトの藤山兄弟が写っている写真があった
ライトブラウンのチェスターコートに深い赤のマフラーをしていてオシャレだった
そして隣の、確か剣道部の主将だったかな
ちゃんと話したことないけど冬馬君と幼馴染だとかきーくんから聞いた
こっちは紺のダウンに白いマフラー
仏頂面で腕を組んでいて顔が少し赤い
きっと嫌々だったんだろうな
間にいる夏織くんが二人の腕を掴んでいい笑顔だった
この後白瀬家で冬馬君たちとは一緒にクリスマス会をする予定だ
きーくんたちはケーキ担当だが、不安だった
自主的に希望したので嫌とは言い辛かった
守もいるから、余計不安だ
予備として一応カットケーキを冷蔵庫に入れてある
「お待たせしました!」
「はい。どうもです」
「ありがとうごさまいます」
クレープを受け取った
淡い黄色の生地とたっぷりの生クリーム
俺の方にはバナナにチョコソースがかかってて
照輝くんのほうはいちごにチョコソースがかかっている
どちらも美味しそうだった
「良かったら、お撮りしましょうか?」
「え?」
クレープに夢中で反応が遅れた
「どうですか?」
「えっとはい」
つい返事をする
キョトンとしてしまい照輝くんが俺の袖を掴み
「店員さんが写真を撮ってくれるそうです」
なるほど
「照輝くんはどう?」
「僕は、馨くんがいいなら…」
窺うような視線で言うので
「いいよ」
即答してしまった
こう言うイベントでの撮影は少しだけ苦手だったけど
まぁいいか
照輝くんが喜んでくれるなら
「では、ツリーの前にどうぞ」
「「はい」」
「……ではとりまーす」
スマホを渡して撮ってもらう
僅かにしゃがむ
肩が触れ合った
フワッとした金色の髪が視界の端で揺れる
カシャ… カシャ…
「はい。どうぞ」
「ありがとうございます」
「ありがとうございます!」
二人で礼を言う
そのあと看板用で撮ってもいいかと言われたので照輝くんの了承をもらって撮ってもらった
画像フォルダに
俺たちが僅かに頬を赤くして
笑顔で綺麗なツリーの前でピースしている
もちろんクレープ片手にだ
「これもどうぞ」
「はい。ありがとうございます」
受け取ったのは現像された写真だった
こちらはお互い肩を組んだおふざけ用だ
驚いた照輝くんに俺は笑ってしまった
「仲良しですね」
「そうですね」
「はい」
「ふふ。ではありがとうございました。メリークリスマスイブ」
店員のお姉さんがそう言って俺たちは手を振って別れた
モグモグ
「美味しい」
チョコバナナが不味いわけがない
でもあそこのは生地がもちもちとしていてクリームも重くなく普通のとは違っていて特に美味しかった
今度きーくんたちとも来ようかな
「……」
静かにモグモグと食べている照輝くんを見る
そんなに真剣に食べなくても
「どう、そっちも美味しい?」
「美味しいです…。クレープってこんな味なんですね」
「えっ、もしかして初めて」
はい
と返事をされた
まさか初めてとは。まぁ花枝さんがクレープを買っている姿はイメージしづらい
「モチモチで、クリームも甘すぎず、……ごくん。いちごの酸味とチョコソースが大変美味です」
批評家のように言った
「それは良かった」
「…食べてみますか?」
「いいの?じゃお言葉に甘えまして」
差し出されたクレープに顔を近づけて
ぱくんと一口齧る
クリームが口端についちゃった
舌で舐めとる
「ん?食べすぎたかな」
「あっ、いえ、なんでもないであります」
じっと見ていた照輝くんがなぜか慌てた
「じゃあ俺のも味見、して?」
「……」
「嫌?」
「いえ、頂きます」
おずおずと、差し出したクレープに上目遣いで窺うように食べる仕草がなんとなく、なんとなくいけないことをさせているような気持ちになって手汗が滲む
「…こっちも、美味しいですね」
ニコッと柔らかく微笑む照輝くん
その笑顔に俺は何故かほっとした
あっ
「ッ!?」
ペロ
「あ、ごめん」
つい弟にしていたように
頬(口元)についたクリームを掬って食べてしまった
恥ずかしいことをしちゃったな
怒っては、いないよな?
「ごめんね照輝くん」
「……よ」
「え?」
「なんでも、ありません…」
何かつぶやいたがわからなく
照輝くんは少し前まで早歩きしスピードダウンして歩調を合わせてくれた
僅かに耳当てからはみ出した耳は赤く染まっていた
恥ずかしかったよな
そう思っていると
照輝くんが立ち止まり、振り返った
?
「…寒いですから、手を繋ぎませんか?」
青い瞳が潤んでいて電飾の光を映していた
頬が赤い
紳士的でも恥ずかしいみたいだ
伸ばされた腕に手を伸ばし
まだ俺より小さい手を握る
出会ってから一年だ
もう手の大きさも、身長もすくすくと日々成長しているようで
寂しいような嬉しいような
複雑な気持ちだった
「馨くん?」
しっかりと繋がれた手は柔らかく優しくて
あったかい温もりが伝わる
「冷たくないかな?」
「全然平気です。馨くんは?」
「あったかいよ」
「…良かった」
ふわりと笑う笑顔はドキリとするほど
かっこよかった
「「あけおめことよろ!!」」
「イベント一つ飛び越してる」
まじか~~
とヘラヘラ笑うバカ兄弟が出迎える
「おかえりなさいませ。おつかい大丈夫でしたか?」
「ただいまです。問題なく買ってきましたよ。並べればいいですか?」
「ご苦労様です。ええ、テーブルにお願いします」
照輝くんが手洗いを終えそのあと俺もしっかりと洗う
インフルが流行っているから、気をつけないとな
「こんばんは~」
「…こんばんは」
クレープ屋の前の写真と同じ格好の藤山兄弟がやってきた
学校からの帰り道
談笑していて流れで誘ったら来てくれた
「いらっしゃい。寒かったでしょう」
「はい。今夜はお邪魔させていただきます。藤山冬馬です。こちらは夏織といいます。ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします」
「いえいえご丁寧にどうもですよ。私は照輝の祖母の花枝です。ゆっくりしていってくださいね」
「はい。ご親切にありがとうございます。これ母が作った栗きんとんです。よかったらお納めください」
二人は礼儀正しく挨拶し終え
こちらに合流した
「「ハッピーハロウィン!!」」
「それは終わったからね」
「フフ、こんばんは。今夜は冷えるね」
「こんばんは冬馬さん」
「なんでライオン丸はとうまっちにはさんつけるんだよ」
「なんとなくです」
「はぁー塩対応。ファン層が限られちまうぜ!サービスサービスぅ!」
「…」
「シカト!」
「もうきーくんうっさい」
「喜一は相変わらずだね」
「へへ!」
「褒めてないからね」
「こんばんは夏織くん」
「こ、こんばんは照輝くん!」
冬馬君の後ろに隠れるようにしていた夏織くんは
照輝くんに声をかけられると嬉しそうに笑った
「こんばんはー夏織くん」
「………」
「夏織」
「こ、こんばんは」
……俺にはまだ慣れてないようだ
「そういえばクレープ屋の写真見たよ」
「クレープ?ああ、昼間のかな。なんだか恥ずかしいなぁ」
全然恥ずかしさを感じさせない綺麗な笑みを浮かべた
「意外だった」
「そう?そうかも」
小皿を夏織くんの前に置いて箸を皿の上に置く
面倒見が良いみたいだ
反対側の席の東兄弟は笑っちゃダメ対決をしていて、騒がしい
照輝くんは人数分のグラスとペットボトルの飲み物を運んでくれた
「意外だと思ったのはあの人、剣道部の主将さんの方」
「そっちね」
クスクスと笑う
「家が隣でね。祖母たちが仲が良くて年末の買い出しに付き合ってもらったんだ。門下生がたくさん来るから人手が欲しくてね」
「そっか。実家が剣道場だもんね」
「うん。秋ちゃ…蓮水君はずっと不貞腐れてたけどさ。なんだかんだ付き合ってくれるから」
夏織にも甘いしねと笑う
普段学校では話さない彼らだが、幼馴染だし仲がいいのかな
「もしかして忙しかった?ならごめんね」
「全然大丈夫だよ。むしろ嬉しいよ」
チラッと弟の方を見てそう言った
弟思いなんだなぁ
そう思った瞬間顔に東兄弟が取り合いをしていたテレビにつなげるカラオケマイクが俺の頭にぶつかり正座させて怒った
俺より照輝くんが怒っていた
「え~それでは皆さん今日はお集まりいただき、えーと、メリークリスマスイヴ!!」
雑な挨拶をしてクリスマス会は行われた
みんなで飲み食いをしてゲームをして
散々騒いで盛り上がり会は終わって片付けをした
時刻は九時前
「今日は楽しかったよほら、夏織」
「楽しかったです。…ありがとうございます」
ちょこんとお辞儀をしていった
可愛い
「うん。俺たちも楽しかったよ」
「またね夏織くん」
照輝君がしゃがんで夏織くんにバイバイする
少し寂しそうな顔をしたが、またねと言うと嬉しそうに笑い帰っていった
「ふう」
「お疲れ様ですね」
「いえ、なんだかんだまたお世話になっちゃいました」
「いいのよ。私も楽しいですし、照輝も喜んでいますからね。お風呂沸きましたからどうぞ」
「はい。ありがとうございます」
東兄弟は先に俺の家の風呂に入っている
今日はお泊まりだ
俺の家の風呂はきーくん家のように大きな風呂ではないので白瀬家のお風呂を借りた
「さぁ入ろうか」
「えっと、先どうぞ」
「一緒でもいいのに」
「お誘いは嬉しいです。けどゆっくり入ってきてください。自室の掃除もあるので」
「そっかぁまた今度ね」
「え、いや、はい」
お辞儀をして二階に上がっていった
俺はお風呂に入りあったまって上がった
そして再度花枝さんにお礼を言って
準備ができた照輝くんと共に俺の家に向かう
「「いえ~い!」」
「人のベッドで跳ねるな!」
アホ兄弟の頭を叩いて静止させる
まったく油断も隙もない奴らだ
その後二人の布団をリビングに敷く
四人で寝るには結構狭い
少しソファを移動させた
「お泊まり久々だなぁ」
「そうだな。あ寝る前に甘いもの飲むなよ」
「いいじゃんまだ歯磨いてないしー」
「教育に良くない」
「さーせん」
まったく適当なんだから
なんだかんだ騒いで
時刻は十時過ぎ
守がうつらうつらとして頭ががくんと動く
「そろそろ寝ようか」
「そうだなー」
「はい」
「………」
照輝くんは思ったより意識はハッキリしてるけど
目が眠たそうに瞼が下がっている
きーくんは元気すぎてうるさい
「夜ふかししすぎじゃない?」
「そーかも。ランク戦は夜中が盛り上がるし」
「またおばさんに見つかって没収されないといいね」
「まじでなぁ」
ケラケラと笑う
きーくんはもう半分以上寝ている守を抱っこして布団に寝かせる
その後ろ姿はお兄ちゃんだった
「馨くん…」
「ん?」
振り返ると照輝君が俺の布団をめくっていて
おいでとでも言うように眠そうな目で見つめている
……
大人しく誘われて、横になると布団をかけられお腹をポンポンされたあと頭を一撫でして自分も布団の中に入った
スゥー…
なんだこの手慣れた包容力は…
かえって目が冴えてしまった
隣を見るときーくんが目を開いてガン見していたので
足を蹴った
「へい相棒」
「…時間か相棒」
小声でふざけて静かに、起こさないように布団から出る
そして俺の部屋に行って灯りをつける
眩しさで目が痛い
「よっと」
リュックから荷物を取り出す東
「…ふぅ」
家探し、はするような子じゃないから安心はしていたけど
弟は察してかコソコソ家を探索していたから隠し場所には頭を悩ませたものだ
「えこれ着るの?」
「イエス!」
赤いサンタクロースの衣装
「てかまたミニスカ」
「いいじゃん」
「よくねーよ」
デコピンして黙らせる
いひゃいと騒ぐので口を塞ぐと頬を染められたのでイラッとした
「‥ちぇ」
「最初からそうして」
鞄から赤いズボンが出てきた
これで完全体になれる
「きぃ~がえきぃ~がえきぃ~がえちゃうぞー」
変な歌
スポポポンと服をパージしてきーくんはパンツ一丁になり
パンツまで脱ごうとしたので止める
「全裸着ぐるみはダメ」
「マジかよ」
当たり前だろ!
わちゃわちゃしながらも支度をする
「ブホッ!」
「プハ!」
互いに格好を見て笑う
「パッと見セント君じゃんやばい」
「はぁ!?ちがうし!てかサンタの着せられてる感ウケる」
ケラケラ笑い涙が出た
あー楽しいな
「ほらほらかおるっち!」
「はいはい」
きーくんが肩を組んで撮影をする
「よし」
「おう」
白い袋(マイバック二つ)を持って一階に静かに降りる
ミッションスタートだ
時刻は一時
騒いでて遅くなったようだ
「……おはよーございまぁーす」
「寝起きドッキリ違うから」
つい反射でツッコんでしまう
そして冒頭に戻る
小声で話す
「いで、なんか踏んだ」
「シー…」
きーくんに不向きな作戦だったようだ
撤退も視野に入れる
もちろん赤鼻で白髭のセント君もどきのトナカイがだ
「へへ、よく寝てやんの」
「そうじゃなきゃ困るし」
「だな」
確かに、ワクワクした気持ちになる
ぐっすりと眠っている少年たちを見る
守は既に布団を蹴飛ばして腹を出している
照輝くんは寝た時の姿のまま綺麗に寝ている
その左手だけが布団から出ていて
隣の空いた布団に何かを探すように置かれていて
すこし、すこし切なくなった
「はぁ~いプレゼントじゃよ~トナー」
「混ざってる。混ざってるし語尾変」
白いマイバックからプレゼントを取り出してきーくんは守の枕の隣に置いた
俺も守の分を置く
「え守の分も用意したの?」
「うん。片方だけじゃね」
「まじか。じゃあ仕方ねぇライオン丸はあれをやるか」
やれやれといった態度だった
一悶着起きそうだ
「ねぇねぇ折角だしね。ほらこっち」
「ちょ、転ぶからやめい」
引っ張られて寝ている守達を背景に記念撮影するようだ
「起きないかな」
「フラッシュたかねぇと見えねーかな。あナイトモードならいけそう」
またわちゃわちゃしながら撮影する
「……はーい一足す一は?」
「「「にぃー」」」
……?
自撮りモードのカメラの画面越しに
パジャマを着崩した守がいた
ーーー!
二人で抱き合って悲鳴が出そうだった
こわっ!!
「……」
「ま、まもる?」
「……」
半目のまま、立っていた
「あーこれ寝ぼけてる」
「そっか。ならよかった」
心臓がうるさくなったぞ
「……しっこ」
「やべ」
その一声を聞いてきーくんは守を抱き抱えトイレに向かった
さすがお兄ちゃん
……
静かになったリビングに取り残されてしまった
俺は行動を再度開始する
「わ~るいごは~いねが~」
小声でアホなことを言って寝ている照輝くんに近づく
豆電球に照らされた照輝くんはよく寝ているようだ
ふ、他愛無い
「ふふ、可愛いな」
優しく手触りのいい照輝くんの髪を撫でる
ぎゅっとしたいぐらい愛くるしい姿だ
「恋人がサンタクロース 本当はサンタクロース
プレゼントを かかえて こいびとぅす!?」
最後は某芸人のような声を出して俺は躓いて転ぶ
きーくんのカラオケセットだった
後で投げ捨ててやる
もうダメだ!と思って倒れると
ぽふんと受け止められる
もにゅっ
………
えっ?
眼前には寝ている照輝くんの顔がある
き、いや違う。事故だなにも、何もないようん
「……」
「て、…照輝くん?」
「……」
「起きてる?」
「……」
「テル…ちゃん?」
「ぶっ!?……グゥー……」
小学生に気を使わせてしまったようだ
い、いつから君は起きていたんだ
戦場半ばで万事休す!!
……
眉がピクンと動くけどしっかり寝ているようだ
うん。そう言うことにしよう
「あー…危なかった。起きちゃったかと思ったよ」
眉根が下がった
うぅ、健気すぎ
「……よし今のうちに」
そっと枕横にプレゼントを置く
………
「……メリークリスマス」
頭を優しく撫でて言った
耳がピクピクと動いた
…
「しかし、ぐっすり寝ちゃってるなぁ」
悪戯心が出てしまった
ぷにぷにと頬をつく
柔らかい
だが、起きない
手を握る
ピクンと反応があったが
「スゥーー…」
うん。寝ている
にぎにぎとするけど、くすぐったのそうだけど
寝ている
……
「照輝くん…」
小さく呟いた
自分でも、弱々しかった
「ありがとう」
一言こぼれ落ちた
ぎゅっと、手を握り返された
「今ね。俺とっても、楽しいんだ」
きっと起きてたら言えない
「やっぱり、ふと怖くなるし、立てなくなるけど」
声が揺れる
どこかで鳥が飛び去った
「君がいるから、俺は俺でいられる」
ぎゅっと、大人になっていく手を握る
宝物を離さないように
「ありがとう」
俺はそのまま横になる
なぜだかホッとして
眠たかった
意識が微睡む
「……僕こそ、ありがとう馨くん」
夢なのか 願いだったのか
その日 初雪が静かに降った
重なり合った手はなによりも 温かった
「ふぁ?」
眩しい日差しで目が覚めた
「………さっみぃ」
ぽりぽりと腹を掻く
あれ、なんだ手が変、茶色い
あっ
横で丸くなり俺に引っ付く弟がいる
寒いのかぎゅっとしがみついている
昨夜
トイレに直行した後例の狙いを外しそうになり仕方なく補助し
寝ぼけた守が家を彷徨うので着いてって
戻ろうとしても足に引っ付くので無理に離せず
いつのまにか廊下で寝てしまったようだ
「はぁ……」
欠伸を噛み殺し
守を抱っこしてリビングに行く
シンとした朝の部屋に柔らかなカーテン越しの朝日が差し込んでいた
……
ふぁ
眠い
守を布団に寝かし俺も二度寝しようとした
そこで目に入ったものに動きを止めた
「……へぇ」
思わず笑みを浮かべてしまう
布団の横に置いてあるリュックからカメラを取り出して
シャッターを押す
……
画面に映った心優しい親友と黄金色の健気な少年の姿を見て
この写真はきっと自分の中でかけがえのない作品となったことを感じた
満足して布団に転がる
次目が覚めたとき
きっと楽しい瞬間が待っている
細く微笑み
彼らを背にして
東喜一は寝た
暖房が効いた部屋
窓の外は雪が積もっていて光を反射している
僅かに揺れるカーテンの影に
二人の子供が手を繋いで
額を寄せて幸せそうに眠っていた
【First Xmas-END-】
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