小さな吸血鬼〜君は強い子〜 改訂版

いとい・ひだまり

小さな吸血鬼

「――おねーさん、こんな所で何してるの?夜道で女性が一人って、結構危ないと思うんだけどなー?」

「君だって、そんな子供なのに危ないよ?変な人にでも連れ去られたらどうするの?」

「え?っふふ、分からないの?おねーさん。僕、吸血鬼だよ?……ほら、早く逃げないと僕に血を吸われちゃうぞー?」

「あら、そう」

「……なんで逃げないの?」

「どうせ仮装でしょ」

「むぅ!違うよ、僕は歴としたとした吸血鬼!ほら、ちゃんとキバだってあるでしょ?」

「作り物の?」

「あーもー!本当に吸血鬼なんだって!」

「じゃあなんで私を襲わないの?」

「え?……だって、僕よりおねーさんの方が背が高いから届かないんだもん」

「……本当にそれだけ?」

「ほ、本当にそれだけだもん!」

「ふーん。……じゃあこれ、なーんだ?」

「え、な、なにそれ?」

「これですか?これはね、背が低くて血を飲むことができない君のために、特別にプレゼントする私の血です」

「え……?」

「ほら、目の前に美味しい血がありますよ?飲まないんですか?」

「え……あ……」

「どうしたの?子鹿みたいにプルプル震えちゃって」

「……っう、うるさいな!僕だって、僕だって、血ぐらい飲めるっ」

「あら、取られちゃった。……で、飲まないの?坊や」

「……飲まない」

「なんで?」

「だってこれ、ケチャップでしょ……?」

「あらら、バレちゃった。でも君、ちょっと嬉しそうだよ。ケチャップなのに。……まさか、吸血鬼なのに血が飲めないとか?」

「っえ⁉︎そ、そんなこと……そんなこと、ないっ……」

「……声が震えてるよ、大丈夫……?」

「……っうぅ、だって、おねーさんが、からかうから……」

「う、それはごめん。まさか泣かせてしまうとは思ってなくて……」

「うぅっ、うっ……」

「――落ち着いた?」

「……うん。……ありがと」

「それなら、私に少し訳を説明してくれないかな?君が泣いてしまった詳しい訳を」

「……わかった。……知らないと思うけど、僕、血が飲めないんだ!」

「……知ってます」

「あ、そう?」

「うん……」

「そっか。それでね……父さんも母さんも、周りの子も飲めるのに、僕だけ飲めないからみんなにバカにされて……偽物の吸血鬼だ、って。……僕もみんなと一緒なのに、仲間はずれにされて悲しくて。だから僕だって本当の吸血鬼なんだって、分かってもらいたくて……」

「だから今日私のところに来たのね?」

「うん。でも、やっぱり飲めなかった。……そもそもケチャップだったし」

「あれはちょっと手持ちがなかったのよ……」

「え、じゃあいつも自分の血持ち歩いてるの?」

「うん」

「それはそれでちょっと気持ち悪いな……」

「そんなこと言わないでよ、吸血鬼対策よ。噛まれたくないもの」

「……そうは言っても」

「あ、そうだ、君。また会うことがあったら、今度はちゃんと私の血をあげるわ」

「え、いいよ。なんかちょっと鮮度が……」

「そこは大丈夫。最新の技術を使ってジップロックに入れてあるから問題ないわ!」

「……でも、ちゃんと飲めるかな?」

「そうね……今日の様子を見てると、口に入れても、もどしてしまいそう……」

「嫌なこと言わないでよ」

「ごめんなさいね。でも、誰にだって苦手なものはあるものなの。私だって甘いものが苦手」

「え、僕は好き」

「あら、偶然だけどいい例になったわ。ほら、こういう風に人によって好みは違うもの。君はたまたま血が苦手だっただけ。だから全然気にするようなことじゃないのよ」

「本当に?」

「本当に。そのイジワルしてきた人達にだって、絶対苦手なものはあるんだから。あなただけじゃないんだよ、だから、大丈夫」

「うん……ありがとう。僕、なんだか元気もらったよ」

「それはよかったわ。結構前から元気だった気がするけど」

「……言われてみればそんな気がするよ。おねーさんのおかげかな」

「あらやだ、お世辞なんていいのに」

「お世辞じゃないよ。本当。……それじゃあ僕、そろそろ家に帰るよ」

「そう、それがいいわね。それじゃ、元気でね」

「うん、ありがとう、変なおねーさん。……あ、そうだ、実は僕これが200回目の挑戦だったんだ。心が折れそうだったけど、おねーさんのおかげで違う生き方を知れた。これからは胸を張って生きていけそうだよ!それじゃあ、本当にありがとう。またね、おねーさん」

「……最後だからって色々言って去って行ったわね。……さっきので200回目の挑戦?あの子、思ってたより粘り強い子だったのね。それにしても変なおねーさん、だと?……いや、実際変か。……さーて、明日が休みでよかった。帰ってケーキ食べながら映画でも観ようかな」




(後書き)

少しだけ書き直そうと思っていたのですが、結構増えました。


別の世界線↓(作者が遊んでいます)

「でも君、ちょっと嬉しそうだよ。ケチャップなのに。……まさか、ケチャップの方がお好き?」

「んな訳あるかい!……いや、ケチャップの方がお好きです」


最後ちょっと迷って却下になったやつです。パクチーは苦手な人が多いイメージ。

「私だってパクチーが苦手」

「さて、部長からもらったこの大量のパクチー、どうしようかな……」


使っていただき、又は読んでいただきありがとうございました。

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小さな吸血鬼〜君は強い子〜 改訂版 いとい・ひだまり @iroito_hidamari

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