第6話 メスガキ妹
「いつにも増してクソザコオーラ全開~。猫背で登校なんてキモキモですよ~先輩~♡」
「遊佐神……」
俺の隣にやって来て、顔を覗き込むなり愉快そうに笑う女子。
それがこの悪魔の名だ。
学年は俺より一つ下の一年生。
低い身長と華奢な身体、そして長く伸びたツインテールの髪と誰が見ても美少女と呼ぶであろう可愛らしい童顔の持ち主である。
しかしそんな外観に騙されてはならない。
コイツの本性――性格は厄介極まる。
「毎度毎度、俺になんの用だ。煽りたいだけならどっかいけ、しっし」
「ひっど~い! 先輩に元気がないみたいだから、可愛い後輩が仕方なくからかって笑い者にしてあげようと思ったのに~!」
「元気づけるつもりは微塵もないのかよ」
「あれあれぇ~? もしかして激カワ美少女後輩に励まされるの期待しちゃってます~? それもう非モテ陰キャ童貞の発想じゃないですか~。キッモ~♡」
殴りてぇ。
マジで一発殴りてぇ。
このメスガキに男の尊厳をバカにするとどうなるのかわからせてぇ。
しかし女子に拳を振るうなど断じてあってはならない。
今日も怒りをぐっと抑え、ストレスに耐える俺なのであった。
――コイツとの出会いは一年前、後輩たちが入学して間もない頃まで遡る。
ある日、階段を上る後輩女子が足を踏み外して転倒。
あわや階段を頭から真っ逆さま――という事態になろうとした時、俺が偶然にもその子の後ろにいたためになんとか身体をキャッチ。
後輩女子は怪我もなく事なきを得たのだが……その時助けてしまったのがこの遊佐神という性悪女だったのだ。
以後コイツは俺を見かける度に弄りに来るようになり、今やすっかり顔見知りとなってしまった。
認めたくはないが、遊佐神は俺にとって衣緒莉先生や菫先輩と同じ数少ない女性の顔見知りの一人なのである。
「そういえば聞きましたよぉ~? 先輩、彼女を作ろうと頑張り始めちゃったとか~?」
ぎくり。
……一番知られたくない奴に知られてしまった。
っていうか情報掴むの早すぎだろ。
俺が姫子に煽られて行動し始めたのってまだ昨日だぞ?
コイツの情報網はどうなってんだ……。
「……お前には関係ないだろ」
「あ、先輩ってば本気なんだ~! それでそれで、守備の方はどうなんですか~? くふふ♡」
「……ああ、うん、もう正直それどころじゃなくなったかな……」
「あ、あれ……? なんか予想外の反応? もしかしてリアルになにかあった系です~……?」
「お前には関係ないって言ってるだろ。いいからほっといてくれ」
追い払うように言うと、隣を歩いていた遊佐神の足がピタリと止まる。
「ん?」
「うぅ~……ぐすっ……そんな言い方ないじゃないですかぁ~……。ウチだって本当は、ちょっとくらい先輩を心配してるのにぃ~……。酷いですぅ~……ぐすっ」
大粒の涙を流し、泣き始めてしまう遊佐神。
あ、あれ? 俺なんかマジ泣きさせちゃった……?
それと同時に周囲から集まる、他の登校中の生徒たちの視線。
あ、やばい、コレ明らかに俺が悪者として見られてる。
いや確かに心ないことを言ってしまったかもしれんが。
「どうせウチなんかじゃ相談相手にならないからってぇ……話くらい聞けますよぉ~……ぐすっぐすっ」
「わ、悪かった、冷たい言い方だったのは謝る。そうだな、確かに悩みがあったよ。今からでよければ、相談させてくれないか?」
「本当!? しょうがないですね~先輩ってば。そこまで言うなら、この心優しい後輩が相談に乗ってあげますよぉ~。言質も取りましたし、もう洗いざらい吐いてもらいますから~♡」
一瞬にして泣き止み、さっきまでの愉悦を浮かべた顔に戻る遊佐神。
まるで「かかったなアホが」とでも言いたげた表情だ。
コ、コイツ、嘘泣きしてやがったな……!
だが気付いても後の祭り、言ってしまったのは事実。
それにまた噓泣きされたらたまらん。
「……はぁ、わかった。一応言っとくが、他言無用にしてくれよ」
「ロンモチ~。ウチが先輩の秘密を誰かに話すなんてありえませんから~♡」
まったくどの口が言うんだか。
俺はスマホで時刻を確認すると、まだ朝のHRまで多少時間があることを確認する。
そして人気の少ない体育館裏に遊佐神を連れていくと、俺の家で今なにが起こっているのかを打ち明けたのだった。
どうせ女に縁のない人生なんでしょ?と言われたので見返そうとしたら、我が家に「母なる者」と「姉を名乗る不審者」と「メスガキ妹」が揃いました メソポ・たみあ @mesopo_tamia
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