最終話 焼肉とさよなら
「では、本日はお集まりいただきありがとうございます。挨拶はいろいろやったんで、乾杯!」
「「「「「「「乾杯!」」」」」」」
グラスが威勢のいい音を立ててぶつけられた。
週末。
宣言通り、俺は打ち上げもどきを開催するに至った。
開催場所は、我が家……とでもいいたかったところではあったが、人数が人数であり、我が家に全員入るとは思えない。入れたとしても人口密度が凄まじいことになる。ちょっと暑苦しいことになる。
打ち上げといったら焼肉ということで、昼間に予約をぶちこみ、楽しい楽しい焼肉パーティーは開催される流れとなったわけだ。
参加者は以下の通りである。
上倉晴翔
初川優里亜
籠氷空・勝利
世界冴海
世界咲依
緑岡縁菜
青江羽衣
……呼べる人はみんな呼ばせてもらった。このリストに世界咲依という名前が紛れ込んでいるが、これは予期せぬ異物混入ではない。冴海ちゃんが誘ったのである。
理由がない打ち上げとはいったものの、青江羽衣の正体判明記念じゃないけど、そういう意味合いも含まれる打ち上げではある。世界咲依さんがいても不思議ではない。
世界咲依がこの場に来たときの様子は、このようなものだった。
「まじ久しぶりなんですけど〜! ユリアン、元気にしてた?」
「もちろん。元気すぎてこの街を片手で消滅させられるくらい?」
「意味わかんないんですけどー!」
俺も意味不明だ。
さて、時代を二周半遅れくらいにしないといけないような、絶滅危惧種のギャル風の人物。それが、世界咲依だった。金髪で派手なファッション、ガングロの雰囲気がどこか漂うスタイル。
優里亜さんと世界咲依が結びつくことはなかった。それに、この方を青江羽衣が憧れを抱いた。その事実を受け入れることができなくなりそうだった。
「それにしても、羽衣ちゃんのボーイフレンドとユリアンが同棲してるなんて、正直信じられないんだけど〜!」
「運命ってやつ、なのかな?」
「たぶんそれかも〜?」
世界咲依という人物は、こちらの気も知らないで、よくぺちゃくちゃいうものである。
正直いえば、こういったタイプは、さほど関わりがなかったため、あまり耐性がない。ゼロとはいわなくとも、日常には組み込まれていない要素であるから、困惑はもっともなものである。
その他の女性陣からの目線が痛い。なお、青江羽衣は冴海ちゃん経由で同棲のことを知られてしまっている。
『へぇ、イメージにありそうでなさそうでありそうでなさそう』というような感想を残したらしい。ちょっと毒を含んだ感想だと思う。
厳しい視線ではあるが、そこには諦めだとか慣れだとか、厳しさがマイルドになりつつあるように感じられた。これをプラスと捉えるかマイナスと捉えるか。
「なあ晴翔、どうして俺もここにいるんだ?」
いったのは、勝利だ。
「いい質問ですね、氷空のセーブ役だよ」
「妹の制御装置が、こんなうまそうな焼き肉を奢ってもらえるって本当でしょうか?」
「割り勘で勘弁してくれよ」
ひとり暮らし高校生のお財布事情をすこしは考えてくれ。
「つうか、こりゃマジでカオスだな」
「しかし全員が俺を通じて繋がっているという事実が横たわっている」
「わかんねえもんだわさ」
実にその通りだ。
八人。これだけいると、ある程度話す相手というのも固定化されていく。まあ、優里亜さん世代コンビの勢いが凄まじく、とにかく巻き込んでいく。これが本当の台風だった。氷空は台風ではなかった。
青江羽衣はあいかわらずの寡黙ガールを発揮していくかと思われたが、親族がふたりもいるとなると、だいぶやりやすかったようで、予想に反してわりとおしゃべりに参加していた。
本日いただくことになったのは、焼き肉。
ガツガツいかせてもらっている。こんがり焼け目がつくまで火を通し、タレにべったり浸していただく。
……うまい。これほどうまい食べ物がこの世に存在していようか、と感嘆せざるをえない。たまらない。
他の面子も同じような感想をいだいてくれていたらしく、幸せな表情を拝めた。
しばらく会話をしていると、友達の友達が意気投合している様相を見せていた。
……こうして過ごしていると、きのうの問いがどうでもよくなってくる。
優里亜さんと、そして後輩たちと楽しく暮らしていけること。それ以上に望むことがあるだろうか。
なぜか付き合う前提なのもあれだが、この関係を維持できればオールオッケーではないだろうか。
そこに世界咲依が加わっても面白いだろう。
一度、自分の夢を諦めざるをえなくなった過去を考えれば、日常があるだけでもありがたいというものである。
いい意味で隣人とは思えないような隣人と、馬鹿みたいな話しながら過ごせる日常。素晴らしいと思う。他人から見れば贅沢かもしれない。
ともあれ、どんどん近づいてくる文化祭を取り仕切る文化祭委員としての仕事も忘れてはならない。プライベートに目をむけすぎて学校生活に支障が出てしまっては本末転倒といったところだ。
まだ高校二年生の中途。ここからが、地震の青春がまた一ページ、また一ページと綴られていく。
後輩たちの妨害をかわしつつ、優里亜さんとの平和な日常を目指そうじゃないか。
「晴翔君、みんなで写真撮らない?」
「いいですね、優里亜さ……そうだ、青江羽衣さん、写真ダメなんだっけ?」
「羽衣ちゃんが映ると異形が写るけど問題ないっしょ!」
「咲依さん!?」
そのままの勢いに押されて、八人全員がカメラに映るよう近づく。
「いくよー」
「オッケーだ、変態晴翔」
「いいよ、晴翔君」
「いつでもいいの」
「早くしなさいよ」
「みな、笑うのだぞ。最後の写真かもしれんからな」
「縁菜ちゃんやばっ〜」
「幽霊映らないで……」
準備は整った。
「はい、チーズ!」
シャッター音。
画面には、いい表情をした男女九人が写っていた。
かくして、日常は続いていく。
……あれ? 人数、ひとり多くない?
隣に住む変態なお姉さんに愛されたいけど、年下の女友達のせいで全然うまくいかない件について まちかぜ レオン @machireo26
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