第26話 捜索と考察
部屋に戻る。
青江羽衣が写っていそうな写真はあるのか。そう考えた結果、ひとつの考えが浮かんできた。
机の中を漁る。学年のはじめに、クラス写真を撮影することとなっている。それを購入していたかもしれない。
やや高い値段だったが、
「高校時代の思い出はいましか残せない。かわいい女子の貴重なすっぴんを後生大事に残しておくことは、男子として欠かせないことだ」
と、友人の籠勝利に熱弁された結果、俺も買ったはずだ。勝利のやつも、俺に負けず劣らず、変態を極めている。
それは妹の籠氷空にも知られているはずなのだが、氷空のブラコン気質補正のせいか、変態要素は俺がすべてかっさらっているらしい。
理不尽ここに極まれりといったところである。事実が正しく認識去れないあたり、現実は非常である。
……そんなことはどうでもいい。
机の引き出しからも、ファイリングしてあったプリントの中からも、教科書の棚からも発掘されなかった。
ありとあらゆるところを探して、かれこれ一時間弱。写真は神隠しにあったかのように見当たらない。同じ場所を何度も探してみたものの、残念ながら結果は変わらなかった。
片付けをしている途中、思い出の品を見つけてしまうと、そのたびに手が止まり、作業が大幅に遅れてしまった。
それが、一時間弱の捜索を経ても何の成果もえられていなかったおもな事由だと思われる。なんともいい訳がましい。しかしそれが真実である。
「無理だな、こりゃ……」
探し物は探そうと思わないタイミングで発掘されるものだ。そんな格言を思い出し、作業はいったん中断する運びとなった。やっても仕方のないことは諦めるに尽きる。
しかし、ここまで出てこないと捨ててしまったのかもしれないな。ゴミの中に偶然挟まってしまった可能性もゼロとはいいがたい。
「探すの、やめるか」
そもそも、あれだけクラス写真を買うよう勧めてきたアイツがいるではないか。すぐ見つかるだろうと高をくくっていたから頼ろうとしなかっただけで。
かくして、俺は籠勝利に「クラス写真のデータ送ってくれ」という旨のメッセージを送りつけた。
既読から返信まで、ものの数十秒だった。勝利、早すぎる。
大丈夫か、勝利。暇人すぎてスマホばかりいじっているのではないのだろうかと不安に思ってしまうよ。
写真には、
『ほらよ。変態だからって、気になる女子のとこだけ切り取って、なにかに使ったりするなよ』
というメッセージが添えられていた。変態チックな用途ではないが、半分くらい正解だ。途中点をあげたいと思う。
「どれどれ……」
画像を拡大し、青江羽衣を探していく。出席番号で男女別、とかならわかりやすかったものの、担任の謎の意向により、男女シャッフルの並びになっていた。
「まずは俺、発見」
それはそれとして、青江羽衣である。画面をスワイプし、丁寧に、丁寧に探していく。
こいつも違う。あいつも違う。もしかして、これが青江羽衣……いや、全然違ったわ。影の薄さは同じくらいだが、背丈がまるで違っていた。
「……もしや、いない?」
いやな予感がする。よし、何人いるか数えてみようか。一、二、三……。
結論、ひとり足りない。
念のため、顔と名前を一致させる作業をおこなった。捜索の過程で見つかったクラス名簿に鉛筆で印をつけていった。数分後、名簿には大量の斜線が入った。それはひとつの事実を突きつけてきた。
いないのは、青江羽衣だったのだ。
「まじかよ……」
手がかりが、あともう一歩のところでとりあげられてしまった。きょうのうちに写真を手に入れようとすることは、ほぼ絶望的だろう。
仕方があるまいが、焦っても結果が変わるわけではない。出ないときはやはり出ないものなのだ。
となれば、問題はあしたである。青江羽衣の写真を手に入れる方法。それは、自ら彼女を撮影することに尽きるだろう。
チャンスは、むろんふたりで文化祭にむけての作業をするときだ。誰かが邪魔をしてくるといささか面倒なことになるのはわかりきっているからな。
考えるべきは、どのようにして彼女を撮影する口実をつくるかである。
もし、無理やり写真を撮るような真似をすれば――青江羽衣のことだ、一気に不信感が募ることだろう。
一時の情報のほしさに目がくらんで、これから手に入ったかもしれない情報をみすみす失うというのは、あまりにもマイナスである。
しかし、さほど友人もいなさそうな(我ながら失礼なものいいだ)青江羽衣であるから、クラスメイトが写真を持っているということもなかろう。
結局、ツーショットしかない。これは、上倉晴翔の技倆を問う試金石となるであろう。
あの青江羽衣をいかにして攻略していこうか。楽しみでもあるし不安でもある。そう思っている時点で取り込まれている気がする。
もっとも、写真を得られたとしても、青江羽衣が優里亜さんの友人の妹であるという確証はなく、無駄足になるだけという可能性も充分にありうる話ではある。
「やるしかない、か」
考えても仕方あるまい、ともかく、明日に委ねるしかないのである。
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