隣に住む変態なお姉さんに愛されたいけど、年下の女友達のせいで全然うまくいかない件について

第一章

第1話 友人とその妹

「胸を見てるのか、晴翔（はると）」

「ああ。胸は美しい。欲を言えば年上だが、年下のものもすばらしい。そう思わないか、勝利（しょうり）」

「友人の妹の胸をガン見するとかそりゃないだろ……な、氷空（ひそら）？」

「まじ変態で最低だけど、晴翔はもう手遅れだから諦めてる」

「どんだけ信用されてないんだよ」

　上倉晴翔（うえくらはると）は、友人の妹の胸を見ていた。

　発達途上であるそれは、大きいとも小さいともいえぬ絶妙なサイズ感。シャツの上から膨らみがわかるくらいだ。

　純白のシャツからは、下着の線が浮き上がっている。ただ、彼女はそれを気にしている様子はない──。

　さて。

　なぜ、「胸を見ている」などとのたまうたのか。

　そこに胸があったから……などではない。あいつらなら冗談として受け取ってくれるはずだという思いでいっただけだ。

　とはいえ、思春期男子の本能には逆らえずに見てしまった気がする。最低だ……。

　現在、俺は友人の家にいる。きょうは休日ということで、遊びにきていた。

「お前の信用貯金は国の借金レベルのマイナスだ。一生かけても返せまい」

「名誉挽回のチャンスはないと？」

「チャンスは何度も与えた。だが、改善の意志がまるで見られない」

「否定できないが、変態でもいいじゃないか。周りに女の子が集まっているだろう？　年下ばかりだけど」

　年下ばかり。これは強調しておかねばならない。

「それが不思議なんだ。氷空がお前を気に入っているのには、男を見る目がないのか兄として不安になる」

「だって、晴翔って見てる分には面白いんだもの。退屈しのぎにはなるかしら」

　俺の周りには、年下の女の子が集まってしまう。生まれてこの方十数年、関わった女の子は年下ばかりだった気がする。

　俺の女友達は年下しかいない。女友達といっても、氷空の友達ばかりだから、正確には「友人の妹の友達」だ。

「罵（ののし）ってくれる女の子なんて私くらいでしょ？　感謝の気持ちは？」

「年下に罵（ののし）られてハイになる性癖は、あいにく持ち合わせていないんだ」

「……その分、年上には目がないよな〜」

「こらっ」

　俺の性癖は、まともな方だと思う。義妹や転校生しか勝たんとかいっているような、こじらせた輩と一緒くたにまとめんでいただきたい。

　ちなみに、性癖は〝年上のセクシーなお姉さん〟だ。

　スタイルがよくて巨乳だとなおよい。甘えてみたい、というのはさることながら、舐められた態度を取られたいというのもある。

　こんなことを思ってるから変態だと罵（ののし）られるのだ。

「晴翔はもったいない。年下好きなら今頃パラダイスじゃないか。足るを知るべきだ」

「現在の状況をたとえるなら、本当は寿司を食いたいのに、ラーメンばかり食わされるというところだ」

　ラーメンも嫌いじゃない。だからといって、毎日食べたいというわけでもない。この例を用いると、寿司だったら毎日食える。

「万死に値するわね。全てのラーメンに謝りなさい。贅沢にもほどがあるわ」

「もののたとえだ。年上への憧れが最上位にあるだけだ」

「落ち着こうか。晴翔が年上のお姉さんと関わるなんて、まず無理だろう。諦めて俺の妹と結婚して幸せなキスでもしておけばいい」

　なんとも辛辣な友人である。

「晴翔と結婚？　マジありえない……」

「拒否してもらえて助かるよ。結婚しても、どうせ尻に敷かれるだけだろうからな」

「私が晴翔をしごいている光景がありありと目に浮かぶわね。楽しそうじゃない」

　君はドSか！　とつっこんだところ、スルーされてしまった。悲しい。

　会話が途切れる。ふと、左腕につけた腕時計に目がいった。

「そういや、氷空ってきょう塾だったよな。この時間で間に合うか？」

「問題ないわ。塾をサボったって成績が下がるだけだもの」

　それって自信ありげにいうことではないと思う。

「……氷空、お兄ちゃんこと勝利君からのお願いだ。塾にいく準備を始めろ。サボりは許さないぞ」

「はぁ……仕方ないわね、お兄ちゃん。塾にいってあげるわ。じゃあね、晴翔！　お姉さんへの愛で満たされた湖で溺死していることね」

「愛に溺れて死んでたまるか！」

「無粋な奴ね、晴翔は」

　氷空ちゃんはパパっと動き、数分のうちに支度を終えた。兄の勝利もそれに続く。どうも塾の方面に用があるらしい。玄関で靴を履き替え、いよいよ出発だ。

「じゃあな、晴翔。また今度！」

　そういって扉を開けると、勝利たちは行ってしまった。俺の家とは逆方面だ。

「……帰るか」

　兄妹（きょうだい）の姿が見えなくなったところで、俺は自宅を目指して歩き始めた。

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　あとがき

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　第2話からお姉さんが登場します！