明日生きる乙女たちへ

くうき

一話

 空は、私に微笑むことはなかった。決して振り向くこともなかった。私は遂に信じていた心の盾さえも失くした。




 孤独を噛みしめながら歩く砂浜の海岸は、どこか寒さを感じさせるものがあった。私、金森真凜かなもりまりんは、生きることに飽きていた。なら・・・いっそのこと、海に入水して自殺しようって何度も考えていた時だった。


「君は、両親から貰った命を捨てるつもりかい?」


遠くからそんな声が聞こえた。私はその声に対して少しだけ反応してしまう、いや敢えて耳を傾けようとした。


「あ、あなたは誰?」


「ふふっ、見知らぬ人に名前を尋ねるなんてよっぽど切羽詰まらせてるね。いいかい?ボクは時坂かのんだよ。よろしくね・・・え〜と君、名前は?」


彼女、時坂さんは私に笑いながら話しかけてくる。私は質問されたことにしっかりと返す。


「私は金森真凜です。時坂さん。よ、よろしくお願いします。」


「うん、よろしく。あと、僕と君は同い年だからタメ口でいいよ。」


「そっか、分かった。」


これが、私たちの出会いだった。




 その出会いから数日がたった。私たちは一応LINEや電話などをして連絡はしていた。そして、この日が全てを終えることに繋がる・・・いや、始まりになる。世界は私たちのことを見てくれているんだって思ったその時が始まりだった。




 日の照らす砂浜の海岸は時坂さんとはじめて会った時よりもじりじりと暑さを表していた。


「ふぅ〜、今日は暑いな〜、時坂さんこないかな?」


右腕で汗を拭いながら私は時坂さんのことを待つ。そんなことをしていると海岸近くにある道路に植えられた樹木から蝉の鳴き声が響きだす。なんか、蝉の鳴き声って聞くと暑いと錯覚しちゃうんだよね〜。


なんて、馬鹿みたいに考える。




期待してるのかな?




友達だって私だけが思い込んでるのかな?




また、あんなことになっちゃうのかな・・・




 私の中には不安と劣等感そして恐怖が生まれる。誰も近づかず無視され軽蔑されるあんな檻の中にいる私。一生救われない自分に匙を投げたくなって気がつけば私は船が一台も止まっていない廃港に1人ぽつんと立ち尽くしていた。


「なんでかな・・・私には友達ができないんだろう?」


「ホントになんで・・・」


たとえ1人で呟いたとしてもそれを聞いてくれる人は誰もいないと・・・思っている。なんて言って誰かが救ってくれる筈もなく、私は気が付けば立ち尽くして歩んでいた。海に向かって。ただただ、『死にたい』と願いながら。


「またやるの?金森さん。」


「っ!?」


そこを振り返るとある声が聞こえた。でも姿は、見えなかった。


「もう、無駄だってわかってても進むの?」


たった一つ、その声が聞こえた。かつて数日、共に笑って、泣いて、怒って、喜んだ時に聞いた声だ。


「と、時坂・・・さん?」


「ふふっ、あたりだよ金森さん。」


そう言って彼女は私の前に現れてきた。・・・足が透けている状態で。




 この日の夜はやけに幻想的に見えた。彼女のワンピース姿がより一層際立つように対照に死にたがっている彼女は闇に飲まれているそんな、太陽と月のような姿が見えていた。




 それでも、おかしいところがたくさんある。彼女、時坂かのんには何故足がないのか。・・・憶測が推測が観察が私の頭の中に飛び交っていった。


「ふふっ、君は考え過ぎだね。」


「ふぇ?」


「簡単じゃないか。僕は死んでいるんだから《・・・・・》。」


その時、世界が一瞬止まって見えた。

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