良心の呵責
ジャメヴ
第1話 閉店
『誠に勝手ながら、閉店させていただく事になりました。3年間という短い間でしたが、御愛顧ありがとうございました』
10年働いた会社を脱サラした後、3年間1人で切り盛りしてきたラーメン屋。私は断腸の思いで閉める事に決めた。常連客も2,3人居て、出来れば続けたかったのだが、客足が思うように伸びず、借金が
昼御飯を食べた後、これからの生活をどうすれば良いのか分からずに、独身中年男性が、あても無くフラフラと歩く。いつの間にか、あまり知らない場所まで来てしまった。人が住んでいるのか住んでいないのか分からないような古い建物が隙間無く建っている下町で、道路は車が1台しか通れそうにない。所々にある喫茶店やカラオケ店や散髪屋といったお店は、外からみる限り営業している感じが無い。散髪屋の前にある大きめの時計は、8時15分で止まっているように見え、随分と前に閉店したという雰囲気を
ドクン
心臓か脳かは分からないが、大きな音が鳴ったような気がした。私はスッとカバンの中に手を突っ込むと、大きな長財布を握り、抜き取り逃げた。そして、逃げながら財布を開き、札束だけを鷲掴みにして抜き取ると、ジーンズの右ポケットに押し込んだ後、軽く女性の方を振り向き、こっちを見ているのを確認すると、財布を少し後ろに投げた。地面にバウンドすると財布の中身が少し散らばったが、もちろん気にせず逃げる。交差点がある毎に曲がりながら逃げる。女性が叫ばなかった事や、ほとんど追い掛けて来なかった事に少し驚いている。あまりの急な出来事に声も出ないのか、下手に叫んだりすると、私が逆上して襲い掛かってくる可能性があると考えたのかは分からないが、とにかく助かった。こんな事はしたくない。だが、しょうがない……。
「はぁ、はぁ……」
俺は必死で逃げながら考える。
ひったくり等をすると、女性が転倒して大怪我をする恐れもあり、また、財布にはクレジットカードの他、免許証等、現金よりも大事な物が入っていて、それらを返す事が出来た。窃盗は間違い無く悪なので心が痛むが、彼女にとっても私にとっても最悪では無い結果に満足はしている。
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