第12話 鉢植えと手紙と精霊の鞄

 遺骨というよりほとんど遺灰に近い状態になったカリーサを鉢に入れると伝えると、バルトは少し驚いたが、すぐに一回り以上大きな鉢を用意してくれた。

 レオナルドに貰った鉢で花を育てるという当初の目的からは外れるが、人間一人分の遺灰を入れるのだから、元の鉢では小さすぎる。

 とはいえ、今度は球根一つに対して大きすぎる鉢になってしまうのでは、という心配もあったが、これは鉢の上を飾ることで寂しさを誤魔化すことにした。

 鉢は鉢だが、ここにはカリーサが眠っている。

 寂しくないよう、箱庭のように鉢を飾るのもありだろう。


「コクまろですか?」


「カレーライスです。……あ、小さいからハーフサイズとか、レディースサイズかもしれません」


 カリーサの眠っている鉢を飾ろう、と朝からチクチクと繕っていた黒い犬の人形にピックを付けて、鉢の土へと突き立てる。

 サリーサは見たことがなかったはずだが、王都の離宮にはカリーサの作った大きな犬のぬいぐるみがあった。

 黒柴コクまろと巨大な熊のぬいぐるみをモデルに作った、ベッドの番人だ。


 ……カリーサが眠ってるわけだし、ベッドの番人でいいよね?


 黒柴を作ってもよかったかもしれない。

 そんなことを考えていたら、鉢を飾り始めた私にバルトがいろいろと持って来てくれた。


 ……プランターより小さい感じだけど、ちょっとしたガーデニング気分だね。


 前世で割れた鉢を上手に使い、鉢の中に小さな家や庭を作った写真を見たことがある。

 あそこまで凝ったことはできる気がしないが、表面を賑やかに飾ることぐらいは私にもできるだろう。


 ……小さな家でも作ってみようかな?


 たまには刺繍やボビンレース以外もいいだろう。

 バルトの持って来てくれた小さな板切れを繋ぎ合わせて四角い箱を作り、そこに三角の屋根を載せるだけでも、それなりに家っぽく見えるはずだ。

 窓を作るのは難しそうだったので、ボタンをつけてそれっぽくした。


 なんだかお菓子の家のようになってきたな、と思い始めたところで、仕事の引継ぎが終わって暇になったランヴァルドが鉢を飾るピック作りに参戦してくる。

 私が適当に作った家も、ランヴァルドの手にかかると綺麗に整えられたので、ランヴァルドは意外に器用なのかもしれない。

 城を出てからは市井にまぎれ、自分で働いて生活をしていたそうなので、大工仕事でもしたことがあるのだろう。


「これは、わたくしですか?」


「カリーサが喜ぶかと思いまして」


 黒い犬の人形を飾ったあたりから何か作り始めていたな、と思っていたのだが、サリーサは私の人形を作っていたらしい。

 黒髪と青い目に、薄桃色のリボンとワンピースを着た女の子の人形だ。

 カリーサの作ったアルカスのワンピースを着た私だろう。


 私がいるのなら、とレオナルドの人形を作る。

 その間にサリーサは自分たち姉妹の人形を作って鉢に飾った。

 ランヴァルドは制止がないのをいいことに、最初の家に煙突をつけたり、私が諦めた窓を作ったりとバージョンアップに勤しみ、それが終わると今度はメイド服のミルシェ人形を作ってくれた。


「……こんな感じで、今日一日で大分豪華になりました」


 これならカリーサも寂しくないですよね、と帰宅したレオナルドと久しぶりに顔を見せたアルフレッドに報告すると、レオナルドは頭を抱え、アルフレッドには頬を抓られる。

 突然のことすぎて、保護者たちが何に対して頭を抱え、どこに対して頬が抓られたのかが判らない。

 判らなかったので、何をするのだ、と不満を訴えたら両頬を引っ張られた。

 どうやら私は、反論も許されない失敗をしてしまったらしい。


「ティナ、あの球根には名前を付けないように、と言ってあっただろう」


「……あっ!」


 そうでした、とレオナルドの心配の正体を知る。

 たしかに、これは怒られるかもしれない。

 これについては事前に注意を受けていたのだ。


「で、でも、違いますよ。埋葬したカリーサが寂しくないように、ってことで、あの球根にカリーサと名前をつけたわけじゃありません! 鉢全体をカリーサと呼んだのであって、球根のことじゃあ……」


「そんな屁理屈が通じるといいな」


 もしくは、本当にただの植物であることを祈るしかない。

 夢に小鬼ししゃが現れて遺骨を埋めろ、などと助言をくれる球根が、本当にただの植物だとは考え難いのだが。

 いつの間にか自然に、あの鉢を『カリーサ』と呼んでしまっていたのだ。

 あとは何が起こるのか、おとなしく見守るしかないだろう。







「クリスティーナは大分落ち着いてきたな」


「今まさに大失敗をしたと指摘されて頭を抱えている人間ですが、アルフレッド様にはわたくしが落ち着いたように見えるのですか?」


「……いや、そういう意味ではまったく落ち着いていないように見えるが」


 グルノールへ戻った当初と比べると、かなり落ち着いて見える、とアルフレッドは言う。

 私の記憶は神王祭の夜からはっきりとしているのだが、アルフレッドはグルノールの街へ戻ってからしばらくの私を報告という形で聞いている。

 たしかに、聞くことしかできない神王祭の前の私と比べるのなら、今の私は落ち着いていると言えるかもしれない。


 ……あれ? そういえば?


 グルノールの街へと戻ってきた、と言えば、私の周りには一人足りない。

 カリーサのことは、もう聞いた。

 アーロンが私の帰還後少ししてから合流した理由も、砦で視力を失いつつもなんとか護衛の任が続けられないかと訓練していたと聞いている。

 けれど、もう一人。

 私の側にいるはずの人間がいなかった。


 ……なんで今まで気付かなかったの?


 気付いてしまえば、自分の薄情さ加減が恐ろしい。

 人が一人いないことに、今の今まで気が付いていなかった。


 ……たしか、ジゼルは……?


 記憶に無いということは、この二年の間の変化だ。

 ということは、レオナルドが聞かせてくれた話の中に、ジゼルについてもあったはずだと記憶を探る。

 と、確かに掘り出されてくる情報があった。


 ……レオナルドさんはちゃんとジゼルのことも聞かせてくれてたのに、私はまるっとジゼルのことを忘れてた……?


 なんでだろう、とは思うのだが、今はそんなことを気にしている場合ではない。

 ジゼルはズーガリー帝国まで私と一緒に攫われ、そこで甲斐かい甲斐がいしく私の世話を焼いていてくれたらしいのだ。

 ずっと一緒にいたというのなら、今グルノールの街にジゼルがいないというのはおかしい。

 そして、ジゼルがズーガリー帝国に残された理由も、私はレオナルドから聞いている。


「……ジゼルのことは、どうなっているのですか?」


 ひどい怪我を負い、長旅に耐えられそうな体ではなかった。

 そのため、ジゼルは信頼できる人物に預けてきた、とレオナルドからは聞いている。

 ジゼルが怪我を負ったのが夏で、レオナルドが最後にジゼルの姿を見たのは秋だ。

 今は春になっているので、そろそろ旅ができる体力は戻ってきているだろう。


「カルロッタ様に預けてきたから大丈夫だとは思うが……そうだな。たしかにそろそろ呼び戻せるだろう」


「カルロッタ様と言うと……えっと、帝国でレオナルドお兄様を匿ってくれた方でしたか?」


「そのカルロッタ様だが……」


 カルロッタのことも曖昧になっているのだな、と続いたので、私はカルロッタという女性に懐いていたのだろう。

 私が出先で他人に懐くとは珍しい。

 どんな人物だっただろうか、と私自身の記憶を探るが、嫌な気持ちがしないだけで、他に思いだせることはなかった。

 嫌な気持ちがしないということは、好きだったのだと思う。


「カルロッタへは、そろそろ手紙の返事を出したらどうだ?」


「返事、ですか?」


 はて、なんのことだろう、とアルフレッドを見上げる。

 手紙に返事を、ということは、先にこちらが手紙を貰っていることになるはずだ。


「クリスティーナの情報を得るためにボビンレースの宣伝をした、という話は聞いているはずだな?」


「聞きました。帝国で行動がしやすいように、と噂をばら撒いたと聞いています」


「他の狙いとして、オレリアから恩を受けた人間を探し出す、というものがあった」


「オレリアさんに……?」


 アルフレッドの言うことには、アルフレッドの母エヴェリーナの他にもオレリアから親愛をこめてボビンレースを貰っている人間がいたらしい。

 オレリアからボビンレースを贈られるほど信頼されていた人物であれば、同じくボビンレースを贈られた私の捜索にも協力してくれるだろう、とアルフレッドたちは彼らを探すことにしたようだ。


 そうしてイヴィジア王国内でボビンレースを広め、商人コーディを使って神王領クエビアの仮王レミヒオを動かし、あわせてボビンレースの指南書を広げることで、自分もオレリアからボビンレースを貰ったという数人から私へと手紙が届いたのだとか。

 その中の一人が、カルロッタらしい。


「……待ってください。それはどのぐらい前の話ですか?」


 私宛の手紙だなんて、今初めて聞いた。

 私の記憶が曖昧なのは、ここ二年ほどだ。

 その間に届いた手紙なら、最大で二年返事を放置していることになる。

 ボビンレースを広めてから手紙が届いた、という流れを聞けば最大の二年放置したということはないはずだが、それでも結構な時間が過ぎているはずだ。

 私がグルノールへ戻ってからだけでも、二ヶ月は放置されている。


「ざっと一年以上前の話だな」


「つまり、わたくしはオレリアさんのお友だちからお手紙をいただいて、一年以上も返事を出していない、ということですね」


 なんという不義理、と聞いた瞬間に頭を抱えたくなったのだが、これについてはアルフレッドがある程度フォローをしてくれているらしい。

 私の事情を説明する手紙を返事として送り、何かあったら手を貸すという、さらなる手紙を貰っていたようだ。


「……だから、返事を書くまでに時間が経ちすぎた、とクリスティーナが気にする必要はない。カルロッタへ手紙を書くのと一緒に、彼らの手紙へも返事を書いて無事を知らせてやるといい」


 あとは交流を持つなり、オレリアの思い出話をするなり好きにしろ、と後日彼らからの手紙を持たせたソラナを館へと送ってくれた。

 ソラナはアルフレッドの女中メイドということで、アルフレッドに付いてグルノールの街まで出向してきていたらしい。


 ……ああ、うん。きっと懐いていたんだろうな、私。


 ソラナから受け取った手紙に目を通し、カルロッタからの手紙を見ての第一印象がこれである。

 流麗な文字で綴られた形式どおりの挨拶に続き、ボビンレースについてや、ボビンレースを作っていた女性を知っている。その方が指南書に書かれた女性では? と本題に入り、オレリアの人柄について並べられていた。

 オレリアに対する人物評を読む限り、カルロッタはオレリアとかなり気があったようだ。

 淑女らしい猫を被った言い回しをしているのだが、オレリアへの評価が伸び伸びとしている。

 もちろん、イイ意味で。


 ……それにしても、指南書にオレリアさんのくだりを入れたのはたまたまだったけど、いい方向に動いてくれたね。


 こうしてオレリアの知人が名乗り出てきて、私へと救いの手を差し伸べてくれた。

 これはやはり、オレリアが私を助けてくれたのだろう。


 好印象しか受けなかったカルロッタからの手紙を持って、レオナルドに実際のカルロッタ像を聞いてみる。

 私の記憶は残念ながら曖昧になってしまっているのだが、レオナルドから見たカルロッタは『淑女の皮を被った女傑』といった印象だったらしい。


 ……なにそれ、すごく会ってみたい。


 これが『女傑』だけであれば近づかない方がいい元気すぎる人物である可能性があるのだが、頭に『淑女』とついている。

 きっと背筋を伸ばした凛々しい女性なのだろう。

 振り回されそうな御転婆パワフルさはあるかもしれないが、淑女と付くぐらいなのだからそれを取り繕うこともできているはずだ。


 ……理想の姿だね!


 レオナルドにこの感想をそのまま伝えたら、渋い顔をされそうな気がするので飲み込んでおく。

 私としてはカルロッタを理想の女性と思ったのだが、私を淑女として育てたいらしいレオナルドとしては、カルロッタの影響は受けてほしくないだろう。


 ……あれ? でも私の周りの淑女って、後ろに『?』が付く人が多いような……?


 淑女教育の教師だったヘルミーネは、淑女の嗜みと言って馬術や護身術を身に付けていた。

 アルフレッドの言う淑女の中の淑女という女性も、鉄扇より重いものは持ったことがない、というような、本当に淑女と呼べるのか首を捻りたくなる評価だ。

 フェリシアはたしかに淑女らしい振る舞いをしていたが、そもそも全裸の王女は淑女と言えるのだろうか。

 伯母のソフィヤとジークヴァルトの妻ミカエラぐらいだろうか、と考えて、ミカエラは除外しておく。

 これは予感でしかないのだが、白銀の騎士の団長を務めたというジークヴァルトの妻が、淑女らしい淑女に務まるとは思えないのだ。


 ……ズーガリー帝国じゃ、さすがに会うことはできそうにないね、カルロッタ様。


 カルロッタのいるアウグーン領は、エラース大山脈を挟んだ向こう側にある。

 前世とは違って交通網がそれほど発達していないので、コーディのような旅の商人でもなければ、まず行かない距離だ。

 旅行にいくとしても、国内がせいぜいだろう。


 ……帝国は誘拐されて行ったぐらいだから、二度目は無理ですね。サエナード王国ぐらいならいつか行けるかな?


 ルグミラマ砦までなら、レオナルドにおねだりすればすぐにでも行けるだろう。

 王都へだって、なんだったらお迎えの馬車つきで行けるはずだ。

 イヴィジア王国国内であれば、それほど問題はない。


 ……まあ、そもそも外出が今の私には無理なんだけど。


 いつか、オレリアの知人たちには会ってみたい気がする。

 本当に、いつかの話だ。

 今の私にとっては、目標や行ってみたい場所ができるということ自体が珍しい。

 常に心が内向きで、外へ出たいと思うことなどほとんどないのだ。

 この気持ちは大切にしておかなければならない。







 オレリアの知人たちへの返事を書き終え、ペルセワシ教会へとミルシェを使いに出す。

 ペルセワシ教会は伝令・伝達の神ペルセワシを奉る、前世でいう郵便局のような役割を果たす教会だ。

 オレリアやバシリアとの手紙はレオナルド経由で黒騎士の伝令に紛れ込ませてもらっていたが、今回の手紙は隣国へも運ばれるため、黒騎士は使えない。

 そのためミルシェにペルセワシ教会へと手紙を出してきてもらったのだが、戻ったミルシェを労っていると、昼食を取りに戻ったレオナルドの後ろにアルフとアルフレッドがいた。

 二人とも今日のお昼は館で取るらしい。


「クリスティーナが外へ興味を持ち始めたのは、よい傾向だな」


「まだ外出は無理ですけどね」


 相変わらず裏庭へは出られます、と言って花壇の様子を伝える。

 裏庭で咲いていたエノメナの花はすでに見ごろを終え、バルトによると今は来年に向けて球根を育てているそうだ。

 ついでに言うと、いつの間にか『カリーサ』と呼んでしまっていたエノメナの鉢は、相変わらず芽のままである。

 ただし、その大きさは三倍ほどに大きくなっていた。

 さすがの私でも、これがエノメナの花としてはおかしい育ち方だと判る。

 判るのだが、今さら抜くことはできないので、このまま見守るしかない。


「カルロッタへの手紙はコーディに運んでもらうという方法があるが……」


「コーディにもお世話になったのでしたね。お礼を言わないと」


 私の救出に関しては、コーディが大活躍したらしい。

 手紙を運んだり、傭兵に偽装したレオナルドをズーガリー帝国内へと手引きしたりと、聞いただけでも大活躍だ。

 帰還に関してもコーディの荷馬車に乗せてもらっていたようなのだが、冬に館へと戻ってきた時にはお礼を言えた記憶が無いので、次にグルノールへとやって来た時には必ずお礼を言いたい。


「コーディと言えば……礼はどうしたものかな」


 聖人ユウタ・ヒラガの秘術復活の際に、材料を集めるためコーディには無茶をしてもらっていた。

 その際に失った形の無い損を補填できれば、とレオナルドはコーディを雇ったらしい。

 コーディが失った顧客分の礼金を払うつもりでいたらしいのだが、少々世話になりすぎた。

 レオナルドとしては、礼金だけでは気がすまないようで、これはアルフレッドも同じだったようだ。

 コーディが望めばイヴィジア王国への移住と店を用意してやることもできるのだが、それは難しいだろう、と珍しくも悩んでいる様子だ。


「となるとやはり礼は金銭になるが……コーディは人がよすぎるからな」


「たしかに、コーディに大金を渡すのは不安がある」


 アルフレッドとレオナルドの心配は、主に『誰かに騙されそうだ』という意味らしい。

 たしかに、善良なコーディに大金を持たせるなど、危険を呼び込むようなものだと思う。

 お礼として渡した金銭で、コーディが山賊にでも襲われることになれば、寝覚めが悪いなんてものではない。


「……そうだ。コーディにお礼がしたいのなら、いい物がありました」


 悩める保護者たちを尻目に、サリーサに私の部屋から鞄を取って来てもらう。

 精霊が作ったというこの鞄は、見た目よりも物が入るすごい鞄だ。

 とても世話になったので感謝の気持ち分だけお礼がしたい、しかし大金を渡すのは危険が寄ってくるのではないかと不安がある。

 そんなコーディへのお礼として、これほどピッタリな物はないだろう。


「サリーサといろいろ検証したのですが、この鞄は持ち主でないと中身が取り出せず、横のポケットにはいくらでも物が入るようです」


 横のポケットからココアの瓶がいくつも出てきた後、気になったから試してみたのだ。

 このポケットには、どのぐらいの物が詰められるのだろう、と。


 その結果として判ったのは、私のクローゼットの中身はすべて横のポケットの中に詰めることができた。

 ベッドやクローゼットは私が持てないので試せなかったが、花瓶や椅子を入れることもできている。

 そのくせ、鞄を持ち上げた時に中へ入れたものの重さはほとんど感じない。


「あと、誰かに隠されてしまっても、翌日には必ず持ち主の元へ戻ってくるようです」


 不思議な鞄だったので、どんな不思議なことができるのだろう、と思いつく限りをサリーサと試した。

 他にも判ったことといえば、水に入れても中の物は濡れない、許可を出せば持ち主以外でも中身が取り出せる、と高性能な鞄である。


 ……絶対に、私のクローゼットに死蔵されるより、商人のコーディが持っていた方が役に立つし、鞄も嬉しいと思うんだよね。


 コーディが貴重品を入れる鞄としては、とても頼りになる鞄だと思う。

 付け加えるのなら、精霊が作った鞄ということで、お金などいくら積んだところで店では買えないはずだ。


「ティナは自分の鞄をコーディにあげてもいいのか?」


「鞄だって、役立ててくれる人の手にあったほうが幸せだと思うんです。デザインもおとなしめで、コーディが使っていても違和感はないと思いますし」


 私の持ち物にしては飾り気がないな、と思ったことがある気がしたのは、このためだったのだろう。

 たぶん、鞄は最初からコーディの物になるために作られたのだ。


 ……不思議なことに慣れすぎて、世の中には偶然なんて存在しないってのが信じられそうだよ、本当に。


 コーディへのお礼として精霊の鞄を提示すると、レオナルドとアルフレッドはそこに礼金を詰めることにしたようだ。

 持ち主以外に取り出せないのなら、コーディに大金を持たせても大丈夫だろう、と。

 問題はいくら詰めるか、という金額の話になったので、話の輪からそっと外れる。

 金銭関係の話には、私は顔を突っ込まない方がいいだろう。


 ……あの鞄、たぶん目と耳が付いてるってことは黙っておこ。

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