第10話 追想祭 3
カーヤに夜祭へ連れていってもらえ、というレオナルドの提案は、丁重に辞退した。
まったく嬉しくはないのだが、今回ばかりはカーヤと意見が一致する。
レオナルド目当てのカーヤは私の面倒などみたくはないし、私だって性格的に拒否感しか湧かないカーヤと夜祭見学になど行きたくはない。
……レオナルドさんの祭祀は、少しだけ見たいけどね。
レオナルドの祭祀を見たいというほんの少しの好奇心を満たすために、それまでの時間をカーヤと過ごすことになるのは割に合わない気がする。
……それにしても、これだけ「この人は苦手です」って訴えてるのに、なんでレオナルドさんは私を預けようとするんだろうね?
そんな疑問はあっけなく
どうも館には顔を出さないくせに、レオナルド目当てで砦には頻繁に顔を出すカーヤが、私との仲が良好であると嘘をついていたらしい。
憎まれ口を叩く程度には打ち解けており、いつの間にか私はツンデレ属性を持つことにされていた。
……家庭教師が仕事に来ないって報告はしたけど、口喧嘩するほど仲良くなった覚えなんてないよ!?
そもそも会話らしい会話すらしないのだ。
打ち解けるはずもない。
しかし、どれだけカーヤが苦手だと訴えても聞き流される理由の一端は判った。
私たちの仲が良いと、レオナルドには誤解されているのだ。
多少の職務態度に対する報告など、打ち解けたがゆえの軽口と思われているのかもしれない。
……頑張れ、カーヤ! 今だけはカーヤの味方だよっ!!
自分で私と仲が良いと吹き込んでしまった手前、私を夜祭に連れて行ってほしいというレオナルドの要望を、カーヤは強く拒否することができない。
都合の悪いことに、レオナルドを祭りへ誘いに来ていたので、今さら「他の用事があるから」などと逃げることもできないのだ。
私がどれだけ拒否しようともレオナルドには遠慮としか受け取られないので、カーヤの狡賢さだけが頼りだ。
なんとかレオナルドの要求をかわし、逃げ切ってほしい。
「お任せください。レオナルド様の大切なティナちゃんは私がお預かりしますわ」
「良かったな、ティナ。カーヤ嬢が一緒に夜祭見学に行ってくれるそうだ」
……おもいきりお金で解決しましたけどね、今。
妹を夜祭に連れて行ってほしい、から始まった攻防は、戻ったばかりで疲れているでしょうし、という実に素晴らしい建前をかざしたカーヤがなんとか決定打を喰らわずに回答を拒否していたのだが、何か美味しいものを食べさせてやってほしい、と丸ごと渡されたレオナルドの財布を前に、あっけなく勝敗が決まった。
……いくら入ってるの、あれ!?
ひと目で高価だと判る服や靴を買う時でも一瞬も躊躇わず支払いをするレオナルドの財布は、私にとっては魔法の財布だ。
いったいいくら入っているのか、想像もつかない。
そんな私にとって魔法の財布としか思えないレオナルドの財布は、カーヤにとっても魔法の財布だった。
魔法の効果は「No」を「Yes」に変えるという、実に困った効果である。
「日が沈む頃に広場で祭祀があるから、ティナも見学においで」
私の内心の絶望になど気づかず、レオナルドは満足気に私の頭を撫でる。
もしかしなくとも、私に気を遣ってくれているのだろう。
初めてのお祭りで、夜祭まで参加できないのは可哀想だ、とかなんとか。
……レオナルドさんの優しさが今は辛い……っ。
春から夏にかけて、私を放置していたことに対する穴埋めという気持ちもあるのかもしれない。
近頃は多少会話をする時間があったり、一緒に食事を取る日もあるが、まだまだお互いに意思の疎通がとれていないと痛感せずにはいられなかった。
タビサたちへのお土産として買ってもらった甘辛団子を門番に渡し、砦へと向かうレオナルドを見送る。
あとはお互いに気は進まないながらもカーヤと手をつないで、戻ってきたばかりの道を歩いた。
……そういえば、祭祀は日が沈む頃って言ってたけど、それまでどうするんだろうね?
まさか何時間も場所取りをするようなタイプには見えないし、それだったら一度館で休んで出直す方が良い気がする。
そう提案したところで聞き入れられるとも思えないが。
結果として、自分の意思は飲み込むしかないのが少し面白くない。
気の合う友人と出かけるのなら、多少疲れていても気にはならないのだが。
お互いに気が合わないとわかっている相手と連れ立つ祭り見学など、せっかくのお祭り気分も半減だ。
「あら、可愛い。こっちも綺麗……」
露店に並べられたアクセサリーに気を取られ、カーヤの足が止まる。
あれもこれもと手に取っては自分の髪や胸に当ててみて、購入にいたるほどではなかったのか、元の位置に戻すということを繰り返す。
……お手ごろ価格だね。子どもでも買えそうな値段だ。
むしろ、子どもの小遣い目当ての露店であろう。
素朴で可愛らしいアクセサリーなのだが、大人の女性が付ける物としては物足りない。
……私でも買えそう。
小遣いは館を出る前にレオナルドが別で持たせてくれた。
そろそろ買い物もできるように、と。
ただ、レオナルドと一緒に行動している間はすべてレオナルドが払っていたので、私の財布からは一度も出していない。
……数字は覚えたから、買い物ぐらいひとりで出来るよ。
タビサにくっついて市場を覗くことがあるので、数字は自然に覚えることができた。
通貨についても説明してもらったので、買い物だってできるつもりだ。
……おかげでレオナルドさんが渡してくれたお小遣いが、子どもが持つには不釣合いな金額ってのも、理解できてます。
持っていることが少し怖いぐらいの金額だ。
とはいえ、少しは使っておいた方が良いかもしれない。
買い物の練習もしたいし、何も買わずに帰ればまた遠慮している、とレオナルドに受け取られる可能性もある。
何かいいものはないかな、と本腰を入れて商品を眺め始めると、カーヤの興味が別へと移って時間切れだ。
今は保護者がカーヤなので、カーヤから離れるわけにはいかない。
その後も次々と露店を冷やかすカーヤに付き合い、何件もの露店を覗く。
レオナルドとの買い物は食べ物の屋台が中心だったが、カーヤとの買い物はアクセサリー屋がほとんどだ。
……カーヤは楽しそうにお買い物してるね。
それも、レオナルドの財布で。
私に何か美味しいものを、と渡した財布なので、私のお守りをしている間はギリギリ許容範囲かもしれないが、それにしても買いすぎである。
レオナルドは太っ腹というか、考えがないというか、ある意味心配だ。
カーヤという人間と少しでも付き合っていれば、財布を預けてはいけない人間の筆頭に名を挙げるだろう。
それほどの散財っぷりだ。
レオナルドの財布を使った買い物が終わったかと思うと、カーヤが次に入った店は酒場だった。
……えぇええええええええ!? 子連れで酒場!? いいのっ!?
子連れで躊躇いもなく酒場に入る神経にも驚いたが、その時間帯にも驚かされる。
今は夏で日が長いから、日暮れは七時すぎと遅い。
そしてレオナルドと別れたのが三時を過ぎた時間で、露店を一時間近く覗いていた。
つまり、まだ日は高い時間帯なのだ。
真っ昼間とは言わないが、それでも昼間から酒場に入ったことにかわりは無い。
……レオナルドさん、絶対人選間違えたよ。
こんなことならば、もっと強く辞退しておけば良かった。
辞退どころか、我儘と受け取られようが、面倒な子どもと思われようが、断固抵抗して館に逃げ込むべきだったかもしれない。
「なんだカーヤ、いつの間にこんなデカイ子を産んだんだ?」
「アタシの子じゃないわよ。預かってんの」
酒臭い大男に覗き込まれ、不本意ながらカーヤの後ろに隠れる。
スカートを掴んで皺を作ってやると、それに気が付いたカーヤに手を払われた。
「祭りの日に子守の仕事かよ。どーいう風の吹き回しだ?」
「今狙ってる男の妹なの。ちょっと、あんまり変なコト吹き込まないでよ」
別の赤ら顔の男に顔を覗き込まれ、反射的に数歩後ろに下がる。
カーヤと距離が離れると、それを待っていたかのように大男がカーヤの肩に腕を回した。
そのままテーブルにつこうとするカーヤに付いて歩くと、カーヤ本人に拒否される。
「アンタはあっちでジュースでも飲んでなさい」
……えぇっ!? それが子守を引き受けた人の台詞なの!?
呆れてポカンっと口を開くと、焦れたカーヤに無理やり体の方向を変えられた。
カーヤに背を向ける形で指差された先を見ると、苦笑いを浮かべた店主らしき男が手招きしている。
……あ、なんかあっちの人の方が安心できそう。
酒場で荒くれ者の相手には慣れていそうな風貌の店主に、なんとなく親近感を覚える。
筋肉のある太い腕が、レオナルドに似ていてホッとするのかもしれない。
手招かれるままにカウンター席へ座ると、フルーツジュースが出てきた。
「お嬢ちゃんも大変だな。よりにもよってあのカーヤに預けられるとか」
突然酒場へと連れてこられたかと思えば放置されている私に、店主は同情的だ。
ポツポツと聞かせてくれるカーヤの様々な武勇伝に適度な相槌を打ちながら、内心でレオナルドに愚痴る。
……ほら、やっぱ子ども預けたら絶対ダメな人間だったよ!
レオナルドの聞いたという評判は、決して間違いではなかった。
母親は優秀な家庭教師として有名であったし、その娘もまた家庭教師として評判が良い。
ただし、下の娘は、とおまけが付く。
カーヤは三人
そして、カーヤの評判自体はというと、すこぶる悪い。
少し酒場の隅に座っているだけでいろいろな話が聞こえてきた。
二度の出戻りで婚家を散財で潰し、現在も借金塗れ。
子どもの頃からスリや盗みはそれこそ日常的に行っており、少し知恵が付いてくると
……これは黒かな。この間の、タビサさんが髪飾り探してたの。
限りなく黒に近いとは思うのだが、子どもの頃に悪さをした、という評判を聞いただけで黒と決め付けるのはよろしくない。
証拠もなしに罪を糾弾することはできないし、もし違った場合は失礼にもほどがある。
現行犯逮捕か証拠を揃えなければ、こんな噂を聞きました、とレオナルドの耳に入れるのも憚られた。
……でも、とりあえずカーヤが私を放置できる理由はわかった。
初対面の印象が最悪で、私はカーヤとろくに会話をしていない。
挨拶程度にやっと会話をしたと思ったら舌っ足らずで『にゃ』や『にょ』と出てくるので、まともにしゃべれないと判断されているのだ。
適当な仕事をしても、保護者に言いつけることはできないだろう、と。
私が何か言いつけたとしても、舌先三寸で自分の方がレオナルドを丸め込める、と高を括っているので、現在のような不真面目な勤務態度が取れるのだ。
……まあ、レオナルドさんにも言っているし、アルフさんにも相談したけどね。
レオナルドは話半分に聞き流していたが、アルフは何か調べてくれているみたいだ。
相談をした時、アルフは「また面倒な女に捕まったのか」と溜息をはいていた。
もしかしなくとも、レオナルドがこの手の女に言い寄られるのは初めてではないのだろう。
それに、今回は評判の良いのはカーヤの妹の方、という新たな情報を得た。
さすがにこの情報を伝えれば、もう一度カーヤについてレオナルドも調べてくれると思いたい。
耳を澄ませて噂話を仕入れるのは案外楽しかった。
私の相手を店主に丸投げしたカーヤだったが、店主に任せたのは正解だったと思う。
時折酔っ払いに絡まれそうになったが、そのたびに店主が酔っ払いを追い払ってくれた。
やがて祭祀の時間になったのか、カーヤに連れ出されて酒場をあとにする。
世話になった自覚があったので、店主にお礼を言い、店の名前は読めなかったので、場所だけはしっかりと記憶した。
昼間劇をやっていた広場は舞台が綺麗に片付けられ、中央には小さな舞台と劇の衣装や小道具が積み上げられていた。
雰囲気としては、キャンプファイヤーだろうか。
アニメや漫画の中でしか見たことがないので、少し楽しみだ。
館を出るのは早かったが、広場に来るのは遅すぎた。
すでに大勢の人が小さな舞台周辺を固めており、とてもではないが近づけそうにない。
レオナルドが挨拶をして火を灯す役を演じると言っていたが、今年は遠目に見るしかなさそうだ。
……あれ? あそこの黒騎士が手招きしてる?
警備のために立っていると思われる舞台正面の黒騎士が、こちらに向かって手招きをしていた。
なんとなく呼ばれている気がするのだが、違っていたら恥ずかしい。
判断に困ってカーヤを見上げると、カーヤは嬉々としてその黒騎士のもとへと歩き出した。
置いていかれても困るので、私もカーヤのあとに続く。
「こんばんは、カーヤ女史。レオナルド団長から話は伺っております。席を取っておきましたので、ティナちゃんと一緒にどうぞ」
「あら、ありがとう」
口の端を吊り上げてカーヤが微笑む。
黒騎士によって場所取りがされていると知っていたとは思えないが、機嫌は良さそうだ。
そんなご機嫌顔をしたカーヤに、黒騎士は僅かに首を傾げる。
……あ、お酒臭いのに気づいてくれましたか?
酒気に気がついたのなら、それをそのままレオナルドに報告してほしい。
私の証言では子どもの言うことだから、と適当に流されている気がするのだ。
……それにしても?
黒騎士に案内された場所は、若い女性が多い気がする。
昼間劇を少し覗いた時は正義の女神役の女性目当ての男の人と、子どもが多かったのだが、夜の祭祀は女性が多い。
夜の祭祀は女性受けするものがあるのだろうか、と考えていたのだが、その理由はすぐにわかった。
……おおう、レオナルドさんカッコイイっ!
大昔に罪を犯した男役ということで、衣装は正装だが古風な作りだ。
幾重にも布を重ねているが、作りは簡素で袖もない。
筋肉を纏った腕も、くっきりとした鎖骨も、厚い胸板までもが布の隙間から覗いている。
この肉体美に、若いお嬢様方は食いついているのだろう。
レオナルドが舞台に上がった瞬間に、周囲からうっとりとしたため息がもれ聞こえた。
……罪を犯した人って、王様か何かだったのかな?
レオナルドの髪はいつものように上げられているが、額にはいつもはないサークレットがある。
サークレットといえば、王冠の一種だ。
衣装の一つとして付けられているのなら、そういうことなのかもしれない。
乙女たちの熱い視線を一身に受けて、レオナルドは朗々と祝詞を読み上げる。
そして最後に舞台へと上がってきた司祭が松明をレオナルドへ手渡すと、レオナルドはそれで積み上げられた衣装や小道具に火をつけた。
これでレオナルドの出番は終了らしい。
舞台袖へと戻ろうとするレオナルドを見守っていると、ふと足を止めてレオナルドがこちらに振り返る。
これは私へ対してだとはっきり判るのだが、表情を緩めて微笑んだレオナルドに、周囲の乙女たちが絶叫した。
胸を押えてうずくまり始めた娘さんまでいる。
……レオナルドさん、もしかしてモテモテ?
自分に微笑んでくれたのだ、いいや私に対してだ、と争い始める乙女たちの中で、カーヤだけが自信たっぷりに微笑んでいる。
あの微笑は自分に向けられたのだ、と言わんばかりだ。
私の勘違いでなければ、レオナルドのあの微笑はカーヤに向けられたものではないので、その微笑もなんだか滑稽に感じる。
……レオナルドさん、こんなにモテるんだったら、なにもカーヤみたいなのに引っかからなくてもいいのにね。
引っかかっているというより、言い寄られている最中と言った方が正しいだろうか。
当分は私の世話でそんな余裕はないかもしれないが、その気になれば良いお嫁さんは選び放題な気がした。
……とにかく、これで夜祭終了だね。
ようやく家庭教師殿の仕事も終了で、館に帰ることができるはずだ。
そう安心したところで、広場が宴会会場に変わっていく。
先ほどまでレオナルドが祝詞を読んでいた舞台は片付けられ、丸いテーブルがいくつも広げられる。
折りたたみ式の椅子が何脚も用意され、あっという間に酒宴の準備が整った。
あとは皆で酒でも飲みながら、火が消えるまで見守るのだ。
「おーい、カーヤ! こっちで一緒に飲まないか?」
少し離れたテーブルから
家に帰るまでが遠足です、と私を館に送り届けるまでがカーヤの仕事だと思うのだが、カーヤはあっさりと男の誘いに乗ってしまった。
保護者であるという意識も、子守中であるという意識も、それが仕事であるという意識もカーヤには足りない。
「アンタ、一人でちゃんと帰れるわよね?」
「道あ判りましゅけど……」
やはり夜道を一人で歩くのは不安がある。
それに、今日は祭りだ。
酔っ払いがそこかしこに徘徊していて、普通の夜道よりも危険な気がする。
「子守のお仕事の途中やないれすか?」
「アタシがレオナルド様から引き受けたのは、アンタを夜祭見学につれて行くことだもの。もう祭祀は終わったわ。これから先はアタシの仕事じゃないわよね」
あとはもうどれだけ正論を並べても、無駄にしかならないと解かっている。
カーヤという女は、そんな女だ。
……レオナルドさんを見つけて一緒に帰るか、明るい道を選んで真っ直ぐに帰るしかないね。
広場の周辺でレオナルドを探してみたのだが、それらしい姿は見つからなかった。
祭祀をしていたのだから、どこかで教会関係者と集まって反省会等の集会をしている可能性もある。
すぐに見つからないのなら、無理にレオナルドを探すよりも一人で帰った方が早い。
そう判断してトボトボと一人帰る道は、なんだか空しかった。
……こんなことなら、聞き分けのいい子のふりなんてしないで、カーヤとお祭りなんて行きたくないってちゃんと言えば良かった。
今夜は通りのあちらこちらに明かりが灯されているので、夜道だというのに周囲は明るい。
酒宴の喧騒があたりを包み、静寂とは無縁の世界なのだが、一人で歩く夜道は何故かとても寂しかった。
子ども一人で夜道を歩くのは危険かと思っていたのだが、誰も一人で歩く子どもになど関心を向けてこない。
人は大勢いるのだが、世界にたった一人ぼっちになってしまったような錯覚までしてくる。
自分だけ別世界にいるような気分だ。
怖いよりも、寂しい。
お腹は空いたが、食べ物よりも人肌が恋しい。
早く誰か知っている人に会いたくて、早足で夜道を歩く。
時々、通りの角に立っている騎士や兵士に声をかけられた。
私はまだ全員の顔を覚えていないのだが、騎士たちは私の顔を覚えてくれていたようだ。
みんな笑顔で私の名を呼び、なぜ一人で歩いているのかと驚いた顔で聞いてきた。
折角なので、
何人かの騎士はカーヤの驚きの仕事っぷりに、自分が館まで送ろうかと言ってくれたが、断った。
警備として通りに立っているのだから、持ち場を離れるのは不味いだろう、と辞退してしまったのだ。
……寂しくて怖くて早く帰りたいくせに、まだ強がって一人で帰れますとか格好つけて、ホント私って面倒臭いっ!
自分のことながら、つくづく面倒な性格をしていると思う。
素直に甘えられないのは、中身は大人であるという自負のせいだと思っていたのだが、元の性格のせいもある気がしてきた。
早足でなんとか館の正門まで帰りつき、一人で戻って来たことに驚いた門番へ手短に経緯を説明しようとしたのだが、私の口から出てきたのは何故かレオナルドへの文句と暴言だ。
カーヤとなんて出かけたくないって言ったのに、と、遠まわしすぎてレオナルドには通じなかった本音が出た。
門番たちはそれで何かしらの異変は感じ取ってくれたのだろう。
二人いるうちの門番一人が正面玄関まで付いて来てくれたが、特に何も言わなかった。
バルトが開けてくれた扉から館に入ると、無言で三階にある自室へと向う。
兵児帯だけは外して靴を脱ぎ、ベッドに入るとジンベーの足を抱きこんで不貞寝を決め込む。
お腹は空いているが、今は自分とレオナルドに苛立ちすぎて何も食べたくはなかった。
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