第1章 メイユ村の転生幼女

第1話 異世界に転生しました

 これは所謂いわゆる前世での記憶になるのだが。


 最近の研究では、生まれたばかりの赤ん坊の視界はぼやけていて見え難いのだそうだ。

 まだ焦点をあわせることが出来ないとかなんとか、そんな説明もされていたが正確には覚えていない。

 ただ、実際に思考する自我がある状態で赤ん坊として生まれてみると、世界は不安で満ちていた。

 産まれたばかりは明るさに目がくらんだのだが、目が慣れてくると寝かされている部屋は薄暗い。

 両親だとわかる男女はいるのだが、顔がはっきり見えない。

 怒っているのか笑っているのかも表情が判らないので、とにかく不安で怖かった。


 赤ん坊なんて、泣くのが仕事のようなものだ。

 むしろ、それしかできない。


 自分の泣き声に父親はストレスを感じていないだろうか、母親は追い詰められていないだろうか。


 下手に知恵があるだけ、これらが不安になった。

 育児ノイローゼで虐待死とか、生まれ変わって早々は遠慮したい。

 苦しい思いをして、私が望んだわけでもないのに生まれてきたのだ。

 勝手に自分を産んだ人間に、理不尽に殺されたくはない。


 ……なんて思っていたコトもありましたよ。


 相変わらず視界は不明瞭なのだが。

 生まれて数日の心配は、杞憂に終わった。


 ……むしろ、泣かない方が心配されてほっぺを突かれまくるとか、どんな親馬鹿よ?


 前世の記憶があるせいで妙に気を遣い、今生こんじょうの両親の負担にならないようにと泣かず、ぐずらず、聞き分けよく、とお利口に過ごしていたつもりなのだが。

 手のかからない、おとなしすぎる赤ん坊に、両親は逆に心配をした。

 泣く元気もないほど弱い子なのか、と。


 そんな心配から、暇があれば両親は赤子わたしを構った。

 最初は私も我慢していたのだが、頬を散々に突かれた時、さすがに我慢も限界に達する。

 両親の育児ノイローゼは心配だったが、毎日のように頬を突かれてはたまらない。

 自分の平穏な睡眠と両親の安心のため、腹を決めて遠慮なく大音量でギャン泣く。

 手のかかる赤ん坊だと嫌な顔をされるかと思ったのだが、元気良く泣く赤ん坊に、父親は飛び上がって喜んだ。


 ……あの時、悟りました。今生の両親には多少迷惑をかけた方が喜ばれると。


 とはいえ、私には前世で成人を過ぎたという自覚がある。

 赤ん坊らしく振舞うことには、多少の恥じらいが付きまとった。


 ……我慢がまん。私、赤ちゃん。ギャンギャン泣くのが仕事。泣かない方が親は心配する。


 さすがに夜鳴きは控えるが、日中は遠慮なく、むしろサービスで赤ん坊の仕事をこなし、日々を平穏に過ごす。

 赤ん坊生活に慣れ始めると、少し気になることが出てきた。


 ……両親の言ってることが、ほとんどわからないんだけど……?


 これは私が赤ん坊だからだろうか。

 頭の上で交わされる両親の言葉、一日に何度も行われる私への呼びかけ、その全てが上手く聞き取れない。

 かろうじて聞き取れた単語は『ティナ』と言う、実に短い言葉だ。

 私に対して話す時に一番多く出てくるので、もしかしたら今生の名前かもしれない。


 ……明らかに日本人の名前じゃないよね? きらきらネーム? きらきらネームなの?


 そうでなければ、外国にでも生まれたのだろうか。

 前世は日本人だったので、あまり遠い国ではすぐに馴染める気がしない。

 家に引きこもっていられる赤ん坊だと言うのに、今から公園デビューが不安でしかたがなかった。


 それからさらに日々が過ぎて、ぼやけていた視界が次第に鮮明になってくると、両親の言葉が聞き取れなかった本当の理由が解った。


 ……異世界転生キタコレ!? 


 それとも無人島にでも漂着し、アダムとイブになった夫婦の下に生まれたのだろうか。

 鮮明になった視界には、照明器具など文明の利器は見当たらない。

 明かりは窓から入ってくる陽光のみ。

 どうりで部屋が常に薄暗いわけである。

 明り取りを意図した窓設計だとか、耐震設計だとかとは無縁そうな作りをした粗雑な部屋に赤ん坊である私は寝かされていた。

 どう考えても、現代日本の家屋ではない。


 ……言語が違うから、両親の言葉が聞き取れなかったんだね。納得。


 言語どころか、おそらくは文化から違う。

 今日も今日とて朝がきて、私の顔を覗き込んでは頬にキスの雨を降らせる両親を見上げ、内心で深いため息をはく。

 うまく生きていける気がしない。


 首が据わると、父は頻繁に私を抱っこしたがった。

 なんとか聞き取れた単語から、父の名前はサロ。

 服装はいかにも西洋ファンタジー物のモブキャラといった飾り気のない村人A的格好だったのだが、髪は明るい金色で豪華に波打つ癖が付いていた。目の色は紫で、体つきは痩せている。多少生活にくたびれた感は出ているが、整った顔立ちをしていた。


 ……実は貴族のご落胤らくいんです、て言われた方が納得の外見だよ。


 村人Aと考えるには豪奢すぎる実父に、母親の方は実に普通だった。

 母の名前はクロエ。

 ふわふわとした髪質の短い赤毛。目の色は茶色で、背は低めだ。

 綺麗というよりは可愛らしいといった顔立ちで、父と比べると、実に村人らしい村人だった。


 ……ただ、言葉遣いはすごく綺麗な気がする。たまに赤ん坊の顔を見に来る村の人と比べると、聞き取りやすさが全然違うもん。


 標準語と方言ぐらいの差だろうか。

 両親と村人の言葉は、少し違う。


 ……都会育ちの若者が駆け落ちして田舎に来た、ってところかな?


 赤ん坊は寝るか食べるかしか出来ることがないので、仕入れた情報を百にも二百にも膨らませて想像する。


 むしろ妄想する。

 他にできることがないのだ。


 自分では満足に何もできない赤ん坊となってしまった成人済みの人格としては、何かしていなければ無為すぎる時間の山に殺されてしまいそうだ。

 さすがに今生の両親を妄想のダシに使うのはどうかと思うが、他に登場させられそうな人間を今の私は知らない。

 赤ん坊の狭い世界でのことである。

 見逃してほしい。


 掴まり立ちができるようになる頃には、両親の言葉はだいぶ聞き取れるようになった。

 一度「お父さん、お母さん」と呼びかけて見たのだが、口から出た言葉は「ぱぷー、まうー」という、舌っ足らず以前の物だった。

 赤ん坊の声帯は、頭で理解したままにはしゃべってくれないらしい。

 私としては不満だらけの第一声だったが、両親は大騒ぎして喜んでいたのでよしとしておく。


 ぽてぽてと歩き出す頃には多少マシに話せるようになったが、本当に『多少マシ』というレベルである。

 これはたぶん、日本人として生きた前世の記憶がある弊害だ。

 耳から拾った両親の言葉を、どうしても頭が一度日本語に変換してしまい、そのタイムラグから返事をするまでに時間がかかる。

 英語を聞いて、頭の中で文章におこし、文法等を並び替えて日本語に直し、意味を理解する。理解できた言葉の返信が日本語で浮かび、文法を整えて英語に直し、それを英語で伝える。

 イメージとしてはこんな感じだ。


 これに加えて、発音が苦手な日本人特有の照れもでる。

 結果として、自分にできる会話方法は片言トークとなった。

 要点のみを単語としてあげると、多少発音がおかしくても相手が考えて私が何を伝えたいのかを察してくれる。

 実に他人ひと任せな会話法である。


 ……異世界転生、良いことばっかじゃなかった! 日本生まれって記憶が足引っ張ってるよっ!?


 失敗を極端に恐れる日本人に、前世の知識を持ったまま異世界転生はちょっと難易度が高かった。

 自動翻訳などという便利な機能は存在しない。

 あるとしたらどんな仕組みで作られているのか、どこにあるのか、誰が作ったのか、何故主人公がそれを扱えるのか等、百人中百人が納得する説明を聞かせてほしい。

 とにかく現在の私が置かれている状況において、そのような便利なものは存在しなかった。


 片言トークではあったが、意思の疎通は可能だ。

 まずは両親とおしゃべりをしながら言葉を覚えていくのが良いのだろう。


 自分の発音は大丈夫だろうか。

 意味の捉え方は間違っていないだろうか。

 自分の伝えたい言葉は、文法は正しいのだろうか。


 そんな事を考え出したらきりがなく。

 結果として無口な幼児に成長した。

 両親はしゃべりが遅いと心配しているが、さすがに年単位で別言語だけの世界にいれば、聞き取りはできるようになった。


 多少自由に動けるようになり、家の手伝いができるようになってくると、まず始めたのは掃除だった。


 ……母さんもマメにお掃除する人だけど、几帳面な日本人からしたら大雑把で遣り残しが多くて気になるんだよね。


 部屋の掃除もだが、全体的に衛生面が気になる。

 手をいつ洗ったのか、生活水は井戸水を使っているが飲んでも大丈夫な水なのか、寄生虫の有無とか大丈夫なのだろうか。そんなことよりお風呂に入りたい、髪を洗いたい、服は毎日洗った清潔なものを着たい等々。

 一つが気になると、全てが気になり始めた。


 ……母さんは「薪がもったいない」って言うけど、自分が使う分は自分で集めてくるから、文句言わないでよ。


 効果に絶対の自信はなかったが。

 何もしないよりは、やった方が少しだけ安心できる。

 毎日の手洗いと飲み水は、一度沸騰させて煮沸消毒してみた。

 こうしておけば、井戸水になにか怖い寄生虫がいたとしても殺せるだろう。たぶん。

 昔テレビ番組で『湖で泳いで遊んでいた子どもが寄生虫に侵入されて死んだ事件』を取り上げていたのを覚えている。

 ここでは現代日本のように機械や薬品で井戸水の安全性を確認することはできないのだから、思いつく限りで実行可能な自己防衛はしておきたい。


 薪集めと水汲みで家の外に出るようになると、少しだけ世界が広がった。

 話すのはまだ難しかったが、聞き取りはできたので、村人同士の会話も理解できる。

 村長のジャコブ老人は強欲でけちん坊だとか、村長の家が立派なのはダルトワ夫妻の犠牲のおかげだとか、井戸端で奥様方が噂しているのを知っている。


 ……村長の家って、あれで立派なの? うちと大差ないと思うんだけど。


 現代日本人の感覚をもって見ると、村人に立派だと妬まれる村長の家も、多少広いだけで貧しい今生の我が家と大差ない。

 奥様同士の会話に耳を澄ませていると、村長の家が立派になったのはダルトワ夫妻が子どもを失った原因にも関係しているらしい。


 ……ダルトワ夫妻って、オーバンさんとウラリーおばさん?


 井戸端会議の会話から噂の中心人物を察し、首を傾げる。

 時折挨拶を交わす程度の関係だったが、穏やかで感じの良い夫婦だ。

 自分の印象としては『感じの良い夫婦』なのだが、ダルトワ夫妻は村の中で少し浮いていた。

 集会などの集まりに呼ばれないし、村人と挨拶はするが談笑をしている姿など見かけたことがない。

 感じていたことをはっきりと言ってしまえば、消極的にけ者にされている気がしていた。

 いわゆる村八分むらはちぶという奴だ。


 その原因が、村長コレだったらしい。

 二十年ぐらい前に農作物が病気で全てダメになり、村長が村の子どもを売って得たお金で他から食べ物を買い、村人は窮地を乗り切った。

 その時、多少あまったお金で村長は自宅を建て直し、子どもを失うことになった夫妻にはなんの補償もしなかったそうだ。

 最初のうちは村人も夫妻を気にかけていた。が、子どもを失った夫妻の心がそう簡単に晴れるはずもない。やがて『喉元過ぎれば熱さ忘れる』とばかりに村人は夫妻の子どもを犠牲にして生き延びたことを忘れ、いつまでも落ち込んでいる夫妻を煩わしく思い、排斥し始めたのだと言う。


 ……夫妻の意思で売ったんならともかく、村長が他人の子どもを売って、あまったお金で自分の家を建てるって、おかしいでしょ。なにそれ。


 売られた子どもの意思も気になるが、それよりも村長と村人のあまりの厚かましさに驚いた。


 ……やっぱ、あの村長なにかあるよね?


 薪拾いに出歩くようになり、時折顔を合わせるようになった村長の顔を思い浮かべ、眉を顰める。

 嫌われ者の村長ではあったが、何故か私には親切である。

 顔を見るなり「痩せているな」と心配顔を作り、「ちゃんと食べているか?」「うちの子になれば菓子をやろう」「まずは遊びにおいで」と言う。

 パターンは色々あるが、どれも要約すれば「自分の家の子になれ」という誘い文句だ。

 今のところあまりにも怪しすぎて誘いは全て断っているが、どうやら正解だったらしい。

 のこのこ村長の家に上がり込んだら、人買いが待っていそうだ。


 ……だいたい、マルセルのいる村長の家になんて、遊びに行きたいわけないじゃん。


 顔を見るとすぐに私をいじめにくる村長の孫の顔を思いだし、その顔を思考から追い出す。

 マルセルはどうやら私のことが好きらしい。

 顔を見ればつけまわし、髪をひっぱり、腕を力いっぱい引っ張ってくる。

 男児は好きな子ほどいじめるらしいが、いじめられる側からしてみれば迷惑な話だ。

 そもそも、なぜ好きな子をいじめるのだろうか。

 いじめられてそのいじめっ子を好きになるわけがない、と本当に気づかないものだろうか。

 最近では相手をするのも億劫で、わざとマルセルを避けて行動している。

 もう少し体が大きくなったら、薪でおもいきりぶん殴って二度と近づこうだなんて思えない目に合わせてやるのもいいかもしれない。


 両手に持てるだけの薪を拾い、台所のある裏口から家に入る。

 居間へと続く扉から、珍しくも言い争う声が聞こえた。


 ……夫婦喧嘩? めずらしい。


 今生の両親は基本的にラブラブだ。

 娘の前だからといって自重する、ということはない。

 常にラブラブで、いちゃいちゃとしている。


 ……違う。村長だ。ついに家にまできやがった。


 居間から聞こえる声の中には、少ししわがれた老人の声が混ざっていた。

 扉に耳をつけ、居間での会話を盗み聞く。

 内容を大雑把に纏めると、『子どもを渡せ』というものだった。

 もちろん、もう少し言葉は装飾されている。

 主張としては『痩せていて可哀想』『満足な食事も与えられていないのではないか』という恩の押し付けがメインだ。


 それに反論する両親の主張は、初めて聞く内容だった。


 曰く、うちの蓄えが少ないのは、村長の嫌がらせのせいだったらしい。

 畑は狭く、畑を作った時の整備もずさんで石や木の根などの障害物が多く残り、水路を使う順番は毎年最後に回され、畑の作物が芽を出すのが遅く、十分に育つ前に収穫を迎えることになる。

 せめて毎年水路を使う順番をくじ等で調整してくれ、という父の主張を、村の新参者に対する当然の扱いだ、と村長は一蹴した。


 ……あの糞爺、貧乏で可哀想だから子どもを寄越せって言っときながら、その貧乏は故意に仕向けていたのか。


 これはどう考えても計画的な犯行である。


 ……さて、どうしてくれようか。


 証拠を残さず、かつ自分の良心が痛まない程度の復讐方法を思案する。

 理想的なのは村長がお隠れあそばれることだが、さすがに殺人犯になどなりたくはない。望むとしても自然死だろう。


 ……憎まれっこ世にはばかる、って言うしね。ああいうのはなかなか死なない。


 どうすれば両親への嫌がらせをやめさせられるだろうか。

 思いつく限りで穏便かつ証拠などを気にする必要がない方法を考えているうちに、両親は村長を追い出すことに成功したらしい。

 最後まで娘を差し出すという選択をしなかった両親に、村長は悪態を付きながら去っていった。


 ……村長がうるさくなくなったのは良いんだけど。


 村長を追い返して以来、わかりやすく我が家は村八分にされた。

 普段は横暴でケチな村長に対して陰口ばかり囁いている村人も、一応は村長を立てているらしい。

 村人は畑仕事の手が足りない、と言っては両親に自分たちの畑を手伝わせ、そのせいで仕事が遅れるうちの畑の手伝いはしてくれない、という素敵な屑っぷりだ。

 なんでそんな目にわされても村人の畑を手伝うのか、と両親に聞いたら、自分たちは村では新参者なので仕方が無い。今は恩を売るべきだ、と言うような内容を幼児向けにやわらかく答えられた。


 ……本当に、どうしてくれようか。


 やられっぱなしというのは面白くない。

 なんとか村長を排斥できないものだろうか。

 そうは思うのだが、言葉も自由に操れない、満足に物を運べる力も無い幼児の身では、できることは限られている。


 ……まあ、村八分になったおかげで、良いこともあったけどね。


 以前は会えば挨拶を交わすぐらいだったダルトワ夫妻。

 その夫妻と、最近我が家は交流がある。

 村八分仲間とでも言うのか、村長に嫌われた一家同士で仲が良い。

 今ではお互いの畑を手伝いあうようになり、村では意外に発言力があった夫妻が水路を融通してくれるので、格段に畑の生育がよくなった。


 ……おかげで、ちょっと背も伸びました。


 畑の収穫が少し増え、食べられる量が増えたおかげか、私の背が少し伸びた。

 これまでは年齢よりも小さく見られたのだが、今は少し小さい程度だ。


「ティナちゃん、もっとお食べ」


 そう言って、ウラリーおばさんは蒸し芋をお皿に載せてくれる。


「おじさんの玉子もやろう」


 ウラリーおばさんに対抗するように、その夫のオーバンさんが玉子焼きを一切れお皿に載せてくれた。

 山盛りになった蒸し芋と玉子焼きの載った皿を見つめ、内心で溜息をはく。


 ……可愛がってくれてるのは解るけど、豚になるよ。


 こんなにお腹に入りません、とちゃんと断ったこともあるにはある。

 が、子どもが遠慮なんてするものじゃない、と笑い飛ばされて終わった。

 出されたものは全て食べなければ、と最初のうちは頑張って食べていたのだが、皿をからにすれば「まだ足りないかしら?」と追加されるのだ。

 礼儀に反する気はするが、少しお皿に残すのが、ダルトワ夫妻との食事では必要だと学んだ。


 最近は一人で村の中を歩いていると村長を含む村人に誘拐でもされるんじゃないかと警戒して、両親は決して娘を一人にしなくなった。

 一人で家に残される時はダルトワ夫妻に預けられる。

 そうすると夫妻は我が子のように可愛がってくれるのだが、ちょっと行きすぎな気がしないでもない。


 ……売っちゃった子の代わりかな?


 たまにそう思うのだが、さすがにそれを指摘したことはない。


「村長には気をつけて」


 食後、満腹からうつらうつらと半分眠っていると、頭上でダルトワ夫妻と迎えに来たらしい両親の声が聞こえる。


「あの時もそうだった。ある日村長が勝手に外から人買いを呼んで、連れて行かれるのよ」


 ……それ、どうしようもなくない?


 半分眠りつつも、内心で突っ込みを入れる。

 村長の行動をずっと見張るのは難しい。

 勝手に人買いを呼ばれるのは防ぎようがない気がした。


 ……でも、だからって素直に売られてやる理由もないよね?


 ダルトワ夫妻の子は、なぜ村長の意思で売られたのだろうか。


「村人全員が助かるためには子どもを売るしかないって状況になっていた。人買いまで用意されて、村人全員に囲まれて、自分の子だから手放したくないだなんて言わせてもらえなかった……っ」


 ……つまり、状況に脅迫されたのか。


 我が子は手放したくないが、多くの村人の命がかかっている以上、村と言うコミュニティに暮らしていては嫌だとは言えなかったのだ。

 色々と腹の立つ村長ではあるが、一応村を纏める者としての仕事はしていたらしい。


 ……私が狙われるのは、新参者の娘だからかな?


 なんだかんだと嫌がらせを受けているわりに「恩を売るべきだ」と言っては村人に良い様に使われている両親に、いざという時の貯えとして狙われているのだろうと理解した。


 ……でも、ホントに村人の生活を守る村長だってんなら、まず自分の子とか孫を売りなよ。

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