第4章
『但しくれぐれも内密に願いますよ』彼女は上目遣いに俺を見ながら、探るような口調で話し始めた。
『こう見えてもプロの探偵です。守秘義務ってやつの何たるかくらいは心得ています』
俺はそう言い、ICレコーダーを取り出してスイッチを入れる。
最初、原本のままの装丁とデザインで出版する予定だった。
当然イラストや挿絵も元のまま。
しかしここで思わぬ横やりが入った。
RQシリーズの日本法人は、元々別の大手出版社が多額の出資を行って設立され、版権の独占も
彼女としてはあのままのデザインとイラストで行きたかったのだが、何時の世も”上からのお達し(昨今のことだ。”忖度”というべきか?)”には逆らえなかったんだろう。
結局、表紙イラストと挿絵は、日本の漫画家とイラストレーターに頼むことになり、版権を所持している米国には、上手く言いくるめたらしい。
有名、無名を問わず、幾人かの漫画家やイラストレーターがラインナップされ、
新たに刷りなおして出版。
最初はファンからの危惧も予想されたが、しかし流石に”漫画の国”の事だけはある。
これが思った以上に好評で、売れ行きも上々。
ただ、一つだけ問題があった。それがこの”ふたたびの想い出”だった。
この作品だけは不思議なことに、なかなか画を担当する作家が決まらない。
誰が描いても、上からの了解がとれないのだ。
彼女も上も、頭を抱えてしまった。
切羽詰まった彼女は、あちこちを回り、ついに”これは”という作家を見つけた。
はっきり言って無名の作家だった。
メジャーな雑誌には一度も載ったことがなく、マイナーな雑誌、それもあまり口に出せないような・・・・まあ、言ってみれば、コミケなんかで売られている”薄い本”に、多少毛が生えた程度の作家だったという。
『それでも、もう切羽詰まっていましたからね。こっちとしても仕方がなかったんです』
勿論ペンネームも変え、絵柄も多少修正して貰い、ようやく出版にこぎつけた・・・・という訳だ。
俺はそこでレコーダーのスイッチを切り、彼女の目を見つめた。
向こうは不思議そうな目で俺を見返す。
『有難うございました。で、その”彼”の名前と住所を教えて貰えませんか?』
『な、何故それを・・・・』
『マイナーな雑誌、それに薄い本に毛が生えた程度向きの漫画家・・・・そんなところに女性が描いているなんて、どう考えても変ですからね。私は探偵でもあり、男でもあるんです。その位のカンは働きますよ』
彼女は観念したように頷き、それからまた、
”絶対に他所には漏らさないでください”を繰り返した。
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